蒼の聖杯と英雄の足跡 ~自称実力そこそこな冒険者、聖杯を探す旅の途中で追放された元悪役令嬢を拾う~

とうもろこし

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2章

第54話 対異界生物 2


 グールを産んだウッドマンは体を痙攣させるように動かし、木の体をガサガサと鳴らす。

 それが合図になっているのか、血まみれのグール達が一斉に襲い掛かってきた。

「ここからはウッドマンの攻撃にも注意しろ!」

 ララは魔法を発動させてグールを薙ぎ払いつつ、この場にいる全員に注意を促す。

 彼女の叫び声が放たれた次の瞬間、ウッドマンは自身の腕を再び地面に突き刺した。

「またグールを――」

 違う!

「きゃっ!?」

 そう感じ取った瞬間、俺はシエルの腕を掴んで横に大きく飛ぶ。

 なりふり構わず横に飛んだせいもあって、俺はシエルを抱き抱えたまま地面に倒れてしまった。

 だが、これで正解だった。

 俺達が立っていた場所には『土の杭』が出現していたのだから。

「シエル、立って!」

 まだ来る!

 俺達は急いで起き上がるとその場から走り出す。

 背後からはズドンと地面が破裂するような音が聞こえ、振り返れば再び土の杭が出現していた。

「君はララの隣に!」

「え、ええ!」

 俺はシエルをララの傍まで送り届けると、急反転してウッドマンヘと走り出す。

 ララがウッドマンの注意を惹く役を任せたい、と言っていた意味がよく理解できた。

 あいつを野放しにしてはいけない。

「邪魔だッ!」

 正面から突っ込んできたグールを斬り裂き、殺して黒い霧に変える。

 だが、これは少々悪手だった。

 目の前に一瞬だけ充満した黒い霧を突き破るように、ウッドマンの腕から伸びた蔓が俺を襲う。

「チッ!」

 間一髪剣で弾くも、気付くのが一瞬でも遅れていたら危なかった。

 ただ、これで俺の足が止まってしまう。

 たった二秒ほど足を止めただけで、俺はグール達に囲まれてしまうが――

「ルーク! 行け!」

 左側にいたグール達が風の魔法で薙ぎ払われる。

「えい!」

 右側にいたグール達はウォーターボアの突進を受けて吹き飛ばされてしまった。

 正面にいたグールも遅れて飛び掛かって来るが、今回は殺さずに顔面へ蹴りをお見舞いするだけ。

 道が開いた。

 ララとシエルの支援を受けつつも、俺は遂にウッドマンを間合いに捉える。

「フッ!」

 息を吐きつつ、まずは軽めの一撃。

 すぐに離脱できるよう腰を引き気味に剣を振るうが……。予想に反して簡単にザクリと剣の刃がウッドマンの腕に食い込んでしまった。
 
 手に伝わってきた感触はまさに『木』だ。

 太い木の幹に向かって剣を振ったような、表面は柔らかいが奥の方に芯があると感じられる感触だった。

 感触を得て真っ先に考えたのは『斬れる』ということ。

「っと!」

 一旦大きく後ろに飛び退き、ウッドマンが大振りした右腕を回避する。

 そこから再び間合いを詰め、今度は力を込めた一撃を振り落とす。

 予想通り腕を盾にされ、剣の刃が大きくめり込んだ。だが、ここから力任せにウッドマンの腕を断ち切る。

 ザックリと両断した腕が落ちると、断面からは赤黒い液体――樹液のようなものが噴き出した。

 俺達人間でいうところの血液なのだろうか?

