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本編
45 淑女は自由
しおりを挟むさぁ、戦争の時間だ! 殺戮だぜベイベー! ……とはならず。
リーズレットは歓迎パーティーの翌日から行動を開始したものの、それは決して彼女へ期待を寄せる者達から歓迎されるような行動ではなかった。
「今日は街を見て回りますわよ」
彼女はそう言って護衛もつけずにサリィだけを連れて王城の外へと飛び出した。
この日、彼女が実際に行った事は首都の散策とベレイア連邦から奪った宝石の換金。
首都全体を歩いて回り、大金を手にして王城に帰って来た。
翌日、再び彼女は先日と同じように外へ出た。
「今日は素敵なアクセサリーを見つけましたのよ。お土産にお菓子も買ってきました」
王城に帰って来た後、どうだったかと問うガーベラに感想を言いながらお土産のお菓子を渡す。
「ありがとうございます」
お姉様から直々に手渡されたお土産を受け取って笑顔を浮かべるガーベラ。彼女を慕う部下やメイド達もほっこりとするようなシーンである。
しかし、リーズレットが出かける日はこの2日間だけでは済まなかった。
次の日も、また次の日も外へと出かけていく。
最初は元仲間である建国の母達が創った国を見て回りたいのか、他国で暮していた事もあって珍しいのか、と思って見送っていたが。
それが1週間以上続けば首を傾げる者が現れる。
加えて、1週間経った頃から本人は買い物と散歩だと言いながらも街を巡回する警備員から「男と飲んでいた」と報告が上がり始めたのだ。
リーズレットも人の子だ。誰かと食事したり、酒を飲んだりとする事もあるだろう。
しかし、それが1ヵ月も続けばどうだろうか。
気になったガーベラや国の重鎮達はリーズレットの行動を集め始めた。
どうやらリーズレットは街で食事を楽しみ、夕方になれば非番の軍人を酒場に誘って酒を飲んでいる様子。
それだけではない。
野心家と有名な若い男とデートしている姿も連日目撃され始めたのだ。
そんな毎日を送るリーズレットを知って、彼等が抱く感想は――
「所詮、伝説の淑女も女か」
ある者はそう零して、リーズレットを軽視する発言をした。
彼女に対して期待を寄せていた軍関係者も「遊び回っているだけで、我々の事など微塵も考えていない」と失望したようにため息を零す。
「お姉様……どういう事でしょう?」
「何かお考えがあるのだと思いますが……」
執務室にいたガーベラはコスモスからリーズレットが遊び回っているという噂が流れている事を聞いて少々心配になっていた。
彼女はガーベラを守ると言った。だが、国の行く末は貴女が決めろとも言った。
「叔父様はどう思いますか?」
コスモスは家の分家にあたる家系出身であり、現在ガーベラの補佐官を務めている叔父――サバスに意見を求める。
「……私もリーズレット様は何かしらの意図があるように思えます」
ガーベラの執務室で共に仕事を行う男。ダンディな口ひげを蓄え、年相応の白髪をオールバックに整えたジェントルメンは鋭い目をして頷いた。
やはり彼もグロリアの血が流れる者。レディ・マムに対して敬意を持っているからか、祖先が心の底から慕っていた淑女が腑抜けたなどとは思ってもいないようだ。
「本当に国の事には介入しないのかしら?」
しかし、どれだけ考えようともリーズレットが何をしようとしているのかガーベラにはまるでわからない。
問おうとしても『伝説の淑女』という立場に対し、不敬なのではと躊躇ってしまう。
そんな彼女が足踏みしている間に更に1ヵ月が経過。
リーズレットの行動は変わらない。
相変わらず街に出て散策をして、軍人や若い男と飲んでいるという噂だけが舞い込み続けた。
ここまで続くと最早リーズレットの評判は地の底だ。
王城で勤務する者達は表では伝説の淑女と敬う姿を見せながら、内心では軽視しつつあった。
「あの方は遊び回っているだけで頼れるわけないでしょう。期待した我々が愚かだったのです」
「まぁ、そうだろう。所詮は女だ。婚約者探しに夢中なのだろう? やらせておけば良い。脇から何か言われても面倒だしな」
