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8話「運命の出会い……!」
しおりを挟む「……きぅ………」
その時、下の方でかすかな音がした。
「どうされましたお嬢様?」
「しっ、静かに」
私は自分の口に人差し指を当て「しー!」の合図をした。
「きゅぅ……ん」
声は茂みの方から聞こえた。
私はかがんで茂みの中を覗いてみた。
「ワンコだわ」
そこには黒い家の仔犬が横たわっていた。
仔犬は全身をぷるぷると震わせていた。
目が合った瞬間、体に稲妻が走った。
やだ! 可愛い! この子がほしい!
「おいで、怖くないよ」
私がそう呼びかけると、仔犬はヨタヨタと歩きながらこちらに近づいてきた。
「そうそう、いい子ね」
人間の言葉がわかるのかな?
それとも犬には、善人がわかるのかしら?
とにかく賢い子だわ!
ますますほしくなった!
「やだ、全身ずぶ濡れじゃない!」
仔犬を抱っこすると、毛が湿っていた。
今日は雨は降ってない。川か池に落ちて濡れてしまったのだろう。
「お嬢様、お召し物が汚れます!」
「構わないわ!
それより急いで馬車に戻るわよ!
この子を屋敷に連れ帰ってお風呂に入れなくちゃ!」
その後、獣医にも来てもらおう。
どこか怪我してたり、病気にかかっていたら大変だ。
「お嬢様、その犬を連れて帰るのですか!?」
「あらあなたはこの子を見捨てる気なの?
そんな薄情なこと私にはできないわ!
だって茂みの中にいるこの子と目が合った瞬間、心臓を撃ち抜かれてしまったんだもの!
絶対に家に連れて帰るわ!
私が飼うのよ!」
ペットが欲しいと思ったときに、偶然仔犬と遭遇するなんて運命を感じちゃう!
私は何やら言いたげな顔をしている護衛を無視し、仔犬を抱えて馬車に向かって走った。
一秒でも早くこの子をお風呂にいれてあげないと!
護衛が私の後に付いて走ってくる。
馬車に乗り込み御者に全速力で家に帰るように伝えた。
馬車の客席で仔犬を撫でていたとき、不意に未来が見えた。
綺麗に洗われた仔犬には綺麗な首輪がついていて、仔犬が私の顔をペロりと舐めているシーンが見えた。
やはりこの子は家で飼う運命なんだわ!
そう言えば、恋愛以外の未来が見えるのは初めてかも?
顔をペロペロするのは仔犬の求愛行動だったのかな?
私の運命の相手はこの仔犬?
まあそんなことはどうでもいいわ。
今はこの子をお風呂に入れて、ご飯を食べさせるのが先だわ!
そうそう、名前もつけないとね。
これが本当に運命の相手との出会いであることを、この時の私は知らなかった。
◇◇◇
一週間後――
「ハルは本当に可愛いね!
大好きだよ!
絶対に離さないからね!」
拾ってきた仔犬をお風呂に入れ、ご飯を食べさせ、獣医に見せた。
その結果お腹が空きすぎて少し痩せていたけど、仔犬の健康状態に以上はないことがわかった。
それから私は毎日、仔犬のブラッシングして、ソファーで一緒にゴロゴロして、お揃いの首輪(チョーカーを付けて)一緒にお散歩して、お庭で一緒に遊んで、夜は一緒にお風呂に入って、一緒のベットで寝ている。
「そうして一人と一匹でいると、まるで恋人同士だな」
私が自室のソファーでゴロゴロしながら、ハルとイチャイチャしていると、兄が部屋に入ってきた。
「フィオナ、お前人間の婚約者を探すのはやめて犬に乗り換えたのか?」」
兄は部屋でだらだらしている私を見て、ため息をついた。
実際、お見合いを辞め、他家のお茶会に参加していないから、暇なのは事実だ。
その時間を全部ハルとの時間に当てている。
「ハルが私の婚約者?
それもいいかもね」
私はハルの額にチュッとキスをした。
「嫌味で言ったのがわかんないのか?
お前、そんなんだと行き遅れるぞ。
ペットを飼うと婚期を逃すって本当だな」
「行き遅れてもいいもん。
ハルと暮らすから」
「駄目だ……手遅れだったか。
というかその犬の名前『ハル』にしたのか?」
「ハルとハグしたとき、ハルとの未来が見えたんだよ。
未来の私は『ハルが大好きだよ』って言って、ハルとキスしてた」
ハルとラブラブな未来を視てしまった。
「お前の未来視って、人間の恋愛限定じゃなかったのか?」
「そう言われるとそうだね」
恋愛に関係ない未来が見えたのは初めてだ。
「きっと、ハルが私の運命の相手なんだよ。
それでハルとの幸せな未来が視えたんだよ」
私はそう思い込むことにした。
「犬が義弟になるなんて嫌だぞ」
「うるさいなぁ。
婚約者候補が浮気する未来を視るのも、お茶会に参加して令嬢達の恋の行方を視るのももう嫌なの、疲れたの。
今の私には癒しが必要なの。
癒し=ハルなの」
お見合い嫌だよ~。お茶会もパーティーも疲れたよ~。ハルと日向でだらだらしてたいよ~。
「婚期を逃した妹が、実家に居候しながら『犬が婚約者です』とか言ってる未来とか笑える」
兄が皮肉を込めて言った。
「実家に居候なんかしない。
自立するんだから!」
「世間知らずなお前がどうやって自立するんだよ?
しかも犬込みで。
王都のアパートは犬と暮らす為には貸し出してないぜ」
兄の言いたいこともわかる。
アパートは賃料が安い代わりに、ペット不可のところが多い。
ハルと暮らすなら一軒家を借りなくてはいけない。
一軒家はアパートと違って、賃料が高い。
一軒家での暮らしを維持するならそれなりに稼ぎが必要だ。
「ちゃんとプランはあるよ。
時々占いを装って貴族令嬢の恋の行方を視てあげるの。
そうすれば占いの稼ぎだけで暮らしていけるわ。
ハル一匹ぐらい私の稼ぎでも養えるんだから!
ハルの為に高級シャンプーとトリートメントと、骨付きのお肉と、ふかふかのソファーを買えるぐらい稼げるんだから!」
ハルと一緒に一生だらだらラブラブ暮らす為なら、私はなんだってやるわ。
「もう勝手にしろ。
実家に泣きついてきても助けてやらないからな」
兄はそう言って部屋を出ていった。
「勝手にするよ~~!」
兄の言いたいこともわかるのだ。
それでももうお見合いはしたくないのだ。
これ以上、お見合い相手の浮気シーンを見たら、人間不信を通り越して、心を病んでしまう。
今の私には癒やしが必要なの。
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