蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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2章

第47話 故郷の影


「お前、何者だ? 俺達と同じ傭兵か?」

 お互いに武器を構えて相手の出方を窺っていると、アロッゾが問うてくる。

 同時にヤツは足を少し後ろに下げた。

「やっぱりだ。俺の挙動を見逃さない。しかし、同時に周囲の人間の気配にも集中している」

 アロッゾは「お前は冒険者じゃない」と確信を持った声音で言った。

「だったらどうした。お前達と同じ傭兵だと言えば退くのか?」

「まさか。期待しているだけ、だッ!!」

 アロッゾはバトルアクスを振り上げながら突っ込んで来る。

 大きな体に大きな武器、いかにも重戦士のような見た目に反して間合いを詰める速度が速かった。

 相手の得意な距離に入った瞬間、ゴウ! と風を切るようにバトルアクスが振り落とされる。

「―――!」

 少々大袈裟に避けると、振り下ろされたバトルアクスが地面を粉砕。土が爆ぜるように飛び散り、太く大きい刃が大地に突き刺さる。

「ぬああああッ!」

 そこから間髪入れずに横へ大振り。

 右足を軸に腰を入れて大きな武器を振り回す様は、大型の魔物でさえも横一文字に両断しまうであろう勢いがあった。

 これも大きく後ろに跳んで躱すが、その瞬間に背中側から殺気を感じた。

「悪いな、団長ォ!」

 アロッゾとの一騎打ちに見せかけて、隙を狙っていた傭兵が背後から襲い掛かってくる……が、そんなことは戦闘が始まる前から予想済み。

「フッ!」

 素早く後ろへ振り返り、その勢いを使って剣を振り抜く。

 スパッと見事に相手の首が飛んだ。

 だが、これで終わりにはしない。

 近くにいた傭兵達へ一気に間合いを詰め、連続で傭兵共を斬り裂いていく。

 一人は腕を刎ね、もう一人は首筋を斬り裂き、残り一人は胴に剣を突き刺した。

 相手の体を蹴飛ばしながら剣を引き抜き、血濡れの剣を構えて次へ。

 一対多数、特にこういった状況では焦った方が負ける。

 人数差があるからといって焦ってしまうと余計に体力を消耗してしまうし、死角から攻めてくる相手の動きも見落としてしまいがちだ。

 だから、冷静に。淡々と一人一人確実に仕留めていくことが大事。

 首を狙えるなら積極的に狙う。

 次点で武器を持つ腕。

 余裕があるなら派手に血飛沫が舞う腹を突き刺すこと。これで相手の動揺と恐怖を煽る。

「な、なんだ!?」

「囲め! 囲めって!!」

 内心「ほら見たことか」と笑った。

 こちらが淡々と冷静な動きを見せると、対照的に相手の方が焦り出すのだ。

 向こうは『人数差』という圧倒的なアドバンテージがあり、それが心の支えにもなっている。

 その支えを派手な演出と共にチョンと突いてやればいい。

 相手はたちまち焦りだす。冷静ではいられなくなる。

 次々に屠られていく仲間を見て「今度は自分の番かも」と焦りが生まれ始める。

 一人一人が焦ることで連携という力は失われ、仲間が減っていく度に体が固まっていくのだ。

「フッ!」
 
「ぎゃあああああッ!?」

 そうなると、もはや人数の差など関係ない。

 冷静に動ける者、冷静に頭を動かせる者だけが勝者となる。

 ――これはレギム王国騎士団で学んだことの一つだ。

 忌々しく苦しい記憶と経験の日々は、俺自身を確実に強く成長させた。

 生きるため、願いを叶えるための力になっているという事実もまた嫌になる。

 嫌悪感を振り払うよう、相手を殺すことだけに集中して剣を振るっていると、気付けば残りの傭兵は十人も満たない数まで減っていた。

「ひ、ひぃ!」

 視線を向けた傭兵は恐怖する。

 ララ達、ダークエルフ達を嘲笑うような表情を見せていたのに。

 これでは俺が悪者のようではないか。

「――ッ!」

「ぎゃあああ!?」

 腹の立つ傭兵を斬ったあと、次に狙うべき傭兵へ剣先を向けた。

「た、助けてくれ! 降参! 降参だ!」

 剣先を向けた途端、男は手から剣を離してしまう。

 そのまま尻持ちをついて、ずるずると後退りしていくではないか。

 何だよそれは。

 俺が悪いのか?