 見た目は大ダメージを与えたように見えるが、ウッドマンは表情? も苦悶の声も上げない。

 変わらぬ人面が俺を見つめているだけだ。

「…………」

 再び大きく距離を取って様子を見る。

 体を痙攣させるように動くウッドマンが両断された腕を地面に向けると、腕の断面と地面に落ちていた腕が黒い霧の糸で繋がった。

 そして、両断された腕は元通りになってしまう。

 これが異界生物最大の恐ろしさだ。

 戦っている相手に「大ダメージを与えてやったぞ!」と期待させたところで実は全く効いていない。

 四肢を両断しようが頭を潰そうがすぐに回復してしまい、俺達人類の心を簡単に折ってくるのである。

「だが、今回は意味がある」

 しかし、今は違う。

 何度再生しようとも、今はその価値がある。

 チラリと後ろを確認すれば、ララ達がグールを順調に殲滅する姿が見られる。

 あと少しウッドマンを惹き付けていられれば、彼女達もこちらの戦いに加わってくれるだろう。

 それまでの辛抱。

 それまで俺が役割を全うすれば良い。

「さぁ、行くぞ!」

 これ以上グールを増やさないために、俺は果敢にウッドマンへ仕掛け続けた。

 軽い攻撃と重い攻撃を織り交ぜ、素早く立ち位置を変え、とにかく相手の注意を惹き付ける。

 あと一歩、あと一手多く出せるというタイミングで手を出さない。絶対に無理はせず「あと一撃入れれば」という欲を捨てる。

 軽く振った剣を受け止められたが、よく見れば腹がガラ空きだ。

 普段ならその場で態勢を整え、第二の攻撃を見舞っただろう。

『オオオオ……!』

 しかし、すぐに後ろへ飛んだ。

 ウッドマンの右腕が地面にめり込んでいるのを見たからだ。

 大きく飛んだ瞬間、足元からは土の杭が突き出してくる。

 よし、また間合いを詰めて――と、考えたところですぐに改める。

「ぐっ!?」

 初見の『二連撃』だ。

 一本目の杭が突き出してから一拍置き、二本目が地面から出現した。

 ギリギリで回避はできたものの、脹脛の側面に杭が掠った。

 足がやられるほどの致命傷ではない。ズボンが破れ、掠った肌から多少血が出た程度で済んだ。

「……危なかった」

 やはり、欲張るのは危険だ。慢心も危険。

 異界生物がどんな行動をするのか、まだまだ未知の攻撃が控えていると常に考えながら戦うべきだ。

 一瞬でも欲を出し、相手を攻略したと慢心した途端に殺される。

「ふぅぅぅ……」

 息を大きく吐き、頭を冷やす。

 熱くなるな、と何度も自分に言い聞かせた。

『オオ……』

 再び痙攣するように体を動かすウッドマン。

 さぁ、次は何をしてくる?

 相手の様子を窺っていると、さすがに予想もしなかった行動に出たのだ。

「は、花?」

 ウッドマンの右腕に大きな花が咲いた。

 しかも、幻想的で美しい真っ青な花だ。

 これまで異界生物の異常性を目撃してきたが、またベクトルの違った異常性を目の当たりにしてまう。

「な、なんだ……?」

 しかも、妙に目を奪われる。

 これは美しすぎる花、と表現するのが正しいのかもしれない。

 ウッドマンの全身を視界に捉えようと心掛けるのだが、視界に端に映る青い花へどうしても気が向かってしまう。

 気付けば花を中心に捉えており、これではいけないと気を持ち直すのだが……。

「なんだ、これは」

 自分自身が制御できない。ダメだと分かっていても見てしまう。

 見るなと考えても、目が花に向かってしまう。

「クソ――ッ!?」

 散漫する頭を正常に戻そうとしていると、何かが俺の足に巻き付いた。

 ゾッとしながらも視線を下にやると、足に巻き付いていたのは蔓だ。

 ウッドマンから伸びた蔓だった。

「マズ――!!」

 逃げろ、と体を動かそうとした瞬間、俺の体はウッドマンに引き寄せられてしまう。

 足を踏ん張って耐えるも、ジリジリと距離が近付いていく。

『オオオ……』

 ウッドマンの頭部に開く穴から風が漏れた時、ウッドマンの胴体が徐々に開いていくのがわかった。

 開いた胴体の中には闇が広がり、それは三号洞窟で見た異界生物の体にあった闇と似ている。

 まさか、三号洞窟で目撃したシーンと同じように、俺は異界生物に飲み込まれてしまうのか?

 焦りが俺を支配し、体中から冷や汗が噴き出る。

 まずい、まずい!

 剣で蔓を斬ろうと腕を振り上げるが、今度は腕に蔓が巻き付いた。

 剣が振れない。

 万事休すか。

「こ、こんなところで終われない……! 俺は、俺は……!」

 それでも諦めきれず、必死に耐え続けていると――

 後方より突進してきたウォーターボアが俺を追い抜き、ウッドマンの脇腹に衝突した。

「ルーク!」

 続けて飛来したのは、超高速で放たれた水弾だ。

 三射連続で放たれた水弾はウッドマンの右腕に穴を開け、耐えかねた腕が千切れ飛ぶ。

「よく時間を稼いでくれた!」

 続けて放たれたのは風の魔法。

 左腕は風の魔法によってズタズタになり、破裂するように砕け散った。

 ララとシエルの魔法により、俺は蔓から解放される。

 しかし、彼女達とダークエルフ達の攻撃はこれで終わらない。

 続けて火矢が放たれ、命中したウッドマンの体が燃えていく。

 ここにララの風魔法も直撃。

『オオオ……』

 ウッドマンは膝をつき、開いていた胴体が元に戻る。

 元に戻ったことで心臓の位置にあった血袋が再び見えた。

「今だ! ルーク、仕留めろ!」

 ララの声と同時に走り出す。

「うおおおおッ!」

 突きの構えを取り、そのままの勢いで剣を突き出した。

 剣は血袋に突き刺さり、ブシュッと破れ散る。

『オオオオオオッ!!』

 遂にウッドマンの絶叫が聞けた。

 燃える体を「ガクッ、ガクッ」と大きく動かし、体中から赤黒い樹液を撒き散らす。

 そして、ウッドマンは天を見上げながら黒い霧へと変わっていった。
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