37 / 57
2章
第36話 恐怖! クラーケン出現!
海面からそそり立つ巨大な触腕とクラーケンの頭部に圧倒されていると、巨大な頭部にあった目がギョロッと動く。
クラーケンの視線は確実に俺達へと向けられていた。
その証拠にクラーケンの触腕がしなり、海面へバヂンとぶつけられたのだ。
「きゃあああ!?」
「掴まれ! 手を離すな!」
大きな波が俺達を乗せた船を揺らす。
船が転覆しそうになるも、なんとか耐えることができた。
「すぐに陸地へ!」
「お、おう!」
俺は漁師の男性と一緒になって船を漕ぐ。
振り返る暇もなく、必死になって船を漕ぎ続けた。
陸地まであと数十メートル。頭上には大きな影が差す。
これでは間に合わない。
「海に飛び込め!」
「えっ!? ええっ!?」
漁師の男性は俺の意図を理解したようで、すぐに海へ向かってジャンプした。
シエルは困惑していたが、俺は彼女の腕を掴んですぐさま海へ飛び込む。
海の中に潜りながらも船に視線を向けると、クラーケンの触腕が船に巻き付くのが見えた。
木造の船は簡単に握りつぶされてしまい、あのまま船に乗っていたらどうなっていたかと考えるだけでゾッとする。
「ぷはっ! シエル、俺の体に掴まれ!」
「は、はひ! はひ!」
シエルを連れて全力で泳ぎ、何とか浜辺まで辿り着くことができた。
同じく漁師の男性も無事に逃げることに成功したようだ。
「ク、クラーケンじゃあ! 本物じゃあ!?」
「そ、村長! ど、どうするんだい!?」
と、ここで村長が浜辺に到着。
あれだけ英雄ポアンの英雄譚を「売り」にしていた村長だが、伝説の化け物を目の当たりにすると腰が抜けてしまったようだ。
「ど、どうするって……!」
英雄はもういない。
剣一本で海の化け物を殺す英雄は既にいないのだ。
「漁船が危ないんじゃないか!?」
クラーケンの背後には漁師達の乗った漁船が海に浮かんでいる。
まだクラーケンは漁船の存在に気付いていないようだが、向こうも迂闊に動けばクラーケンに気付かれてしまうと二の足を踏んでいるようだ。
このままではいずれ気付かれ、漁師達に被害が及ぶかもしれない。
「おじさん! まだ船はあるか!?」
「船!? ああ、あるが……」
漁師の男性は左手側に視線を向ける。
そこには使っていない小舟が四隻ほど浜辺に上げられていた。
「俺がクラーケンの気を引く! その間に漁師達へ浜辺に戻るよう合図を出してくれ!」
「わ、わかった!」
俺は小舟に向かって走り、四隻全てを海に向かって押す。
そのうち一隻に乗り込み、浜辺にいるシエルへ叫んだ。
「シエル! 魔法で援護してくれ!」
「え、援護って!?」
「例の魔法! 岩を貫通したやつだ!」
ヘンゼルの魔法を使え、と指示を出しつつ、俺は左指をパチンと鳴らす。
海に浮かんだ小舟の上でナイフを抜き、紫電の纏ったナイフを連続で投擲した。
ナイフはクラーケンの触腕にブスブスと刺さるが、これといって反応がない。ナイフの刺さった触腕も元気にウネウネと動き回っている。
予想はしていたが、ナイフ如きではどうにもならないか。
「だが、こっちはどうだ!?」
ナイフを投擲した際、クラーケンは避ける素振りすら見せなかった。
あれは人間如きが自分を倒せるはずがない、と過信しているのだろう。
だったら、剣も簡単に当たるはず。
紫色の光を放つ指輪を剣に擦り付け、紫電の纏った剣を槍投げの要領で投げた。
「―――ッ!!」
投げた剣は触腕を切断……とはいかなかったものの、触腕中央から突き破って貫通させることができた。
「まだまだッ!」
俺は伸ばした左腕をぐっと握りしめる。
貫通した剣が向きを変え、二本目の触腕を貫くことに成功した。
「―――!!」
こうなるとクラーケンの意識は俺に向く。
というより、ブチギレだ。
ギョロッとした目が険しくなり、無事な触腕が複数持ち上がる。
小舟ごと叩き潰してやろう、という考えだろうがそうはいかない。
「よっ!」
触腕が落ちてくる寸前、俺は別の小舟に飛び移る。
元々乗っていた小舟は木っ端微塵になってしまったがね。
「もう一度!」
再び剣を操作して、一度貫いた触腕を狙う。
三度目の攻撃でようやく触腕一本を完全に切断することに成功したが、当然ながらクラーケンも黙ってはいない。
先ほど以上に触腕を振り上げて、今度こそ俺を叩き潰そうとしてくるのだ。
次の小舟に飛び乗り難を逃れることには成功したが……。
「あと二隻か」
どんどん足場が無くなっていく。
追い詰められているのは俺の方だ。
「また来るか!」
小舟を足場にする方法はもうすぐ使えなくなるだろう。
何か別の案を考えないと。
そう考えていた時、振り上げられた触腕がバヂンバヂンと音を立てて破裂するように千切れた。
何かが触腕に当たった。
放たれた方向に顔を向けると、そこには中魔石を投げ捨てるシエルの姿があった。
「ど、どんなもんです! わ、私だってやる時はやりますのよ!?」
ガクガクと両足を震わせながらも気丈に振舞うシエルは、バッグの中から新しい中魔石を取り出して杖を構える。
そして、記憶結晶に魔力を流してもう一発魔法を放つのだ。
脅威の弾速はクラーケンも避けきれず、また一本触腕が破裂するように千切れた。
「よし!」
これならいけるかもしれない。
俺はシエルの攻撃に合わせて剣を操り、別の触腕を攻撃していく。
しばらくやられっぱなしのクラーケンだったが、ここで大きく動いた。
