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2章
第41話 リョクレンの森
「いいから来いってんだよッ!」
「いや! やめて!」
男達に腕を掴まれ、今にも誘拐されそうな子供はダークエルフの少女だった。
彼女を誘拐しようとする男達は……恐らく、例の傭兵だ。
「おい! 何をしている!」
近付きながら叫ぶと、露骨に男達が不機嫌になるのが分かった。
「うるせえ! 冒険者風情は引っ込んでろッ!」
こんな見晴らしの良い場所で堂々と誘拐しようとしているのに、それを邪魔されて苛立つなんて。
どんな神経してんだ、こいつら。
「助けて!」
「今助けて差し上げますわっ!」
少女が助けを求めた瞬間、シエルは杖を男達に向ける。
杖の先端には魔法陣が浮かび、連続で水の塊が放たれた。
「うわっ! なん……ごぼぼ!」
「追って来やがる!」
水の塊は執拗に傭兵達を追い回し、彼らの頭を覆ってしまう。
「君! こっちに!」
その隙に俺は少女を救出し、傭兵達に視線を戻した。
息が出来ない傭兵達は必死にもがくも、虚しく酸欠となって地面に倒れていく。
ただ、傭兵の一人が咳込みながら立ち上がろうとして――
「この! 観念しなさい!」
怒りの表情を浮かべたシエルは男に近付くと、男の後頭部を杖でボコンと叩いた。
「うぐっ!」
それが決め手になったらしい。
立ち上がろうとしていた男は完全に気を失ったらしく、他の仲間同様に地面へ倒れてしまう。
「……上手くなったね」
「コツが掴めてきましたわ」
やっぱり彼女は魔法使いの才能がある。
「この子をお願い。彼らを縛るよ」
「ええ」
ダークエルフの少女はシエルに任せ、俺は街で購入した縄を使って傭兵共の手足を縛り上げていく。
武器は没収した上で川の向こう側に投げておいた。
あとはこのまま寝かせておけば警邏中の騎士が見つけてくれるだろう。
また絡まれた時に、と縄を買っておいてよかったよ。こうも早く活躍するとは思わなかったが。
「さて……」
振り返り、再び少女に目を向ける。
ダークエルフの少女はその種族性を現すように、褐色の肌とツンとした耳が特徴的。
髪はダークエルフ族に多い白髪で、子供らしいショートヘアに切り揃えられている。服もよく街で見かける子供が着ているようなものを身に着けているのだが……。
問題は彼女の年齢だ。
エルフ種というのは寿命が長く、同時に人体の老化も緩やかに進んでいく。
彼女はパッと見る限り十歳くらいに見えるが、エルフ種に限ってはこれがアテにならないのである。
十歳の子供に見えても実は二十歳……なんてアンバランスな見た目と年齢なエルフだっているので注意が必要だ。
「彼女、森の中から来たんですって。お母様に花輪を作りたくてやって来た、と言っていますわよ」
「今日、ママの誕生日だったから……」
そう言って今にも泣き出しそうな少女は、見た目的にも実年齢的にも『十歳くらい』で合っているのだろう。
「怖かったね。大丈夫かい? 怪我はしていない?」
対応に迷っていたが、子供と分かれば話が早い。
怪我の有無を確認し、速やかに森へ連れて行くべきだ。
「大丈夫」
少女は俯きながらも頷いた。
「俺達がリョクレンの森に連れて行ってあげるよ」
一緒に森へ帰ろう、と誘うも、少女はふるふると首を横に振る。
「ママの花輪、作ってない」
「じゃあ、お姉さんと一緒に作りましょう?」
ニコリと笑ったシエルは少女の手を握り、花畑に向かって歩いていく。
「私、こう見えてもお花の扱いには長けておりますのよ?」
彼女は胸を張りながらムフンと自慢気に息を吐いた。
貴族令嬢としての教育の中には花の扱いも含まれているのだろうか?
ただ、いざ花を摘んで花輪を作り始めると……。
「お姉さん、下手っぴだね」
少女は面白そうにケタケタと笑う。
実際、少女が作っている花輪とシエルが作っている花輪には雲泥の差があった。
シエルが作る花輪は……。いや、あれは輪と言っていいのか? 四角になってないか……?
