蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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2章

第48話 後片付け

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「ルーク!」

 シエル達が戻って来ると、彼女は俺の元に駆け寄ってきた。

「大丈夫ですの!?」

「ああ」

 特に怪我していないことを伝えると、シエルはホッと息を吐く。

 ただ、周囲に広がる惨状を見て「うっ」と顔を強張らせた。

「……首、刈りすぎではなくて?」

「……いや、全部が全部俺のやったことではないよ」

 言葉の意味がわからずキョトンとするシエルだったが、訳を話す前にララが近寄ってきた。

「まさか一人で全滅させてしまうとは」

 彼女の顔にも驚愕の表情があった。

 二人にどう説明するべきかとも思ったが、まずは彼女達の状況を聞くことに。

「避難していた人達はどうだった? 全員無事かい?」

「傭兵共に連れて行かれそうになっていたが、間一髪のところで助けることができた」

 森の北側に避難していたダークエルフ達は傭兵達によって拉致寸前だったが、ララ達が間に合ったことで拉致被害は無し。

「だが、戦える者達の中には被害が出てしまったが」

 しかし、集落の戦闘員数名に被害が出た。

 六人が死亡。七人が重症とのことだ。

「これでも被害は軽微、と思わねばならんだろうな。お主達がいなければ……。今頃は全員が連れて行かれていたかもしれん」

 最悪の状況は避けることができた、とララはため息を零す。

「しかし、こやつらは一体なんだ?」

「それは――」

 俺はアロッゾから聞き出した情報をララとシエルに語りだす。

 鋼の獅子は闇商人組織――と思われる組織に雇われていたこと。

 雇い主との仲介はレギム王国が行っていたこと。

 アロッゾ達を雇っていた組織はケンスケが追っている組織だと思われること。

 俺がレギム王国出身で元騎士ということだけは伏せ、他は包み隠さず全て話した。

「……レギム王国が関係していますの?」

「そうみたいだね。まだ全貌は見えないが」

 事情を知るシエルはレギム王国の関与に驚くが、ララはレギム王国よりも闇商人の方に引っ掛かりを見せた。

「ふぅむ……。ケンスケが追っている組織か」

 ララは顎に指を添えながら何かを考え始めた。

「今回の件はケンスケに知らせようと思う」

「ケンスケに?」

「ああ、彼から連絡用の遺物を借りてね」

 俺はララの家に置いておいたリュックを持ってくると、中から遺物を取り出した。

「……初めて使うんだけど、本当に吹けばいいだけなのかな?」

「ああ、それは適当に音を出せばいい」

 使い方について迷っていると、アドバイスしてくれたのはララだった。

 どうして彼女が? と彼女の顔を見上げると、彼女は少しだけ口角を上げる。

「その遺物は私達の里から見つかった物だからな」

「君達の集落から?」

 集落から見つかったという点が気になるが、ララは「私も伝言を飛ばしたい」と俺を急かす。

 口にオカリナを当て、息を吹き込むと――

『ぴぷ~』

 何とも気の抜けるような音が出た。

「もうちょっと何とかなりませんでしたの?」

「俺に芸術的なセンスはないよ……」

 というか、楽器を扱うのなんて人生初と言っていいかもしれない。

 ただ、音色はともかく遺物の効果自体はしっかりと発動した。

 音を出してから数秒後、半透明な鳩が生成されたのだ。

「本当に鳩が生まれた」

「は、半透明で不気味ですわ」

 魔力で生成された鳩に驚いていると、鳩は瞬きを繰り返しながらも首を何度か動かす。

 そして――

『コンニチワ。こちらは伝言サービスです。鳩が鳴いたら一分以内に伝言をどうぞ』

「喋った!」

「喋りましたわ!?」

 俺達が驚いていると、鳩が「クルッポー」と鳴く。

 鳴いても尚驚く俺達に対し、ララがチョンチョンと肩を叩いて鳩を指差した。

 ハッとなった俺はケンスケへの伝言を喋り出す。

 ダークエルフの集落で起きたこと、犯人は闇商人と思われる組織に雇われていたこと。

 襲撃は退けたが、数名が犠牲になったことを伝えていく。

「ケンスケ、私だ。三か月後に顔を出せ。手伝ってもらいたいことがある」

 最後にララからの伝言も入れるが、彼女の伝言は非常に簡潔だった。

 彼女が喋り終えると、丁度よく伝言を伝える時間が終了。

『クルッポー』

 鳩は再び鳴くと、羽を動かして浮かび上がる。