「……失せろ」

「ひぃ!」

 殺さずにいてやると、男は悲鳴を上げて森の中に消えていった。

 逃げ出した傭兵を見送って、次に顔を向けたのはアロッゾだ。

 先ほどから全然仕掛けて来ない男に顔を向けると――彼の顔にもまた、驚愕の表情が張り付いている。

「お前……。まさか……」

 目を点にして、自分の考えが信じられないのか、小さな声で「どうして」と呟く。

「まさか、お前は……。レギムの獣? 第一部隊隊長のレオンなのか……?」

 レギム王国に雇われていた鋼の獅子、リーダーであるアロッゾは俺のことを知ってはいたのだろう。

 ただ、俺の素顔は見たことがないように思える。

「…………」

「間違いない! その戦い方、その動き! 間違いなくお前はレギムの獣だ!」

 肯定も否定もせずにいると、彼は自身の記憶と感覚を信じることにしたらしい。

 俺の正体を確定させた彼の表情には焦りと驚愕が入り混じる。

「どうしてこんなところにいやがる!? どうしてお前が!?」

 この状況に困惑を見せるアロッゾだったが、彼は奥歯を噛みしめながら喚くことを止めた。

 代わりにバトルアクスを強く握りしめ、鋭い目つきで俺を睨みつける。

「喚くのは終わりか?」

「……喚こうが現実は変わらん」

 そうだな、と内心同意してしまった。

 どれだけ喚こうが、否定しようが現実は変わらない。起こったことは変わらない。

「戦場で何度も見た。お前の圧倒的な戦いっぷりを。前線で戦うお前を見た時、俺は震えたぜ」

 尚も彼は俺を睨みつけながら言葉を続ける。

「長く傭兵業を続けているが、戦いたくないと思ったのはお前でだ」

 一人目は誰なのだろう?

