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2章
第50話 門という繋がり
明けて翌日、集落は重々しい雰囲気に包まれながらも日常を取り戻そうとしていた。
夫を亡くした女性は今にも泣きそうな表情を見せつつも、まだ小さい子供達の世話を懸命に行っている。
兄弟を失くした男性は、怒りと悲しみが入り混じった状態で壊れた家の修理を行っている。
皆、これが現実なのだと受け入れてはいるのだろう。
だが、それでも理不尽な仕打ちに割り切れないのも事実。
「…………」
今の集落は居心地が悪かった。
集落の様子とレギム王国騎士団時代に見た光景が重なって見えるからだ。
罪の重さを嫌でも再確認してしまい、胸のあたりがズンと重く感じる。
しかし、逃げ出すわけにはいかない。
心の中で「居心地が悪い」と感じていても、実際に口に出すことは許されないし、この状況から目を背けてもいけない。
聖杯を見つけること、前に進むことこそが俺に出来る唯一の贖罪なのだから。
「次は二体作り出すんだ」
「ひぃ、ひぃ」
俺は手製のメモ帳を片手に、シエルを指導するララの横へ腰を下ろす。
「おや、どうした?」
「ちょっと聞きたいことがあってね」
これまで収集してきた情報をまとめた結果、ここへ来て複数登場する単語が浮かび上がった。
それは『門』だ。
「英雄ポアンとキキは鳥居を探していたと手記に書かれていたよね。ケンスケから鳥居は神域への入口を示していると教わった」
鳥居は神の住まう神域に繋がる門。
ケンスケの故郷では門を潜った先は神域である、と大昔から伝えられていた。
これはあくまでもケンスケの故郷で発祥したものであるが、昨晩ララから聞いた「鎮静の儀式」でも同じく『門』という表現が使われていたことに引っ掛かりを覚えた。
「リョクレンの森にある遺跡からは異界生物がやって来ると言っていたが、異界生物は門から出てくるんだよね?」
「門と表現したのは我が家の祖先だがな。曾祖母は『空間の歪み』とも表現していたが、どちらの表現も間違ってはいないのだろう」
異界生物は『異界』と呼ばれる場所からやって来る、と言われている。
この世界とは別の世界、あるいは別の場所からやって来ると表現されることが多い。
これまでは「突然現れた」と報告されることが多かったが、実のところ異界生物は異界と繋がる門を通ってこちら側へやって来るのではないだろうか?
リョクレンの森にある遺跡に発生する『門』と同じものが、世界中に、満月の夜に発生するのではないだろうか?
「まぁ、お主の考えは正しいだろうな。突然現れると言われていても『本当に突然現れる』なんて現象は考え難い」
無から有を生み出すことが不可能なように、異界生物も何らかの方法を用いてこちら側へやって来ると考えた方が妥当だろう。
となると、ダークエルフ達が目撃した『門』あるいは『空間の歪み』が各地で発生しているという説は有力だと考えられる。
「ケンスケの言っていた鳥居と神域、それは異界と異界生物の関係と同じなのだろうか?」
神の住まう場所、神域と表現されているが、こちら側とは違う場所という認識は共通している。
ケンスケの故郷に住む人々は『異界=神域』という認識なのではないだろうか?
この考えに至った理由は、トーワ王国で発見された第三洞窟の奥にあった壁画だ。
「壁画では魔物のような見た目をした化け物に対し、頭を下げている人間の絵が描かれていたんだ」
あれが魔物なのではなく、異界生物だったとしたら?
「なるほど。遺物遺跡を造った連中は異界生物を神のように崇めていたと?」
「遺物遺跡がどう造られたかは未だ不明だし、大陸に伝わる文明の過去と合致しない部分もあると言われているだろう? となると、俺達とは全く異なった文化を持った人々が造ったとも考えられるよね?」
俺達は異界生物を悪、天災と表現する。危険な相手だと認識している。
だが、遺物遺跡を造った人達は逆に神として崇めていたとしたら?
