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2章
第42話 ひ孫のララ
しおりを挟む森の中を一人歩きするなよ。
そう言ったのは集落まで案内してくれるダークエルフの男性だった。
「この森は特に迷いやすい。まぁ、迷いやすいようにしたのは俺達なんだがな」
過去、この森に流れ着いたダークエルフ達は外敵――当時は関係性が険悪だったヒューマン(ヴェルリ王国人)――を集落に到達させないために森の改造を行ったという。
同じ品種の木々が多数生えている中にポツンと別の品種が一つだけ混じっている場合、それは目印として機能してしまう。
よって、なるべく同じ品種を固めて植えることで周辺の景色を一定にすることに努めたようだ。
もちろん、これらの作業は木だけじゃなく草や花も。
「景色が変わらないのであれば迷いそうですわね。普通の人間は見分けがつかないもの」
「ああ。しかし、知識があるやつには通用してしまう」
たとえば、植物の研究を行う学者。
あるいは、森という環境に慣れた木こりなど。
「景色を変えた上で魔法的な効果も施しているんだ。だから、どんなやつでも迷っちまう。俺達以外はな」
用心深いダークエルフ達は、森全体に魔法効果を施す仕掛けさえも完成させたようだ。
これにより、部外者が森に入り込んでも集落までは辿り着けない仕組みになっているという。
「森の中で暮らしていても火は使うだろう? 煙はどうするんだい?」
ダークエルフ達だって肉を食うはずだ。
森の中で暮らしているからと言っても、火は絶対に使わないってことはないはず。
その際発生した煙で集落の位置がバレてしまう、なんてことはないのだろうか?
「そういった点も考慮して作られているんだよ」
詳細は秘密なのか、とにかく煙を目印にしようが迷うとのこと。
とにかくダークエルフ達の案内がなければ迷うように作られているのがリョクレンの森、ということらしい。
「ヴェルリ王国人と友好的な関係を結んでからは不要な守りかと思われたが、そういうわけでもなかったみたいだな」
ダークエルフの男性は現状を鑑みながらも「先祖達に感謝だ」と頷いた。
「普段は環境整備と林業の仕事に従事しているのかい?」
「木材の加工はしないがね。切り倒した木を森の外に運びだすくらいだ。他には薬に使う薬草の栽培とか」
森林資源を適切に管理しつつ、辺境伯領内の農業に関するアドバイスなども行っているという。
ここに来るまでに見た花畑然り、自然に関する環境整備においてダークエルフは欠かせない存在となっているようだ。
――歩くこと三十分。
木々の隙間から人の住む環境が見えてきた。
「到着だ」
遂に俺達はダークエルフの集落に辿り着いた。
集落の中は木材を使って建てられたログハウスが並び、家の傍には小さな畑が並んでいる。
これまで見てきた街や村のように、中心地にはちょっとした広場と井戸も見られた。
他には切り倒した木材を保管する場所や備品などを保管しているであろう倉庫まで。
森の中に住むダークエルフの集落なのだから、もっと特殊な造りになっているのかと思ったが案外普通であることに驚きだ。
「まずはララのところに案内しよう」
男性は集落の中を突っ切って奥へ進む。
その途中、集落に住むダークエルフ達と遭遇するが、みんな俺達を見ても実にフレンドリーだ。
ただ、これはエルフと出会った時全てに言えることだが……。
全員、若すぎる。
集落に住むほとんどのダークエルフが二十代の若者にしか見えない。
中には顔に皺の入った――ヒューマンでいうところの五十代くらいに見える人もいるのだが、見た目以上にずっと年上なのだろう。
「ここが里長、ララの住む家だ」
集落のリーダーを務めるララの家は他の家よりも少しだけ大きい。
加えて、家の隣には小さな倉庫のような建物が併設されていた。
男性は家のドアをノックすると、中にいるであろうララに「客人を連れてきた」と叫ぶ。
しばらく待っていると家のドアが開いて――
「客人とは誰だ? 領主家の遣いか?」
中から出てきたのは褐色肌の超美人。
腰まで伸びる綺麗な長い銀髪とキリッとした目。長いまつ毛と魅惑的な唇。
