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2章
第35話 門と呼ばれる建造物
漁師村で一夜を明かした俺達は、少々びくびくしながら部屋を出た。
そろ~と扉を開け――開けた瞬間に村長がいないか心配だったが、今回に関しては杞憂だったようだ。
「おはようございます。朝食は食べますか?」
宿の店主に問われ、一瞬だけ悩んだ。
しかし、空腹には耐えられない。隣にいるシエルの腹からも「ぐう」と音が鳴ったしね。
因みに朝食も簡単な魚料理が出て美味しかったのだが、金額は銀貨三枚だった……。
「今日こそは入り江に行こう」
「そうですわね」
早いところ調査して退散したい、というのが本音だ。
俺達はそそくさと浜辺に移動する。
「綺麗ですわね」
白い砂浜と青い海、何とも素晴らしい景色だ。
海の上には複数の漁船が浮かび、村の男達が朝から漁を行っている。
後ろを振り返ると、村の女性陣達が漁で獲れた魚を仕分けしつつ、適切な処理方法で保存の準備を行っている様子も見られた。
「お? あんちゃん達、もしかして昨日村に来た人達か?」
綺麗な海を眺めていると、パイプを咥えた中年男性に声を掛けられた。
「ええ、向こうの入り江に行きたくて」
船を出してくれそうな人を探していました、と告げる。
すると彼はニコリと笑い――村人の笑顔には若干嫌な予感がしたが、彼は浜辺に上げられていた小舟を指差した。
「オラが連れてってやるよ。漁も終わったしな」
「ありがとうございます」
……金、取られるのかな?
そんな心配をしながらも、俺達は男性の後に続く。
海に浮かんだ船に乗り、ゆっくりと入り江を目指して進み始めた。
「入り江の洞窟にある門とやらは、昔からあるんですか?」
「おお、この村が出来る前からあるっちゅう話だべ」
この村が出来たのはヴェルリ王国建国から一年後。ほぼヴェルリ王国の歴史と同等と言ってもよい。
門とやらはそれ以前より存在しており、建国前のヴェルリ民族時代から確認されていたという。
「昔からここいらに住むオラ達のご先祖様は、あのトリイを崇めてたっちゅう話だ」
「トリイ?」
「おお、今から見に行く門だよ。ケンスケが言うにはトリイって名前なんだとさ」
ケンスケ――例の冒険者か。
彼は門の正式名称? を知っているようだが、一体何者なのだろうか?
「よーし、到着だべ」
そんなことを考えていると、入り江に到着した。
浜辺に船を押し上げて停泊させると、俺は改めて洞窟を見上げる。
「……かなり大きいですね」
入口の大きさは高さ二十メートル以上かもしれない。
横にもかなり広く、これが自然的に作られたこと自体が神秘的だ。
「すっげえ大きいだろう? 昔は土の精霊様が手で穴を開けたって言われてたんだべ」
子供が砂遊びで作った土の山に対し、手ですくうように穴を開けた。
この土地にはそんな伝承が残っているようだ。
「早速中に入ってみよう」
「え、ええ」
洞窟の中に進入するが、後ろに続くシエルはチョコンと俺の服を摘まみながら進む。
遺物遺跡でのトラウマが蘇ったのだろうか? いや、元々暗い場所が怖いだけかな?
ただ、洞窟の中は想像以上に明るく灯りは必要としなかった。
その理由は天井にある。
洞窟の天井には僅かな隙間があり、そこから太陽の光が差し込むのだ。
差し込む光を追いながら目線を下にやると――神秘的な門があった。
「……何だか神々しいですわね」
「分かる」
太陽の光を僅かに浴びる超巨大な門。天井にまで届きそうなほど巨大。
トリイと呼ばれたそれは、荘厳な雰囲気を纏っていた。
見ているだけで鳥肌が立ってしまうような神聖さがあり、じっと見つめていると……。トリイの傍だけ別世界のように感じてしまう。
「近付いてみよう」
トリイへと近付いて行くと、構成する材質が判明した。
これは綺麗な灰色の岩を削って作られているようだ。
二本の足、上部にある二本の柱で作られた屋根? も。全て岩を用いて作られている。
「……こんなもの、人に作れるのか?」
巨大で長い岩の一本柱を作るにはそれ相応の大きさを持つ岩が必要だろう。
それらのパーツを何本も用意して、更には組み上げて設置するのだ。
存在する場所も含めて、人間の仕業とは思えなかった。
「英雄ポアンはこれに興味を示していたという話でしたわね?」
「ああ。だが、興味を惹かれるのもわかるよ」
荘厳で神々しい。
しかし、異様だ。
まるでこの世界の物とは思えないほど異様である。
「門を通り抜けたらどうなるんだろう?」
岩の柱をペタペタと触っていた俺は、トリイを潜って向こう側へと進んでみた。
その瞬間。
―――!