「……私が上手なのは花を摘むことまでですわ」
少女の言葉に苦笑いを浮かべる彼女だが、こうして見守っていると彼女が如何に子供の扱いが上手いかが分かる。
先ほどまで恐怖で顔が曇っていた少女がもう笑顔を浮かべているのだから。
「……意外と家庭的なのかも」
「ん? 何か言いまして?」
「いや」
俺は首を振って二人を見守り続けた。
花輪を作り始めてから数十分後、遂に少女は「できたー!」と嬉しそうな声を上げる。
「まぁ、綺麗ですこと! これなら貴女のママも大喜び間違いなしですわ!」
「本当!? えへへ!」
シエルは少女を抱きしめ、優しく頭を撫でた。
「じゃあ、私達と一緒にママの元へ向かいましょう? よろしくて?」
「うん!」
シエルは満面の笑みを浮かべる少女の手を取ると、周囲警戒していた俺に顔を向ける。
「さぁ、参りましょう」
「ああ」
◇ ◇
歩くこと一時間程度、先に大きな森が見えてきた。
「……よくこんなに歩いて来ましたわね」
少女は森から一時間も掛かるような場所に赴き、帰り道でも元気にぴょんぴょん跳ねながら進むのだ。
「子供の体力ってのは凄まじいね」
まさに子供らしい行動力と体力だと思う。
「森に入る時は入口を警備する人に声を掛けろって言われていたが」
ケンスケの名を出すよう本人から言われているが、森の入口にはエルフの姿がない。
一体どこにいるのだろう?
「上にいるよ」
すると、少女が空を指差した。
「森を守るおじちゃん達はねぇ、いつも木の上にいるんだよ」
なるほど。
木の上で侵入者を監視しているわけか。
「私達、誤解されないでしょうか?」
「その可能性は否定できないね」
ダークエルフの少女を連れて森に向かって来る冒険者。
警戒されない方がおかしい。
ということで、森に到達した俺はいち早く身の潔白を証明することに努めようと思う。
「誰か! 誰かいるか! 外で子供を保護した!」
森の入口で一旦止まり、顔をやや上に上げながら叫ぶ。
すると、木の上からダークエルフの男性が飛び降りてきた。
彼は木の上から少女の存在を確認したのか、慌てた様子で少女に駆け寄る。
「おい、マリィ! また外に出たのか!?」
「ご、ごめんなさい……」
ダメって言ったじゃないか! と少女を叱る彼の顔は真剣だった。
恐らく、傭兵団の噂を耳にしているのだろう。
「確かに危険な行動でしたが、彼女はママの誕生日を祝いたかっただけですのよ。その点はちゃんと褒めてあげて下さいまし」
「……そうか」
ダークエルフの男性はシエルの顔を見て頷き、再びダークエルフの少女――マリィに顔を戻す。
「綺麗な花輪だ。お前のママはピンク色の花が好きだからな。きっと喜んでくれるぞ?」
ダークエルフの男性はマリィの頭を優しく撫で、続いて再び俺達に顔を向けた。
「すまない、世話になったようだな」
「ああ、ただ……」
俺は男性をちょいちょいと手招きして、少し離れた場所で事情を語った。
「……最近、街で噂になっている傭兵団か?」
話を聞き終えた彼の顔は相当険しかった。
「恐らく。傭兵団は西に向かっていると聞いたが」
「ああ、領主からも警戒するよう言われたよ。今のところ森の中に入り込んだ輩はいないが」
だが、外で彼女を誘拐しようとしていたのは事実だ。
俺は彼にまだ警戒を強くした方がいい、と伝えた。
「ところで、あんた達は? 冒険者だよな?」
「ああ、俺達はリョクレンの森に住んでいるキキのひ孫に会いに来たんだ」
事情もあって身分を明かすことが遅れてしまったが、俺は目的に続いてケンスケの名を口にした。
「ケンスケの知り合いか! どうだ? あいつ、元気にしてるか?」
ケンスケの名を聞いた途端、ダークエルフの男性は嬉しそうな笑みを見せる。
彼の表情から察するにケンスケはダークエルフ達と深く交流していたのだろう。
彼の近状を伝えたところで、俺は自身の目的である「ララとの面会」が可能かどうかを尋ねた。
「会ってくれると思うぞ。それにあの子の件もあるしな」
男性はララに誘拐の件も詳しく話してほしい、と。
「ララのところまで案内しよう。着いて来てくれ」
「ありがとう」
俺達はシエルとマリィの元まで歩き出す。
その途中、ずっと気になっていたことを彼に問うてみることにした。
「ところで、ケンスケから『もう火属性魔法は使わない』って合言葉? も教わったんだが」
合言葉で合っているのだろうか? とにかく、これについて問うと――ダークエルフの男性は遠くを見るような目を見せる。
「……あいつ、魔法の練習中に森の一部を焼いてね」
現場を目の当たりにしたダークエルフ達は大慌ての大焦り。当の本人はやってしまった衝撃で放心状態。
師匠であるララは大笑いしていたそうだが、当時を思い出す男性は「ありゃあもう大事件だった」と乾いた笑いを漏らした。
「頼むから君達は森を焼かないでくれよ?」
「安心してくれ、俺達は火属性魔法を使わないよ」
冗談を言う彼に苦笑いを返した。
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