【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」

まほりろ

文字の大きさ
14 / 26

14話「これから」(最終話)

しおりを挟む
ティーセットの用意されたガゼボで、私は父とエデルとお茶を楽しんでいた。

「復讐が終わっても、心が思ったより晴れませんわ」

父からスタン様の最後を聞いても、私の心は一ミリも動かなかった。

「そうですか」というのが、私の正直な感想だ。

スタン様は北の塔に幽閉されたあと、水一滴すら飲めなくなり、餓死したそうだ。

「それにしても餓死ですか。北の塔にはネズミや虫が出るのでしょう? ネズミに毒味させることもできたでしょうに」

「それは犠牲になるネズミが可愛そうだよ」

エデルの言い方では、スタン様の命はネズミ以下ということになる。あながち間違っていないかもしれない。

「わしはアリシアがもっと喜んでくれると思ったんだけどな」

父が拗ねたように言う。

「ごめんなさいお父様。あれこれして頂いたのに、気が晴れないなんて言ってしまって」

「大丈夫だよアリシア。わしは娘のためになんでもするから、消したい奴がいるなら、これからも遠慮なく言いなさい」

「ありがとうございますお父様。ですが、私が復讐したかったのはスタン殿下とその仲間たちだけでしたので、今後はご迷惑をおかけすることはないと思いますわ」

スタン殿下、ゲレ、ルーウィー、ジェイ、カスパーの五人は死んだ。

もう私の心を煩わせるものはいない。

「元気ないね、アリシア。彼らは前世で君を殺した奴らなんだろ?」

エデルにも、私がタイムリープしたことを話した。

笑われるかと思ったが、エデルは意外なほどあっさり信じてくれた。

「エデル。確かに私はやり直す前の人生で、スタン様たちに濡れ衣を着せられ殺されたわ」

「奴らは殺されて当然のことをした。君が彼らの死を心に留める必要はないよ」

エデルが言った。

「でも、今回の人生で彼らはまだ何も罪を犯していないわ。

られる前にってやるという思いから、報復することだけを考えて生きてきたけど、復讐が終わった今、これで良かったのか分からないの」

「そうかな? 少なくとも、スタン、ジェイ、カスパーはこの世界でも罪を犯しているよ。ジェイとカスパーはファルケ殿下への不敬罪。スタンはアリシアへの暴行」

「エデル殿の言うとおりだ。それにスタンが生きていれば、ファルケ殿下や第三王子を妨害し、お二人の命を狙っただろう。アリシアが何もしなくても、スタンはいずれは粛清された。もしくは自滅した」

「エデルとお父様のおっしゃる通りかもしれないわね」

バナンルーウィーにしてもそうだ。バナンもルーウィーも、公爵家の長女であるアリシアに対して敬意がなかった。アリシアを軽んじるあの二人がわしは嫌いだった。

アリシアがスタンと婚約しないなら、アリシアは公爵家を継ぐことになる。アリシアがいるなら、ルーウィーを養子にする必要はない。

ルーウィーを公爵家の養子に出さなければ、バナンは公爵家から金をもらえず、借金を返せず破産した。

アリシアがスタンと結婚しないと決めた時点で、ホルン子爵家は破産し、バナンとルーウィーは平民に落ちることが決まっていたのさ。

ホルン子爵家の借金はバナンがギャンブルで作ったものだ。破産したのは自業自得さ。

貴族の暮らししか知らない甘ったれた二人が、市井で生きていけるとは思えない。

わしたちが何もしなくても、バナンとルーウィーは死んだよ」

「お父様。そう言われればそのとおりですね」

私が何もしなくてもあの二人は死んだ。私が罪悪感を覚える必要はない。

「フォスター公爵のおっしゃるとおりだよ。

ゲレという女だって、自らの意思で美味しい仕事に飛びついたんだろ?

簡単に大金が稼げるなんて怪しさ満載なのに。そういう女はいずれ破滅したさ」

「エデルの言うことにも一理あるわね」

「アリシア、他人のせいにする訳ではないが、ファルケ殿下を王太子にするために、邪魔な石を取り除いた……そう思えばいいんだよ」

お父様がおっしゃった。

「そうですわね。貴族社会なんて汚くて、泥臭くて、足の引っ張りあいが横行する世界。

己の保身のためにられる前にる世界。邪魔な石ころなら取り除いて当然。

無駄にセンチメンタルな気分になって損しましたわ」

エデルとお父様と話していたら元気が出てきた。

「それでこそアリシアだよ」

「元気が出たみたいで良かった」

エデルとお父様が顔を綻ばせる。

つられて私も笑っていた。

私の笑顔を見た二人は、安堵の表情を浮かべた。

「それでも苦しいなら忘れないで。アリシアが背負う罪は僕も一緒に背負うよ」

エデルが私の手を握る。

「もちろんわしもアリシアの力になるよ」

父が私の肩に手を添えた。

「エデル、お父様、ありがとうございます」







私は、罪なき命を奪ったことを忘れることはないだろう。

だが決して後悔しない。

これからも私はフォスター公爵家の進路を阻む石ころを、時に蹴飛ばし、時に焼き尽くし、時に海に沈めて、排除する。

それが貴族の生き方だから。

貴族の世界は弱肉強食。

られる前にらなければ、滅びてしまうのだから――――。





――本編・完――





やり直し前の世界で、フォスター公爵が王太子(スタン)一味に復讐する話を執筆中です。近日中に番外編としてアップする予定ですので、そちらもよろしくお願いします。










☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆







完結「彼女のことは愛してないし、彼女を愛することはこれからもないよ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/749914798/681592804 #アルファポリス
こちらもよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

悪役令嬢は手加減無しに復讐する

田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。 理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。 婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。

処理中です...