軍の関係者――将校であるヨハン伯爵とバード伯爵の両名は会議の場で露骨な態度を見せて、リーズレットを侮辱しながら笑いの種にする始末。
「不敬ですよ。おやめなさい」
「ああ、申し訳ない」
その場にいたガーベラは注意をしたものの、彼等はヘラヘラと笑いながら態度を改める様子は見せなかった。
仕方なく、ガーベラは話題を変える為に最近行われた軍事行動について問う。
「南に派兵した部隊はどうなりましたか?」
「それが……。敵兵に待ち伏せを受けて半壊状態になりました。何とか撤退はできたものの……」
彼女がそう問うと答えたのは軍部に所属する若き男。ブライアンの同期であり、情報部の現トップであるサイモンという名の男だった。
報告を終えた彼はメガネを外し、眉間を揉んだ。どうやら、この件で苦労しているようで目には隈まで浮かんでいる。
「失礼しました。大隊の半数は撤退に成功。負傷者は出たものの、前線基地まで辿り着く事ができたようです」
南への派兵――この作戦は北と東からの同時攻撃をギリギリの数で抑えつつ、油断しているであろう2ヵ国へ補給を送っている南の小国に大隊を派兵して補給ルートを潰す作戦であった。
これはリーズレットがコスモスを拾った時の出来事だ。コスモスとブライアンが従事している任務が北と東を防衛する任務と同時期に南へ大隊が派兵されていたというわけである。
しかし、ブライアンとコスモスがリーズレットと共に東を上手く抑え込めたものの、本命の作戦は失敗。
輸送ルートを潰し、南の小国を他2ヵ国から孤立させようという作戦であったが……敵兵の待ち伏せを受けて大隊は半壊して撤退を余儀なくされた。
「ふん。やはり情報部などアテにならん。存在している意義はあるのかね?」
頭を悩ませ、ろくに眠れぬ毎日を送っていたサイモンを罵るのは先ほどのヨハン伯爵。
彼はカイゼル髭を指で触りながら見下すような視線と共に情報部の意義を問う。
「……申し訳ない」
情報部も内外の情報を必死に精査して最前線の軍人の為に、国の為に働いてはいるが……。
ここ最近は失敗続きだ。
貴重な兵士を失ったという事実は変えられない。サイモンは反論せず、素直に頭を下げた。
「貴様は若いからな。手柄を焦ったか」
「前任者は優秀だったが……。惜しい男を失くした」
ヨハン伯爵とバード伯爵は続けざまにそう言った。
情報部の長は1年前に戦死しており、彼の死後はサイモンが情報部を統括しているのだが……。
それがよくない。若いヤツは功を焦ると、2人はサイモンの資質を疑う発言を続けた。
「2人とも、おやめなさい。……サイモン卿。南の補給ルートを潰す件ですが、挽回できる見込みはありますか?」
ガーベラがそう問うとサイモンは立ち上がって頭を下げる。
「……陛下、この度の失敗。大変申し訳ございませんでした。挽回できるよう、情報を集めて手を尽くしている段階です。今しばらくお時間を頂きたく」
「北と東はどうですか?」
サイモンには返答せず、ガーベラは一度別の者に北と東の戦線状況を問う。
「北はマチルダ殿が睨みを利かせております。東は押し上げた事もあって一番順調ですね。その後、連邦軍が進軍してくる様子は見られません」
北にはガーベラもよく知る優秀な者が相変わらず睨みを利かせているようだ。
東はリーズレットが前線基地を落し、その後のブービートラップで一度撃退。
状況を把握したガーベラはもう一度、頭を下げ続けていたサイモンに顔を向ける。
「サイモン卿。あまり時間がありません。3日後に再び問います。その時に一度白紙に戻すか、継続するかを決めましょう」
「ハッ! 承知しました!」
その後は戦況報告がなされて会議は終了。
疲労困憊なサイモンは情報部に設けられた執務室に入ると、革張りの椅子にドカリと腰を降ろす。
首を椅子に預けて目を瞑る。連日の徹夜で今すぐにも眠ってしまいそうだ。
しかし、眠っている場合じゃない。半壊してしまった隊の為にも、自国の為にも働かなければと自分の体に鞭を打つ。
目を開けて、秘書が置いたであろう書類を手に取った時。扉の向こう側からノックする音が聞こえた。