スタイルも凄まじく、スラッとした手足にキュッとくびれた腰。
この世の男性達が見たら「女神様の生まれ変わりか?」と思わず口にしてしまいそうな女性だった。
隣にいるシエルも美人だが、彼女はまた違ったベクトルの美人と言えばいいだろうか。
ただ、問題は……。
彼女が身に着ける服だ。
「……ハレンチですわ」
思わずシエルが漏らした通り、彼女の見た目は刺激的すぎた。
だって、体の左右がガラ空きなのだもの。
首元から白く長い布が体の前後にペロンと伸びているだけ。
両腕と両脇は完全に露出しているし、角度によっては胸の側面まで見えているだろう。
もちろん、脇腹から腰、足までもが丸見えだ。
ちょっと強い風が吹いたら布が捲れて、全身が見えてしまいそうな危機感がある。
「見たことのない顔だな?」
とんでもない服を着るダークエルフ――ララは腕につけていた腕輪の位置を正しながら首を傾げた。
思わず彼女に見惚れてしまっていた俺はハッとなり、慌ててケンスケの名を出しながらも自己紹介を行う。
「ほう、ケンスケの知り合いか。あいつは元気か?」
漁師村で見た彼の活躍を口にすると、ララは嬉しそうに「相変わらずだな」と笑った。
「ところで、私に会いにきた理由は?」
「本来の目的を話す前に、森の外で起きたことについて話したい」
まずは少女マリィが誘拐されそうになっていた件から。
案内してくれたダークエルフの男性と一緒にララへ説明すると、彼女はシエルの後ろに隠れていた少女へ近付いていく。
「マリィ~? 森の外に行く時は大人に声を掛けよと言ったよな~?」
手をわきわきと動かしながらマリィに近付くと、彼女は少女の脇腹を猛烈にくすぐり始めた。
「言いつけを守らん悪い子め!」
「あはは! だ、だって~!」
目尻に涙を浮かべながら笑い苦しむ少女を抱きしめると、ララはマリィの小さな鼻をチョンチョンと突く。
「次は絶対に大人を連れて行くんだぞ?」
「はぁい」
「よし! では、母の元へ行ってこい! 花輪を渡して喜ばせてやれ!」
「うん!」
マリィは笑顔を浮かべて駆け出すと、途中で振り返りながら「お兄さん、お姉さん、ありがとう!」と礼を言ってくれた。
小さな背中を見送ったあと、ララは改めて俺達に向き直る。
「我が里の子を助けてもらったこと、深く礼をしたい。本当に助かった」
「いや、当然のことさ」
頭を上げた彼女はじっと俺を見つめてくる。
「ところで、子供を送り届けに来ただけではあるまい? 本来の目的とはなんだ?」
「実は英雄ポアンの足跡を辿っていてね。彼と一緒に旅をしたダークエルフのひ孫が貴女だとケンスケから聞いて――」
蒼の聖杯を探していることも明かしつつ、何かヒントになるものを探しに来たと正直に告げる。
「……なるほど。蒼の聖杯を探しているのか」
ララは少し悩むような仕草を見せるが、再び俺の顔をじっと見つめた。
「あの子を助けてくれた礼もある。お主が求めるヒントになるかはわからんが、私の曾祖母が残した物を見せてやろう」
ララは曾祖母の残した物の中に旅の間つけたと思われる手記が残っている、と語った。
ヒントを得るならそれを読むといい、とも。
「本当か!?」
やったぞ!
内心歓喜していると、今度は隣にいたシエルが控えめに手を挙げる。
「あの、私は魔法を教えてもらいたいのですが」
シエルは彼女の顔色を伺うように言ったが、ララは「ふぅむ」と顎に指を添えながら声を漏らす。
彼女はシエルの全身を下から上まで見て――
「なるほど。才能はありそうだ。まずはお主の魔法を見てやろう」
こちらの願いも了承してくれたようだ。
「まずはルークを倉庫に案内……する前に」
ララはダークエルフの男性に対してより一層警戒を強めるよう言った。
続けて、侵入者がいる場合はすぐに連絡せよとも。
ダークエルフの男性は仲間に伝えるべくその場を後にするが、俺は彼の背中に向かって「案内、ありがとう!」と礼を伝える。
「おう!」
ダークエルフの男性は手を振りながら去って行った。
「さて、曾祖母が残した物を見せてやろう」
俺達は家の隣に併設されている倉庫へと案内された。
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