俺の全身に向かって強烈な風が吹き荒れたような感覚が走る。
思わず目を瞑ってしまったが、目を開けると――そこにはピンクと白の小さな花びらが舞う景色があった。
花びらが舞う中には奥へと続く一本の道があり、等間隔でいくつものトリイが並んでいる。
並んでいるトリイの先には強烈な光が発していたのだが、それは徐々に弱くなっていく。
やがて見えたのは『黄金』だった。
黄金の何かが見えた。
「――ハッ!?」
我に返ると、目の前にあった景色が消えている。
景色は洞窟の中に戻っており、俺は思わず何度も周囲を凝視してしまった。
「どうしましたの?」
シエルに問われて振り返ると、彼女はキョトンとした表情で俺を見つめている。
「……門を潜ってくれないか?」
「え? 構いませんけど?」
シエルは首を傾げながら一歩、二歩、三歩と足を進めてトリイを潜る。
「……潜りましたけど?」
しかし、彼女の態度や表情は変わらない。
あの異様な景色を見なかったようだ。
「トリイを潜った瞬間、何か変な感覚に陥って……。こことは違う別の景色が見えたんだ」
「別の景色? 私は何にも見えませんでしたけど?」
あれは一体何なんだ? 俺が見たものの正体はなんだ?
「もしかして、英雄ポアンも貴方と同じ体験をしたんじゃなくて?」
不思議な感覚、不思議な景色、異様な体験をしたことで興味を持った……のではないか、と。
「あり得る」
俺の頭がイカれていなければ、だが。
しかし、これが「正しかったら」どうだろう?
英雄ポアンが俺と同じ体験をしたことで、聖杯を隠す旅に影響を与えたとしたら?
熱心にトリイを調べていたという事実にも納得がいく。
「ポアンはあの景色を探して旅を続けていたのか……?」
だとしたら、彼は辿り着いたのだろうか?
その答えは英雄の辿った足跡に残されているはず。
「一旦、村に戻ろうか」
「わかりましたわ」
引き返そうとトリイの柱に触れた瞬間、手に違和感を感じた。
「ん?」
違和感の正体を調べようと視線を向けると、何か柱に彫られている。
「これは文字……か?」
文字らしきものが掘られているが、俺には読めない。
『 戸 京 桜並木 義』
しかも、いくつか文字らしきものが潰れて消えかけている。
これもヒントになるのだろうか?
「どうしましたの?」
「ああ、すまない」
俺はシエルに駆け寄り、二人で洞窟を後にした。
外に出ると、俺達を乗せてくれた男性が船の傍に座りながらパイプを吹かしている。
彼は俺達が戻って来たことを見つけると、ニコリと笑って手を挙げた。
「どうだった? すごかったべ?」
「ええ。想像以上でしたよ」
感想を口にすると、男性は「そりゃ良かった」と満足気に頷いた。
「英雄ポアンは、このトリイを調べてから旅立ったんですよね?」
「そうだぁ。爺様の話だと一週間くらい村にいたって話だがな。それから南に向かって旅立ったそうだよ」
南に向かった、という点は事前に調べていた情報を一致する。
やはり、次の目的地は大陸南端の国か。
「んじゃ、戻るべ」
「はい」
次の目的地に向かう準備をしないと。
俺達は船に乗り込み、村へ向かって海を渡り始めた。
「ん? 何だか海が荒れてきたな」
船を操作する男性は高い波を作る海面を睨みつけながら言った。
だが、強い風が吹いているというわけでもない。
天気が変わる予兆?
これは普段から海で漁を行う漁師特有の感覚なのだろうか?
さすがは漁師だな、なんて内心感心していたのだが――次の瞬間、先から急に大きな波がやってきた。
「うわっ!」
「きゃあ!」
「こりゃまずい!」
船が転覆することはなかったが、波が到達すると俺達の乗った船が跳ねたんじゃないかと思うくらい船が暴れた。
男性は大急ぎで船を動かし、村の浜辺に向かって行く。
浜辺まであと数メートルというところで、浜辺にいた女性陣が大きく手を振りながら叫び出す。
「後ろー!」
「早く浜辺に!」
後ろ? 早く?
俺達三人が揃って後ろを振り返った瞬間、海面がもっこりと膨れたのが見えた。
海に山ができた。
そんな感想を抱くほど大きな何かが海面から現れる。
「あ、ありゃあ!」
海面から姿を現したのは、大きく太い触手。それが何本も姿を現す。
遅れて露わになったのは、巨大なイカの頭部だ。
「ク、クラーケンだぁぁぁッ!!??」
「デ、デカすぎますわぁぁぁ!?」
男性とシエルの絶叫が海に轟いた。
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