「ケンスケの故郷も異界生物を神と崇めていたら、と考えるとどうだろう? 鳥居の示す神域は異界のことを指しているんじゃないか?」
同じ現象ではあるが、認識の違いによって意味や捉え方が異なるのはよくあることだ。
「昔は今より未知に溢れていただろうからな。解明できない存在を神とするのもあり得ただろう」
川の氾濫や天候不順による不作は神様が怒っているから――なんて言われていたこともあるくらいだ。
「確かケンスケの故郷はどこにあるのか分からんって話だったな。島国だったらしいが、大陸の傍に人が住む島など存在しないという話だし」
ケンスケの故郷はどこか遠くにある。
となると、大陸とは違った文化や認識を持っていてもおかしくはない。
それこそ、異界生物を神として崇めていても。
「まぁ、どうして鳥居を作ったかは謎なんだけどね」
「そうだな。どういった意図を持って作ったかは、ますます謎となるな」
単に異界と異界生物を崇めるためか、他には何か伝統や儀式的なものだったのか。
「これらを踏まえて意見が欲しい。キキ達は黄金図書館を見つけようと鳥居を巡っていたが、異界とも関係あると思う?」
「どうだろうな……。ただ、曾祖母は異界についても調べていたと思う。彼女はリョクレンの森にある遺跡を知っていたのだからな」
彼女は魔法の研究――魔法の始まりを解き明かそうと旅をしていたが、最終的には故郷に戻って「森の巫女」の意味を変えた。
それを踏まえると、キキの中には家族を死なせたくないという想いもあったはずだとララは語る。
「故郷と愛する男、どちらかを選ばねばならんと泣いた女だ。最終的には故郷を選ぶくらい、彼女の中では家族と故郷が大事だったのだろう」
キキの手記の中で異界については語られていない。
彼女が異界に関してどんな事実を知ったのか、異界について深く知ることで異界生物に対する『反転の魔法』を編み出したかどうかも不明だ。
しかし、最終的には魔法を編み出した。
「天災と呼ばれる異界生物の対処法を編み出すには、相手をよく知らんと無理だと思わないか?」
反転の魔法は異界生物に限定した魔法だ。
ならば、相手をよく理解していないと編み出せない魔法だとも言える。
「だが、だからと言って異界と鳥居の関係性について調べていたかは不明だ。手記にも書かれていないからな」
「う~ん……。現状ではまだ判断材料が足りないか」
俺がウンウンと頭を悩ませていると、ひたすら魔法の練習をしていたシエルがフラフラと近寄ってきた。
「た、楽しそうにお喋りしていますわね……」
顔中脂汗まみれ、魔法疲れで顔はゲッソリしたシエルが恨めしそうに俺を睨んだ。
「すまないね」
俺は傍に置いておいたリュックからタオルを取り出して彼女に手渡す。
「魔法はどうだい?」
調子はどう? といった感じで軽く聞いてみると、シエルは表情を変えずに杖を自身の斜め後ろに向けた。
すると、水の塊が二つ出来上がる。
それらは徐々に形を変えていき、見事なブラウンボアに変化した。
「おお、すごい。そっくりじゃないか」
大きさも顔の厳つさもブラウンボアそのもの。水の揺らぎが毛並みにさえ見えてくる。
「ふむ。自然に形作ることには慣れてきたか。その調子で動かすのもスムーズに行えれば完璧だな」
ララは「最終的には四体。四体とも動きを自然に」と目標を口にした。
「四体も……。はぁ……」
シエルはとぼとぼと元の位置に戻っていき、再び魔法の練習を再開した。
「実際、どうなの?」
俺がララに問うと、彼女は片方の口角を上げながら言った。
「大魔法使いにはなれんだろうが、有名な魔法使いにはなれるだろうな」
魔法の天才とは言えないが才能はある。努力次第で化ける、というのがララの評価らしい。
「短期間であれほど出来るんだ。優秀な証だよ」
ララはそう言うと、その場から立ち上がる。
「さて、彼女のためにも亀を獲ってくるか。お主も飲むだろう? 亀スープ」
「ああ」
俺が頷くと、彼女は亀の捕獲に向かっていった。
しかし、川に住む亀ってどんな姿をしているのだろう? 魔物じゃないって話だが。
「ルーク! 水筒を取って下さいまし!」
「ああ、わかった」
未だ見ぬ亀の姿を想像しながらも、俺はリュックの中から水筒を取り出した。
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