 そんなことを考えながらも、俺の足は自然に動き出す。

 一気に間合いを詰め、アロッゾに向かって剣を振るう。

 俺の剣はバトルアクスで受け止められてしまうが、鍔迫り合いをするつもりはない。

 すぐに一旦間合いを離し、再び一気に間合いを詰める。

 今度はフェイントをかけて側面から仕掛けるも、アロッゾはギリギリのところで俺の攻撃を受け止めた。

「……あの鎧を装備していない状態でもこれか!」

 彼の脳裏に浮かんでいるのは、レギム王国騎士団時代に身に着けていた「黒い鎧」のことだろう。

 褒められているのか恐れられているのかは分からないが、相手の腰が引けている今がチャンス。

 精神的に持ち直される前に勝負を決めてしまいたい。

 ……ここは後々情報を聞きだすためにも、小細工や搦め手を使わず正攻法で屈服させた方が後々良いな。

 そう考えた俺は純粋な力とスピードでで押すことにした。

「ぐっ!?」

 剣を受け止められてもお構いなし。何度も仕切り直しながら剣を何度も打ち付ける。

 何度剣を受け止められても、まだまだ続くぞと錯覚させるように何度も何度も何度も。

 相手が抱く俺への恐怖心を利用して、剣を振る毎にプレッシャーをかけていく。

 一度でも受け止め損ねれば死ぬぞ、という恐怖感を与え続けていく。

 そして、遂にアロッゾの手からバトルアクスが零れ落ちた。

「…………」

 武器を手放し、膝を地面について、俺の顔を見上げる彼の顔には諦めの表情が浮かぶ。

 だが、まだ殺しはしない。

「お前には聞きたいことがある。雇い主は誰だ?」

「……正確なところは知らん」

「お前達は馬車を護衛していたとの情報があるが、雇い主の馬車か?」

「ああ、そうだ。奴は先に隣国へ入国したが」

 曰く、彼らを雇った商人は既に隣国の『マーレン王国』へ入ったらしい。

 国境付近で別の護衛隊に仕事を引き継ぎ、アロッゾ達はリョクレンの森へ向かった……という流れのようだ。

「雇い主はどうしてダークエルフ達を狙う? 宝玉とは何だ?」

「宝玉とやらを必要としている理由は知らんが、ダークエルフを捕まえる理由は既に察しているんじゃないか? エルフって種族は高く売れるらしいぜ」

 彼の言葉は雇い主が闇商人です、と言っているようなものだった。

 ……これはケンスケの追っている組織に雇われていると見て間違いなさそうだな。

「どこで雇われた? 相手の特徴は?」

「……年中、フードを深く被って顔を見せなかったからな。声からして若い男のようだったが」

 彼は言葉を続ける。

「だが、一つ間違っている。俺達は雇われたというより……。選ばれたと表現した方が正しい」

「選ばれた?」

「そうだ。俺達に仕事を仲介してきたのはレギム王国騎士団だ」

 レギム王国騎士団が……?

 まさか、レギム王国は闇商人との繋がりまであるのか……?

「俺達は次の戦争に備えていたが、拠点にレギム王国騎士団の遣いがやって来てな。戦争の合間に仕事をしないかと誘われた」

 遣いは騎士団に属する騎士だった。

 正式採用された鎧を身に着けていたから間違いない、と。

 手紙を持って来た騎士の誘いに乗ると、翌日には別の遣いが来た。

 依頼内容はレギム王国からヴェルリ王国西部までの護衛任務と書かれていたが、度々護衛対象が変わることがあったらしい。

「レギム王国王都から出発して国内南部に到着すると、それまで護衛していた馬車は別の護衛に引き渡された。俺達はそこから別の馬車を護衛しながらヴェルリ王国西部を目指していったんだ」

 また移動しては護衛を引き継ぎ、そこから別の馬車を護衛する。

 それを何度も繰り返し、マーレン王国国境まで移動を果たす。

「そこからはご覧のあり様さ」

 アロッゾは肩を竦めながら鼻で笑う。

「……あんたの事情は知らんがな。あんたなら俺以上に知っているんじゃないか? あの国がどんだけ黒いかってよ」

「…………」

「俺達が金に釣られたのも事実だが、断れば国から消されかねないことだって理解してるんだぜ」

 嫌々やったことじゃない。むしろ、魅力的な提示金額だった。

 しかし、断ればどうなるかも彼らは理解していた――と彼は語る。

「……あの国は今、どうなっている?」

「……さてな。昔より過激になっていることは確かだぜ」

 ふぅ、と息を吐いたアロッゾは一拍間を置いてから口を開く。

「噂じゃ、本格的に大陸統一を成し遂げようとしているって話だ。国王と騎士団長、それに上位の貴族達はあらゆる手を使って計画を練っているとか」

 レギム王国の大陸統一は昔から王家が掲げる夢の一つである。

 大陸を統一することでレギム人へ危害を与える者はいなくなり、同時にレギム人の優秀さを世に知らしめることになる、と。

「他に知っていることは?」

「他に? 他には――」

 アロッゾが続きを語ろうとした瞬間、風を切るような音が聞こえた。

「あ?」

 アロッゾの首筋に細い血の線が浮かぶ。

 次の瞬間、彼の首が地面に落ちた。

 これは――風の魔法か!?

「――ッ!」

 俺は周囲を警戒しながら左指を鳴らす。

 どこにいる? どこに隠れている?

 周囲に広がる森へ視線を向けるが、相手の姿は見つからない。

 だが、相手は俺を嘲笑うかのように――生き残っていた傭兵達の首を風の魔法で切断していくのだ。

「どこだッ!? 姿を現せ!」

 結果、残ったのは俺一人。

 焦らず、冷静に。

 自分にそう言い聞かせながら、剣と腕で首を守るように構えながら敵の位置を探るが……。

「……いなくなった?」

 傭兵達が全滅してから数分経っても魔法が飛んでこない。

 いくらでも魔法を放つ隙はあったはずなのに。

「……俺は殺さず、傭兵達を始末するだけ」

 これは何を意味するのだろうか?

 依頼を受けたアロッゾ達への口封じか? それとも別の狙いが?

「…………」

 何にせよ、また一つレギム王国への疑惑が増えた。

『ルーク!』

 アロッゾの死体を見下ろしながら考えていると、背後からシエルの声が聞こえてくる。

 振り返ると、ララ達と共にいる彼女が手を振っている姿があった。
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