婚約破棄されたので全員殺しますわよ ~素敵な結婚を夢見る最強の淑女、2度目の人生~

とうもろこし

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本編

21 消えた歴史

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 自室にリーズレットとサリィを案内した王は代々伝わる秘密の部屋を見せる。

「あら、懐かしいですわね」

 部屋の中に飾られた前世の自分が描かれた絵を見て言葉を漏らすリーズレット。

「これってお嬢様の……?」

「そうですわよ。前世の私ですわよ」

 描かれたリーズレットと今のリーズレットを見比べるサリィ。

 雰囲気は同じ。瞳の色と髪の色が違うものの、どこか顔つきは似ている。

 雰囲気が似ているのは本人だから似て当然だろう。ただ、顔の造りまで似ているのが不思議だった。こちらも人格が同じだからだろうか、とサリィは脳内で疑問符を浮かべる。

「やはり、貴様は……」

 王も同じ想いを抱く。やはり、この女は絵に描かれた女性と同一人物なのか、と。

 まさか死んだ人間が蘇るなど意味不明な話だ。前世の記憶や人格を引き継ぐなどあり得ないと思っていたが、それを証明する人物が目の前にいるのだ。信じざるを得ない。

「それで? 例のブツはどこにありますの?」

 銃を向けるリーズレットに催促されて、王は金庫の扉を開ける。 

 中から取り出した魔法銃の原型となるレリックを彼女に手渡した。

「ん? ん~?」
 
 リーズレットは受け取ったレリックを調べ始めた。

 フォルムとしては簡単だ。ハンドガンの見た目をしているものの、グリップの下に特別な魔導具が備わっている。

 前世の記憶を探るがこれと同じような物を仲間達が創っていた記憶はない。

 これはアイアン・レディの物じゃない、と思いながら銃の側面や下部を探る。すると、小さな文字の刻印を見つけた。

『ギャラクテック』

 刻印を見たリーズレットは「ああ、なるほど」と頷く。

「あの聖なる豚共の残党が作った物でしたのね」

 ギャラクテック。それはリーズレットが2番目に滅ぼした国――リング聖王国の残党が結成した組織である。

 祖国を滅ぼした最大の要因である帝国、戦争に参加して聖女と王族を殺したリーズレットを恨み、復讐を企てていた弱小組織。

 この魔法銃の原型となったレリックを作ったのも聖王国思想、魔法は神からの贈り物であるというクソのような考えを前面に押し出して作った結果だろう。

 ただ、リーズレットが死ぬ前には魔法銃というカテゴリも再評価されつつあったのも事実。弾切れが(ほぼ)無い銃という夢の兵器に着目したのは世界もアイアン・レディも一緒であった。

 アイアン・レディに所属していた転生者が完成させる前にリーズレットは死亡してしまったので、どこまで開発が行われたのか不明であるが。

「これを知っているのか?」

 王はリーズレットに問う。単純に興味もあったが、何より記録の残っていない前時代を知る者など最早この世にいないはず。

 偽物か本物か今一度確かめてやろうという気持ちもあったが、王自身も確かめようがない。

「ええ。知っておりますわよ。私が滅ぼした国の残党が作った物ですもの」

「そうか……」

 聞かなきゃよかったと王は後悔した。

 次はリーズレットが王の顔を見て問う。

「この地は昔、帝国だったはずですわ。帝国が滅んで何年経ちましたの?」

 前世の自分が描かれた絵を所持しているくらいだ。当然、王はあれから何年経ったのか知っていると思っていた。

 だが、彼は首を振る。

「わからない」

「わからない……?」

「そうだ。王国が建国されて今年で180年だが、建国以前の事はわからない」

 王国を建国した初代王がこの地に国を作ったのが180年前。だが、その前の事は記録に残されていないと言う。

「今の時代より遥かに文明が進んだ時代があったという事実は残されている。だが、前時代が何年何月に滅び、人が再び復興を果たした年月も記録されていない。ただ、我々王族は選ばれたと言われている」

 まるで語り継ぐのが世界中でタブーになっているかのように、記録は全て抹消されていると王は語る。 

 王族に伝わる話の中では『赤いドレスの悪魔』と『今の王族は選ばれた存在である』という伝説だけが残されていると。

「あり得ませんわ。世界が一度滅んだのであれば、歩んで来た歴史があるはず。人がポンと生まれ、国を作ろうと思う訳わけございませんもの」

 リーズレットの言う通りだ。世界が一度滅んだのであれば、世界を復興した歴史や記録や人の記憶があるはず。

「そう思うだろう。だが、無いのだよ。全くな。辛うじて分かっているのは、前時代の生き残りが残された魔導具などを使って社会を復興・再形成したという事だけだ」

 残された魔導具を活用して社会を形成した人類がいるという事実だけが辛うじて残されている。

 なのに、なぜ彼等の事を語る者がいない? 

 辛い時代を生き延びた者達が自分達の苦労話――歴史を次代に語らないことなどあり得るだろうか。 

「お前も学園に通っていたのだろう? 歴史の授業で前時代の事を語らないのは何故か疑問に思わなかったのか?」

 リーズレットはローズレットの記憶を探ってハッとなる。

 彼の言う通りだ。前時代という今の世界を形作る『大前提』があるはずなのにそれを教えない。いや、国や教師も『教えられなかった』のだろう。  

 誰も知らないのだから。教えようがない。

「なぜ……? 何も痕跡はございませんの?」

 再び王は首を振った。

「知らんな。ただ……」

 王は少しの間、口を動かして言おうか悩むような様子を見せたが、リーズレットの目を見て告げる。

「王家に伝わる話……選ばれた存在であるという部分。そこに魔女という存在が登場する。魔女が王を選んだ事が全ての始まりであると。そして、確かに魔女はこの世に存在するのだ」

「魔女?」

 言ってやったぞ、と言わんばかりにニヤリと笑う王にリーズレットが問う。

 王は頷いて言葉の続きを口にしようとするが、

「あ、ぐ……!?」

 呻き声を上げながら胸を抑えて膝から崩れ落ちる。

「ちょっと、続きはどうなりますの!? 続きを早く話しなさい!」

 どう見ても死ぬ寸前。リーズレットは王の胸倉を掴んで揺するが、答えは得られない。

「もしもーし!」

 バチンバチンと頬を往復ビンタしても言葉は出ない。

「あ、ぐ、が……!」

 遂には白目を剥いて王は死に絶えた。

「チッ。使えませんわね」

 死亡した王の死体を見下ろしながら、鬼のようなセリフを吐くリーズレット。

「死んじゃいましたね~?」

 死体をツンツンとつつくサリィもリーズレットに毒されつつある。

「そうですわね。とにかく、部屋にある資料を片っ端から奪ってから死体をリーリャのもとに持って行きますわよ」

 面倒ですわね、と呟きながらリーズレットは王の自室にあった鞄の中に関連資料と思われる紙を片っ端から雑に詰め込んだ。

 全てを終えると王の足を引っ張ってリーリャ達のいる場所へ戻るのであった。
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