ヤツは海の中に潜り込み、そのまましばらく姿を現さない。
一瞬だけ「逃げたのか?」と思ったが違う。
「ルーク! 下ですわ!」
シエルだけじゃなく、浜辺にいる漁師達も「下! 下!」と指差していた。
海面に目を向けると、小舟の下に大きな影があった。
直後、複数の触腕が海の中から飛び出してくる。
「チッ!」
触腕が小舟に巻き付く前に別の船に飛び乗るが、乗っていた小舟は海の中に引き込まれてしまった。
足場はあと一隻。
しかも、向こうは海の中に潜ったままだ。
「イチかバチか……!」
俺は再び左指を鳴らし、紫電の纏った剣を空に投げる。
空に投げた剣に指輪を向け、剣が纏う紫電の出力を最大に。
小舟の下に見える影を狙って一気に剣を振り落とす。
シエルの魔法ほどではないが、最大出力の魔法を纏う剣はとんでもない勢いで海の中に消えていった。
直後、海の中で紫色の光が爆発。
鈍いガツンという音が聞こえてくると、同時にクラーケンが再び海面に体を露出させた。
露出と同時に剣の行方を探ると、どうやらクラーケンの胴体に突き刺さったらしい。
剣を手元に回収しようと紫電を操る。手元に戻ってはきたものの、どうにも反応が悪い。
「……チャージ切れか?」
紫電の指輪は使用した分の魔力を再チャージして使う遺物だ。
先ほどの攻撃で魔力をほとんど使ってしまったのか、纏う紫電の光が弱々しくなっている。
「ルーク! 魔石が無くなってしまいましたわ!」
シエルの方も魔石切れのようだ。
問題の漁船に視線を向けると、漁船は大きく迂回しながら浜辺に向かってきている。
このまま進めば無事に辿り着くだろうが、クラーケンに気付かれたら一気に沈められてしまうだろう。
となると、ここで俺が退くわけにはいかない。
……こりゃ本格的にマズい状況になってきた。
「ルーク! 攻撃が来ますわよ!?」
クラーケンが二本の触腕を大きく振り上げた。
俺を見る巨大な目は笑っているように見える。万策尽きた俺達を嘲笑うかのように。
海に飛び込んで逃げるしかないか、と覚悟した時――
「お兄さん、飛んで!」
浜辺から若い男性の声が聞こえてきた。
一か八か、彼の声に従う。
「え!?」
小舟から大きくジャンプすると、俺の足元に青と緑色が半々になる魔法陣が浮かんだのだ。
直後、生成されたのは巨大な氷の足場。
「クラーケンの弱点は眉間だ! 眉間を狙って!」
声を聞き逃さない。
氷の足場が海に向かって落下していく最中、突きの構えを取る。
足を開き、腰と腕を溜め――意識している間、随分と時間の進みが遅く感じた。
客観的に見れば俺がスローモーションで動いているかのような……。
とにかく、全力で集中しながら一瞬の時を待つ。
溜めて、溜めて、今ッ!
クラーケンの眉間と剣先が一直線に結ばれた瞬間、その時を逃さずに前へ。
「うおおおおッ!!」
飛び込むように動き、同時に剣を突き出した。
剣が眉間に突き刺さり、クラーケンの体を突き破る感触が腕に伝わって来た瞬間――クラーケンの体から「パァン!」と弾けるような音が聞こえた。
続けて、白かったクラーケンの体が透明に変わっていく。
この変化を目の当たりにして、俺は内心で「やったか!?」と歓喜するが……。
「ぐわ!?」
クラーケンの下半身は未だ動き、触腕が俺の体に巻き付いてくる。
とんでもない力だ。
このままでは体が潰されてしまうと焦りを抱くが、浜辺から鋭い氷の槍が飛んでくる。
氷の槍がクラーケンに突き刺さると、今度は俺に巻き付いていた触腕の色が透明に変わる。
「うわっ!?」
それと同時にクラーケンから力が抜け、触腕から解放された俺は海に落ちてしまった。
「むぐっ」
慌てて息を止め、急いで海面に浮上する。
近くに浮かんでいた氷の足場にしがみつき、状況を把握しようと顔を動かす。
「……倒せたのか?」
全身透明になったクラーケンはプカプカと海面に浮いているだけで動く気配はない。
どうやら倒せたようだ。
「わぁー! クラーケンを倒した!」
「現代に蘇った英雄じゃあ!」
浜辺では漁師村の人々が喜びの声を上げており、シエルも俺に向かってブンブンと腕を振っている。
彼女の横に立って笑顔を浮かべているのは、見慣れぬ青年と……。首輪をつけた獣人の女性?
何者かは不明だが、彼が俺を助けてくれたのだろう。
「ルーク! 大丈夫ですの!?」
「ああ! 大丈夫だ!」
シエルに無事を伝えると、浜辺に向かって泳ぎ始めた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに
千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。
ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。
グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、
「・・・知ったからには黙っていられないよな」
と何とかしようと行動を開始する。
そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。
他の投稿サイトでも掲載してます。
※表紙の絵はAIが生成したものであり、著作権に関する最終的な責任は負いかねます。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?