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本編
22 さようなら、またね
しおりを挟むリーズレットが引き摺ってきた王の死体を受け取り、貴族達を捕えたリーリャ達は王城を完全に制圧。
王都に住む全ての者達へ向けて革命成功を告げつつ、王国軍に投降するよう呼びかけを始めた。
徐々に王国軍の兵士が投降して捕縛されていく中、肝心のリーズレットはというと。
「サリィ、詰められるだけ詰めなさい! 詰めなければ損ですわよ!」
「はいですぅ!」
2人は両手で王国紙幣と宝石を鷲掴み。
大きいバッグと木箱を用意して宝物庫の中身をとにかく雑に詰め込んでいた。
「これでしばらくはお金に困りませんわね!」
宝石だけでも全て換金すれば小さな屋敷が買えるくらいには詰め込んだ。リーズレットは良い仕事をしたと蓋を閉めた木箱の上に腰を降ろす。
「お嬢様。これからどうしますか?」
よっこいしょ、とパンパンに膨れたバッグを持つサリィが問うとリーズレットはニコリと笑う。
「西海岸へ向かいますわよ」
「西海岸ですか?」
この広大な大陸の西側にある海岸を目指すとリーズレットは言った。
大陸東側、東海岸に近い位置に存在するラインハルト王国からは真逆の位置だ。魔導車で移動しても1週間以上は掛かるほど、この大陸は広い。
ただ単に反対側へ行くわけじゃない。リーズレットにはしっかりとした理由が道中にも目的地にもあった。
「西海岸にアイアン・レディの本拠地がございましたのよ。そこを目指しながら、道中の拠点を巡って装備を回収しましょう」
アイアン・レディの本拠地は西海岸に作られていた。理由としては、当時その場所にあった国が比較的「まとも」だったからだ。
男尊女卑のような思想もない。魔法こそが至高、神話信仰などの宗教もない。
自然豊かで、毎日熱い日差しが降り注ぐビーチがあって、ほどよく各国と貿易をしていた為に物も溢れる。
隣国との緊張状態が続いていたが、前世のリーズレットが死ぬまで大きな戦争や内戦にも発展しなかった国。
今思えばアイアン・レディの本拠地があったからこそ、隣国も手を出さなかったのかもしれない。
とにかく、本拠地を目指しながら道中に点在する小さな拠点も確認するのが主な目的だ。
「へぇ~。そんな国があったのですねぇ~」
「またあのビーチでドリンクを飲みながらゆっくりと日光浴したいですわ」
リーズレットは前世でよく行っていた事を思い出す。
白い浜辺で波の音を聞きながらビーチパラソルの下でゆっくりと過ごす。水着で過ごす解放感とリラックスした日々。
あれこそが最高のバカンスであったとサリィに熱弁した。
「そこで過ごしながら旦那様探しもなさるんですか?」
「ハッ! そうですわ! 日に焼けた素敵なマッチョな旦那様も見つけますわよ!」
なんて夢が広がるんだろう。アハハ、ウフフと2人で笑いながら次の目的地が決定した。
2人は早速とばかりに宝物庫から荷物を運び、城の庭にあった荷車に乗せて城の門を潜って行く。
「待ってくれ! リーズレット!」
ゴトゴトと荷車を押す2人の背中に声を掛けたのはリーリャだった。
リーズレットが後ろを振り返ると、彼女の後ろにはココとナンシーの姿もあって3人は急いで走って来たのか肩で息をしていた。
「もう行ってしまうのか?」
「ええ。私、行くところがございましてよ」
「リーズレットさん……」
リーリャの問いに答えたリーズレットに寂しそうな顔を浮かべるココ。
「そうか……。助けてくれてありがとう。これから、この国を変えてみせる」
「私もリーリャと一緒に頑張ります! だから、また会いに来て下さい!」
リーリャとナンシーが決意を口にする。
「リーズレットさん、私が変わるきっかけをくれてありがとうございました。私、これからも……リーズレットさんみたいになれるよう頑張りますから!」
ココが涙を浮かべながら変わるきっかけをくれたリーズレットに礼を言う。
それぞれの想いを口にした彼女達にリーズレットはニコリと笑った。
「そう。頑張って下さいましね」
3人の熱い想いに対してリーズレットの返答はアッサリだった。
ニコリと笑い、またゴトゴトと荷車を引いて去って行く。
3人は彼女の背中を見つめながら、リーズレットのような強い女性になろうと決意するのであった。
……最後まで彼女が荷車に乗せている荷物の中身には気付かずに。
-----
3人がリーズレットの背中を見送る光景を空から眺める1人の少女がいた。
少女の装いは学園の制服のような白いブラウスに黒いミニスカート。ブラウスの上には丈が胸までの短いケープを羽織って。
ダークブラウンのショートカットが風で揺れる彼女はそう……『魔法少女』だろうか。それとも『魔女』と呼ぶべきか。
何たって彼女は今、空を飛ぶ箒に腰掛けて浮いている。このような恰好と行動をしている少女を他に何と形容すべきだろうか。
「うん。いたよ。やっぱり本人っぽいね」
彼女は空からリーズレットを見下ろしながら携帯端末を耳に当てて通話先の相手に何かを伝えていた。
「大丈夫。魔法で気配を消しているし。心配症だなぁ」
調査対象に気付かれていないか問われたのか、しっかりと対策していると告げる少女の口角が少し上がる。
「長老達が言った通り、転生したみたいだね。それと、ラインハルト王国の王は死んだみたい」
通話相手の返答を聞いた少女は「うん」と短く相槌を返す。
「ううん。彼女に殺されたんじゃないみたい。どうやら呪いが発動したみたいね。私達の事を漏らそうとしたんじゃないかな」
馬鹿だよねぇ、と漏らしながら少女はクスクスと笑う。
「それで、次の指示は? 今度は早めに殺すんでしょ?」
今ならやれるんじゃないかな、と言いながら少女は短い木の枝のようなスティックを取り出してリーズレットへ先端を向ける。
「え? 一旦帰還するの? 長老達から手を出すなって言われた? 正気!?」
通話相手からの返答は少女の意見とは違ったようで、少々声が大きくなってしまった。
「わかったよう。帰ります。帰りますよー」
しょうがないなぁと漏らし、少女は箒に跨るような体勢に変えた。
「お土産買っていくからさ。魔女の館で一緒に食べようよ。うん、それじゃあね」
ピ、と端末のボタンを押して通話を切った少女は端末をポケットに仕舞いながら目を細めてリーズレットを見た。
「ふふ。今日はバイバイだけど……私がすぐに殺してあげるよ」
荷車を押すリーズレットに再びステックの先端を向けながら、ニヤリと口角を釣り上げる。
「またね――お姉様」
そう言って笑う少女の顔はどこか――リーズレットに似ていた。
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