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本編
36 休息と労いのパーティータイム
しおりを挟む首都から出発したリーズレットは西を目指し続け、リリィガーデン王国との国境付近まで進んでいた。
ベレイア連邦西側は3つある街を統括する西部行政が管理しており、戦争中である隣国との国境付近では検問所や巡回部隊が敵国側からの侵入・脱出を防ぐ為に動き回っているのだが……。
どうやら首都で大統領が死んだ影響もあって指揮系統に混乱が生じているようだ。
首都を取り戻そうと東部西部の精鋭が中央に集まりつつあり、検問や巡回などの基本業務が疎かになっていると途中で立ち寄った街で噂になっていた。
特に首都を攻撃した犯人の全貌が掴めないようで、それが混乱を招いている要因の1つとなっている様子。
だが、リーズレット達にとっては都合が良い。
この混乱に乗じてリリィガーデン王国内に進もうという旅の計画であったが、向かう先は戦争中の国。恐らく戦地を突っ切る事もあるだろう。
しかし、ベレイア連邦との国境付近で一度休憩して英気を養おうとリーズレットが提案をした。
「淑女にも休息は必要ですわ。特に国を相手に戦った後は、余韻に浸りながらゆっくりするのが最高なんですのよ」
ラインハルト王国を潰し、ベレイア連邦首都でマジカルビッチとの戦闘を繰り広げたリーズレット。
アイアン・レディの痕跡をマギアクラフトが回収しているかもしれない、という事実が発覚した事もあって先を急ぎたくなるが、こういった時こそ一旦立ち止まる事も重要だ。
しっかりと休息を取って冷静な思考と心のケアを行うのも大事。
これを怠ればいつかミスを生む。前世では長く戦いに身を投じてきたリーズレットが学んだことであり、教訓でもある。
彼女達は国境付近にあった湖の傍に魔導車を停車させ、辛うじて残っている緑と青の美しい景色の中で心を癒そうとしていた。
「休息といえば美味しいご飯。美味しいご飯といえばバーベキューですわよ」
一度滅んだ世界の影響で、森林資源が極端に少なくなった世界であるもののベレイア連邦西部には未だ緑が残っていた。
ここは元リリィガーデン王国領土内という話なので、向こうに行けばもっと緑が残っているかもしれない。
とにかく、小さな森の中にある湖というロケーションは心を癒すのに最適だ。
ここでバーベキューをして、焼いた肉と酒を飲みながら自然を楽しむ。なんと癒しパワー溢れる行為だろうか。
「サリィ、火を起こす為の枝を拾っておいて下さいまし」
「はいですぅ!」
前世ぶりのバーベキューに気合が入ったリーズレットは自らの手で街で購入した高級肉に塩を振った。
その間に木の枝を削った野生MAXな串を作って準備を進める。
「お嬢様、集めてきました~」
サリィが拾い集めてくれた小枝と紙に魔法で点火して火を用意。塩で下味をつけた肉をナイフで切り、串にぶっ刺したら火に突っ込む。
ザ・野生。
ザ・野蛮。
せっかくの高級肉を火に突っ込んで炙り、味は塩だけ。
だが、それが良い。これがリーズレット式バーベキューだ。
「はい、どうぞ」
リーズレットは最初に焼いた肉をサリィに手渡した。主人よりも先に食事を摂る事に戸惑うサリィだが、こうして労う事も主人の役目。
遠慮せずに食えと促され、サリィはパクリと肉に齧りつく。
「美味しいですぅ~!!」
さすがの高級肉。サリィが噛んだ瞬間に肉汁が溢れた。
加えて、ただ火の中に突っ込んだだけの野蛮な調理法だとしても、それが良い方向に作用する事もある。
最高の串焼き肉を頬張ったサリィは笑顔を浮かべて、獣耳がぴこぴこと可愛らしく動く。
「そうでしょう、そうでしょう」
大事な侍女を上手く労えたリーズレットの顔はニコニコな可愛らしい笑顔が浮かんだ。
さぁ、次は自分の分。串に肉を刺して再び火に突っ込む。
『レディ、冷えました』
焼いている間にロビィがキンキンに冷えたビールを用意して簡易テーブルに置いた。
あと数秒肉を焼けば準備万端。リーズレットの口の中は「まだか、まだか」とお祭り騒ぎ。
「ここですわ! このタイミング!」
ベストタイミングで肉を火から取り出す。ジュワァと焼ける肉の表面はリーズレットのバーベキューに対してのズバ抜けた手腕を表現していた。
きっと銃を手にしていなければ、串を手にして焼肉屋さんになっていただろう。
それ程までに至高の焼け具合。
「いただきますわよォー!」
右手に最高の串焼き肉。左手に冷えたビール。
レッツ、パーティータイム。ご機嫌なバーベキューパーティの始まりである。
バーベキュー最強の武器を2丁持ちして、右手に持った肉が彼女の口の中に投入――さようとした時に、空からやって来た正体不明の何かが湖に落下した。
バシャーン、と高く上がる水しぶき。すると、どうなるだろう?