ノックに答えると入室して来たのは共に軍の訓練生時代を過ごした同期の仲間。
「疲れているようだな」
ブライアンは執務机の上に持って来た紙に包まれたパンと飲み物を容赦無く置いた。
「食べている時間も惜しい」
「いいや、食え。酷い顔をしている」
拒否するサイモンだったが、ブライアンは引かない。
意外と頑固な思考を持つブライアンをよく知るサイモンは諦めて、レモン水の入った瓶を手に取って口へと運ぶ。
「ネズミは見つかったか?」
「いいや、全く」
今回の作戦失敗。相手は進軍するリリィガーデン王国軍を迎え撃つにしてもベストポジションで待ち伏せしていた。
しかも、進軍ルート上に魔導車を潰す為の地雷まで仕掛けて。地雷を用意したという事は偶発的に遭遇したとは言い難い。
明らかに内部から作戦の情報が漏れている。サイモンもブライアンもそうとしか思えない。
ネズミ――スパイが入り込んだ穴を見つけようとしているものの、穴もネズミ未だ見つけられず。
作戦失敗の報告を受けてから大急ぎで軍人全体の身辺調査を行ったものの、手掛かりはなかった。
「マムには助力を乞うたか?」
「いや、まだだ」
ブライアンは行き詰ったサイモンにリーズレットへの相談を勧めた。が、サイモンはまだできていない。
というよりは、彼女がすぐに外に行ってしまうので捕まらないというべきか。
「本当に彼女を頼って良いのか? 遊び回っているという話だが……」
「何か考えがあるのだろう。東を抑えられたのはあの方のおかげだ。ただ遊び回っているとは思えん」
最近ではよくない噂が飛び交うが、それでもブライアンは絶対的な信頼をリーズレットに向ける。
「あの報告は本当なのか? いや、お前が嘘をつくはずもないか……」
たった300の兵士とリーズレットだけで連邦の基地を堕としたという事実。
その場に同期の仲間であるブライアンがいたことから信じられるのは確かであるが、今のリーズレットの姿を見ているととてもじゃないが信じられない。
「嘘じゃない。本当だ。実際見たからな」
「ああ、信じているさ」
「だったら相談してみろ。夕食の時ならあの方もいるだろう」
行き詰ったサイモンにそう言って、友を心配するブライアンは軍の宿舎へと戻って行った。
一方、ガーベラと共に夕食を食べたリーズレットは自室に戻っていた。
「サリィ、明日からガーベラを誘って動きましょう。端末はコスモスに渡しておいて下さいまし」
「はいですぅ」
彼女はサリィが淹れた食後のお茶を優雅に楽しみながらそう言った。
丁度その時、コンコンとドアがノックされる。サリィがドアを開けて、訪れた人物を中へ通すとやって来たのはガーベラだった。
「あら? どうかしまして?」
「あの、お姉様……」
ガーベラが訪れた理由は最近のリーズレットに対する苦言……というか、彼女が今みんなにどう思われているのか知らせておこうという目的であった。
取り返しがつかなくなる前に本音をぶつけて、行動を改めてもらおうと。
ただ、やはりリーズレットに対して上手く口に出せない。ガーベラがもにょもにょと口を動かしていると、先に行動したのはリーズレットだった。
「丁度良かったですわ。明日、貴女を連れて行こうと思っていましたのよ」
「え?」
「私、とっても素敵な事を思いつきましてよ。ですから、一緒に出掛けましょう」
「え? あ、え? は、はぁ……」
突然の誘いに戸惑うガーベラ。明日は会議の予定があったかな? と思いながら曖昧に返事を返す。
しかし、リーズレットはダメ押しとばかりにガーベラの頬に触れると耳元にそっと口を寄せた。
「楽しみにしていなさい。とっても愉快ですわよ」
「ひゃ、ひゃい!」
ガーベラのリアクションにリーズレットは悪戯した少女のような笑みを浮かべて、彼女を部屋の外まで追いやった。
扉を閉めたリーズレットはサリィへと振り返る。
「さて、釣れるかしら? 相手が餌に飢えたマヌケな豚だと非常に助かりますわね」
「はいですぅ」
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