蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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2章

第40話 森へ向かう道中

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 急ぎ街へ移動した俺達は、何とか空が暗くなる前に到着することができた。

「はぁ、疲れましたわ」

 ただ、ハイペースでの移動だったためにシエルは疲労困憊。

 情報収集は明日にして、今日はゆっくりと宿で休むことにした。

 翌日、冒険者組合に行って情報を求めると――

「鋼の獅子という傭兵団はご存じですか?」

「ああ、知っているよ」

 受付嬢が口にした『鋼の獅子』という名の傭兵団は大陸で一、二を争うほど大きな傭兵組織である。

 普段から素行も悪く、血の気の多い連中が自然と集まることで結成された経緯もあり、戦いで金を稼ぐ傭兵というよりもバトルジャンキー共の集まりって感じのイメージが強い。

 彼らはレギム王国の侵略にも積極的に参加しており、参加したメンバーの中には「早く人を殺したい!」などと言うような頭のイカれたヤツもいたっけ。

「どういうわけか、鋼の獅子が西部に姿を現しまして」

 戦争の気配も匂いもしないというのに鋼の獅子に属する傭兵達がヴェルリ王国西部に姿を現した。

 街に来るなり態度が大きく、街の住人と揉め事を起こすこと数十回。飲食店などからは女性店員が襲われそうになった、などの通報も。

 他にも冒険者に喧嘩を売っては流血沙汰を複数回起こし、酷い時だと気に食わない冒険者を囲って暴力行為に及び、相手を再起不能にまで追い込んだそうだ。

「さすがに騎士団がブチギレまして。この街で好き勝手していた人達は街を追い出されました」

 たぶん、それが橋にいた連中だろう。

「鋼の獅子は百人以上の傭兵を抱えているって聞いたが、全員が西部に?」

「いえ、全員じゃなさそうですね」

 受付嬢は「正確には把握していませんが」と前置きしつつ、他の支部からの情報も合わせると「大体、四十人くらい」と人数を口にした。

 俺達が遭遇したのは四人だ。

 少なくとも残り三十六人はいるってことになる。

「他の街でも問題を起こしているそうですよ。レベン辺境伯領領主街でも住人からクレームが入ったって情報が来てますし」

 俺達の目的地がある領地にまで及んでいるのか。

「鋼の獅子は西を目指しているのか? 戦争が起きそうって情報は無いんだよな?」

「全くありませんね。戦争に関する情報は速報で入りますし」

 戦争の気配に過敏な冒険者組合としては『戦争なんて起きる気配が無いほど平和』らしい。

 大陸南の情勢としては大変素晴らしいことであるが、となると傭兵業を生業とする鋼の獅子がヴェルリ王国に入国した理由が分からない。

 加えて、西を目指して移動している理由はなんだ?