 そのまま空高く上昇し、対となる遺物へ向かって飛び去って行った。

「……本当に伝言が届くのかな」

 初めて使うこともあってちょっと不安だ。

「さて、落ち着く前に……。片付けをしようじゃないか」

 ララは集落内に散らばる傭兵達の死体を指差した。

「このままでは魔物が血の匂いに惹かれて寄って来てしまう」

「そうだね。片付けようか」

 ここからは集落のダークエルフ達と協力して作業を進めていく。

 改めて領主街へ事態を伝えに行く者の選定、怪我した人の応急処置。それに並行して男達は死体を埋める穴を掘っていく。

 同時に俺は傭兵達の持ち物を探り、アロッゾのポケットを探っていると――

「シエル、ララ!」

 俺は見つけた物を二人に見せた。

 それは紋章を象ったペンダントだ。

「確定だ」

 アロッゾの持っていたペンダントは、以前ケンスケが見せてくれた闇商人を示す紋章と一致していた。

 やはり、黒幕はケンスケが追う組織で間違いない。

「忌々しい連中だ」

 紋章を見たララは一言吐き捨てつつも、言葉を続ける。
 
「私の魔法を無力化した原因は見つかったか?」

 たとえば遺物とか、あるいは魔法紙とか。

 それらしい物は見つかったか? と問われるが、俺は首を横に振る。

「遺物らしき物は持っていなかったね。他の持ち物とすれば……。武器か」

 俺は傍に落ちていたアロッゾのバトルアクスに注目した。

 彼のバトルアクスは特別大きいが、他に注視する点と言えば――

「この小さなクリスタルとか? 無骨な武器には不似合いな装飾だよね?」

「ふむ……」

 俺が指摘したクリスタルに対し、ララは指先に小さな風の塊を作って近付ける。

 風の魔法をクリスタルに近付けると、魔法はパチンと弾けるように消えてしまった。

「なるほど、これが原因か」

 どうやら魔法を無力化したのは、この小さなクリスタルらしい。

「これは?」

「私にもサッパリ分からん。要研究だな」

 ララはダークエルフの男性を呼び、バトルアクスを研究室に運び込むよう頼む。

 彼女もバトルアクスを運ぶダークエルフ達と共に研究室へと向かって行った。

 その場に俺とシエルだけが残されると――

「……レギム王国の件、貴方は初耳でしたのよね?」

 周囲に人がいなくなったタイミングで、シエルは小声で問うてきた。

「ああ。少なくとも、俺が騎士団にいた頃は闇商人の出入りなんて……無かったと思うんだが」

 これに関しては百パーセント確かだ、とは言えない。

 あの頃も裏では繋がりがあったのかもしれないし、俺が知らないだけで国の重鎮達は秘密裏に交流を深めていたのかもしれないし。

「どうしますの?」

「変わらないよ。蒼の聖杯を探す」

 あくまでも目的は変えない。

 蒼の聖杯を探す。その間、闇商人について何か情報が得られたらケンスケに渡す。

「俺は突き進む。進まなきゃいけないんだ」

「……ええ。分かっておりますわ」


 ◇ ◇


 死体の処理、死んだダークエルフ達の埋葬、集落の掃除が終了したのは夜の八時を回った頃だった。

 クタクタになった俺達はララの家に戻ると、一足早く戻っていたララが料理を振舞ってくれた。

「今日は疲れたろう。亀スープを飲んでゆっくり休むといい」

 本日の夕飯は肉中心のメニューだったが、その中には亀スープがしっかりある。

 俺が「美味かった」と言っていたことも、また飲みたいと言っていたことも覚えていてくれたらしい。

「このスープ、美味いんだよな」

「そうか、そうか。作った甲斐があるな」

 真っ先にスープへスプーンを伸ばす俺に対し、ララは……満面の笑みを浮かべていた。

「食事中にすまないが、お主達に折り入って頼みがある」

「頼みですの?」

 パンを千切っていたシエルが首を傾げると、ララは真剣な顔で頷いた。

「今回の件で我が里の戦闘員が減ってしまった。これは非常にマズい事態でな」

 内心「確かに」と頷く。

 集落に住む人達は、今回の事件経て不安な日々を過ごすことになるだろう。

 その上、リョクレンの森を警備する人の数が減っているのだ。不安は更に増すことになる。

「お主達が旅を続けたいことは承知しているが、あと四日ほど滞在してくれんか?」

 そう言ったララは一拍置き、俺とシエルの目を順に見つめながら言葉を続ける。

「三日後の夜、我が里では『鎮静の儀式』が行われる。それに参加してもらいたい」

「鎮静の儀式?」

 それは何だい? と俺が問うと、彼女は衝撃の内容を発した。

「リョクレンの森にある遺跡から溢れ出る『異界生物』の殲滅だ」
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