湖の傍にいたリーズレットの全身に水飛沫がバッシャバッシャとぶっかかった。
最高の焼け具合だった肉は水に濡れ、ビールの中にも水が侵食。勿論、顔と体も水塗れ。
せっかく起こした火も消えてしまい、リーズレット式バーベキューパーティーは強制的終了。
「…………」
口を開けて肉を迎え入れようとした状態で固まっていたリーズレットの体がぷるぷると震えた。
「はわわ! 拭く物を持ってきますぅ!」
サリィがタオルを魔導車まで取りに行った時、被害者リーズレットは両手に持っていた物を捨てる。
代わりにホルスターからアイアン・レディを抜くとセーフティを解除して、ニコニコと笑顔のまま彼女は言った。
「殺す」
湖に住む巨大魚が跳ねたのか? それとも戦場から大砲の弾でも降って来たのか?
どちらにせよ、殺す。
魚ならば撃ち殺して食ってやろう。大砲の弾だったのなら撃ったヤツを見つけ出してぶっ殺そう。
神が許しても淑女は許さない。生まれてきた事を後悔するまで痛めつけて殺してやる。
殺意に満ちたリーズレットは銃口を湖に向けた。
『お待ちください、レディ』
向けた瞬間、ロビィによる制止が入った。同時にリーズレットも水面にプカプカ浮かぶモノを見て「おや」と首を傾げる。
その理由は浮かんでいた人の髪色に懐かしさを感じた事と、着ている服に見覚えがあったからだ。
『レディ、これはアイアン・レディのドレスアーマーです』
そう、湖に墜ちてきたのは青いドレスアーマーを着た女性だったのだ。
ロビィが腕を伸ばし、女性を引っ張り上げた。
仰向けに寝かされた女性の顔を見下ろした後、着ているドレスアーマーに触れる。
確かに使われている材質はアイアン・レディ仕様の特殊素材のようだ。
「青のドレスアーマー?」
ただ、青色は初めてだった。
前世ではリーズレットが赤、見習い淑女は黒のドレスカラー。青色のドレスなど存在しなかったのだが。
『染めたのではないでしょうか? どう致しましょう?』
ロビィが尤もな事を言いながら、彼女をどうしようかとリーズレットに問う。
女性の体には何か鋭いモノで貫かれたような穴が開いており、血がドクドクと流れている。
リーズレットが念のために脈を確認するとまだ生きていた。
「生きていますわね。話も聞きたいですし、治療しましょう」
「戻りま――あれ? お嬢様と同じドレスを着ていますねぇ?」
彼女を生かすと決めた時、サリィがタオルを持って戻って来た。
仰向けで寝そべる青い女性とリーズレットを交互に見て、同じ装いをしている事に首を傾げた。
リーズレットはサリィからタオルを受け取ると、女性の傷口に押し当てる。
白いタオルが赤く染まっていくのを見ながら、サリィに魔導車の中から医療キットを持ってくるよう指示を出した。
「ロビィ、ドレスを脱がしましょう」
『ウィ、レディ』
二人でドレスを脱がし、傷口に追加で運ばれてきたタオルを押し当てていく。
ロビィがハイヒールを脱がすと、
『レディ、こちらもパワー・ハイヒールです』
全身アイアン・レディ製の装備が使われている事が分かった。
「やはりアイアン・レディと関係がありそうですわね」
既に消滅してしまったと思われたアイアン・レディ。だが、ここへ来て自分の死後どうなったかヒントが得られそうだ。
「持ってきましたぁ!」
医療キットを持って来たサリィからケースを受け取って中を開ける。
ケースの中にある薬剤の入ったカートリッジを無針注射器にセット。それを女性の首筋に押し当てて注入した。
使ったのは医療キットに1本しか入っていなかった人体活性剤だ。ぶち込めばたちまち元気になる魔法の薬である。
死にそうな人間のアドレナリンを無理矢理放出させて、あの世から引っ張り起こす優れもの。
万が一の時に使う薬品であるが、アイアン・レディがどうなったかを知りたいリーズレットは出し惜しみをしない。
打ち込んだ瞬間、女性の体がビクリと跳ねた。弱々しかった脈は強くなり、一瞬だけ意識を取り戻す。
女性の目が薄っすらと開く。彼女の目にはボンヤリとリーズレットの姿が映ったのだろう。
故に、彼女は小さな声で呟いた。
「レ、レディ……マム……?」
そう言い残して、再び目を閉じる女性。
リーズレット達はお互いに顔を見合わせた。
「やはり、アイアン・レディの関係者ですわね。急いで止血しましょう。絶対に死なせませんわよ」
こうして、瀕死のブルーコスモスは伝説の淑女に救われたのであった。
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