「とにかく、西へ向かうなら注意して下さい。絡まれて怪我した冒険者もたくさんいますから」

「ああ、ありがとう」

 俺はシエルに「行こう」と言って冒険者組合を後にした。

「とんでもなく悪い人達みたいですわね」

「そうだね。冒険者にまで喧嘩を売るなんて」

 傭兵と冒険者は似て非なる者達だが、両者の間には暗黙の了解というやつがある。

 それは喧嘩になっても武器を抜かないこと。

 あとは喧嘩になったとしても、その場で必ず決着をつけることだ。

 報復も無し。

 お互いに「戦い」を専門とする者達故に武器を抜けば悲惨な状況が出来上がることは間違いないし、喧嘩から本気の戦いに発展してどちらかが死ぬまで戦うなんて最悪も最悪だ。

 加えて、ここに騎士団まで加わったら三つ巴の泥沼に発展しかねない。

 最悪、国が両者を相手に小さな戦争を起こすってこともあり得る。

「喧嘩するなら殴り合いのみでってのが暗黙の了解なんだけどね。鋼の獅子はそうじゃないらしい」

 現に俺達は街道のど真ん中で戦闘になった。

 俺達は返り討ちにできたからよかったものの、そうじゃない冒険者もいるのだろう。

「彼らはどうしてこんなことをしているのでしょう?」

「さぁ……。鋼の獅子は他の傭兵団と比べても『戦闘以外に興味なし!』って感じの連中なんだけどね」

 俺の知る鋼の獅子は冒険者からチマチマ金を巻き上げるような連中じゃない。

「だけど、傭兵としてのプライドを持っているとも言えない連中なんだよね。悪党崩れが集まったような組織だし」

 ただ、冒険者を襲って騎士団に目を付けられるって状況を良しとする連中でもない。

 最低限のライン引きは出来ているという印象だったが。

「西に移動しているのも気になるね」

「西と言えば私達が目指すリョクレンの森ですが、その先には隣国との国境がございますわね」

 ヴェルリ王国の西には大陸南端までの土地を有する『マーレン王国』が存在する。

 だが、受付嬢も言っていたが大陸南側の国々は戦争を起こす気が無いはずだ。

 ヴェルリ王国とマーレン王国は数年前に「南東同盟」と呼ばれる同盟を組み、戦争を起こさないために手を取り合った。

 経済の活発化や技術交流なども含めて、両国は蜜月の関係にある。

「大陸西側を目指しているのではなくて? 向こうはこちらよりも治安が悪く、内戦が勃発している国があるとも聞きますが」

「だったらヴェルリ王国王都で船に乗った方が早くない?」

 ここから大陸西側まで陸路で向かうのは非常に時間が掛かる。

 ヴェルリ王国王都から海路で目指した方が早いだろう。

「……ここで考えていても仕方ない。乗り合い馬車で次の街へ向かおうか」

「ええ」

 街の停留所に向かうと、そこには多数の冒険者が馬車を待っていた。

 彼らも組合から忠告を受けたのだろう。

「これは結構時間が掛かりそうだね」

「またギュウギュウ詰めですわね……」


 ◇ ◇


 俺達が辺境伯領に到着したのは、乗り合い馬車を利用して五日後のことだった。

 隣国へ向かう冒険者の数が多かったこともあり、タイミングが悪い日は一日馬車に乗れないこともあったせいで余計に時間が掛かってしまった。

 ただ、冒険者達が固まって移動していることもあって、ここまで傭兵団に襲われることがなかったのは幸いか。

 まぁ、彼らも馬鹿じゃない。

 荷台に詰め込まれた冒険者達全員と戦うことは避けたいだろう。

「さて、問題はここからだ」

 目的地であるリョクレンの森は領主街から西ある。歩いて半日くらいの距離だろうか。

「リョクレンの森まで向かう馬車は無いという話だし、徒歩で向かうしかない」

「途中、傭兵団に襲われるかもしれないってことですわね?」

「そうだね。ある程度は覚悟して進むしかない」

 襲われても相手の要求を飲むつもりはないし、戦いになっても負けるつもりはない。

 何度襲われようが突き進むのみであるが、それでも警戒するに越したことはないだろう。

「冒険者組合の話だと、彼らは森の方へ向かったという情報がありましたが」

「そうなんだよねぇ」

 これは領主街で得た情報だが、どうやら鋼の獅子は内部分裂が起きているという話らしい。

 鋼の獅子を率いるリーダー「アロッゾ」に従う傭兵達は、彼と共に一台の馬車を護衛しながら西を目指しているという。

 だが、それを退屈に感じた連中がアロッゾの指揮下を離れて野盗紛いの行為に及んでいる……というのが、最新の情報だ。

「指揮官の元で動いている傭兵は大丈夫だと思うけど」

 馬車を護衛しているという話もあるし、アロッゾと共にいる傭兵達が襲ってくることはないと思いたい。

 問題はどれくらいの傭兵が離脱したのかだが、これに関しては未知数だという。

「しかし、街で情報収集する度に傭兵の数が増えていきますわね」

 もう一つの懸念は情報収集を行う度に傭兵団の人数が増えていくこと。

 最初の街で聞いた数は四十人程度とのことだったが、領主街の冒険者組合は「百人以上いた」と語るのだ。

 このうち何人が野盗化したかが問題である。

「騎士団も警邏を強化しているという話だし……。とにかく、俺達も西へ向かおう」

「そうですわね」

 お互いに大きなため息を吐きながらも領主街を出発。

 周辺を警戒しながらも森へ続く街道を進んで行く。

「……綺麗な景色ですのに」

「まったくだ」

 西へ続く街道の両脇には見事な花畑と綺麗な水が流れる小さな川がある。

 奥には大きな山も見える景色は、豊かな自然を感じられて心に穏やかさをもたらしてくれる。

 周囲を警戒することなく、ゆっくり眺めながら歩きたかったというのが本音だが。

「この花畑もダークエルフ達が地元農家と協力して作り上げたみたいだよ」

 大昔、放浪していたダークエルフの集団がリョクレンの森に流れ着いた。

 当時はレベン辺境伯家と揉めることもあったみたいだが、英雄ポアンと共に旅をしたダークエルフのキキが故郷に戻って来てからは協力体制を築くこととなる。

 ダークエルフ達は森林資源の管理と守護、領主街付近に住む農家と協力して農業の発展に貢献していった。

「ヴェルリ王国側と協力体制を築いたのも、キキの功績と言えるだろうね」

 お互いに歩み寄り、平和な関係を維持し続けるのは素晴らしいことだ。

「結局、キキは魔法の研究を完成させたのでしょうか?」

「どうだろう? そうった話は聞かないんだよね。英雄譚もポアンの人生が主体だからさ」

 ポアンの人生は最後まで語られるものの、仲間達がどうなったかは語られない。

 キキの功績は領主街との繋がりが深いため残ってはいるが、本人が目標として掲げていた研究が完成したかは不明である。

 この旅でそういった点を知れるのも良い副産物と言えるかもしれないが。

「……ん?」

 ここでシエルが道の先――右手側に広がる花畑の先を見つめて声を漏らした。

 釣られて俺も視線を向けると……。

「ルーク、あれって! 襲われているのではなくて!?」

 丁度、花畑が途切れたところ。川の近くで三人の男達に囲まれながら暴れている子供の姿があった。

 男達は子供の腕を掴み、無理矢理連れて行こうとしているようにしか見えない。

「誘拐か!?」

「助けましょう!」

 俺達は全力で駆け出した。
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