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第二章・リシェルとエカードの出会い
第2章・6話「お勉強の時間」
しおりを挟む辺境伯家に来て二か月。
「皇子様、剣術の訓練サボって何やってるの!
お父様に言いつけるわよ!」
自室としてあてがわれた部屋で教育係と共に勉強をしていたら、リシェル嬢が部屋に飛び込んできた。
何気にリシェル嬢が初めて俺の部屋に来てくれたのだが!
お茶とお菓子を出しておもてなししたい!!
しかし今は厳しい教育係の目がある。
俺は飛び跳ねたい気持ちを抑え、なんとか平常心を保った。
でも嬉しさを抑えられず、口元がニヤついてしまった。
教育係がそんな俺を見て、クスクスと笑っている。
「リシェル嬢、今日は雨だから室内で勉強しているんだよ」
「勉強……?」
「そうだよ。
俺は皇太子だから勉強もしなくちゃいけないんだ。
辺境伯からも雨の日は勉強に専念していいとの許可をもらっているよ」
「お父様が許したの?」
「うん、今日は歴史と天文学の勉強をしていたんだ。
リシェル嬢は雨の日も室内で剣術の訓練?」
諦めずに根気よく教えた甲斐があり、リシェル嬢のテーブルマナーは大分上達してきた。
長時間続けると粗が目立つ。なのでもう少しマナーとダンスのレッスンが必要だ。
できればリシェル嬢には雨の日はテーブルマナーやダンスの復習をしてほしい。しかし無理強いはよくない。
「……つまんない」
「えっ?」
「皇子様と一緒じゃなきゃ、つまんない!」
頬をぷっくりさせ、リシェル嬢がダダをこねはじめた。
ええ~~~~!!
なにこれ!? なにこれ!?
リシェル嬢が可愛過ぎるんだけど!!
今すぐ抱きしめてリシェル嬢のほっぺにチューしたいんだけど!
デレ? これはどう考えてもデレだよね!
なんで急にデレだしたの??
長く過ごすうちにリシェル嬢が俺の魅力に気づいたとか!?
「よし、じゃあ勉強なんか止めて今から別室で素振りを……」
俺は椅子から立ち上がろうとした。しかし教育係に肩を掴まれて席に戻されてしまった。
「だめですよ殿下。ただでさえ辺境伯領に来てから勉強が遅れがちなんですから。
これ以上殿下の勉強が遅れるようなら、帝国に強制送還……」
「わかった! ちゃんと勉強する!」
教育係め、強制送還をちらつかせるなんて卑怯だぞ!
せっかくリシェル嬢が俺の部屋まで来て『皇子様がいないと寂しいわ。一緒に素振りしましょう』と瞳をうるうるさせながら誘ってくれたのに!(若干記憶が改ざんされてます)
「すまないリシェル嬢、俺は今日一日勉強しなくてはいけないんだ。
この埋め合わせは必ず……」
「でしたらこういうのはどうでしょう?
雨の日はリシェル様も一緒に勉強するというのはいかがですか?」
教育係が俺の言葉を遮り、リシェル嬢を勉強に誘う。
そうだよ! リシェル嬢も一緒に勉強すればいいんだよ!
そうすれば俺もリシェル嬢も寂しい思いをしなくてすむ!
ナイスだ! 教育係!
「勉強……?」
「リシェル様はお勉強はお嫌いですか?」
「嫌い。
外で体を動かしている方が好き。
勉強なんかできなくても生きていけるもん!」
「確かに文字が読めなくても、算術ができなくても、歴史を知らなくても、地図が読めなくても、夜空に輝く星の名前を知らなくても生きていくことはできます」
「だったら私は勉強しない」
「ですが、勉強をすれば人生に彩りを加えることができます」
「いろどり?」
「ええ、例えばこの本なかなか素敵な挿絵が載っているでしょう?」
教育係が開いた本の中には、大昔の英雄が後の親友兼家臣になる者との出会いのシーンが描かれていた。
「文字が読めればこの二人がどのような関係なのか、この二人はどのような生い立ちなのか、これからどうなるのか知ることができます。
他にも天文学を知れば、夜空に浮かぶ星がなぜ毎年決まった場所に現れるのかわかりますし、
地理を学べばニクラス王国と周辺諸国の位置関係や気候によって育つ作物の違いがわかり、
歴史を知れば自分のルーツがわかります」
「るーつ?」
「リシェル様は勇者の末裔です。
初代勇者が生きた時代がどのような時代だったのか知りたくないですか?」
「……ちょっと知りたいかも」
「では一緒に学びましょう。
まずはこの国の文字から、その後帝国の文字も覚えましょうね」
教育係は空いている椅子にリシェル嬢を座らせた。
悔しいけど教育係に完敗だ。
俺ではリシェル嬢に勉強の楽しさを教えることはできなかった。
「この国の文字を学ぶのはわかるけど、帝国の文字が読めるようになる必要があるの?」
リシェル嬢は将来俺のお嫁さんになってもらう予定だ。
ぜひ帝国の文字も読めるようになってもらいたい!
「ええ、ありますよ。
帝国の文字が読めれば、将来帝国に移住することになっても困りません。
それに……遠く離れた相手に文を送ることもできます」
「ふみ?」
「手紙のことです。
殿下が帝国に帰ったあと、殿下宛に手紙を書いていただけると助かります」
「待て!
俺が祖国に帰るときは、リシェル嬢を婚約者として連れて帰る予定だ!」
「殿下、現実を見てください」
その時の教育係の目は真剣で、でもどこか切なげで、後から思うと教育係はゼーマン辺境伯家の呪いについて知っていたのかもしれない。
「わかったよ、いきなりリシェル嬢を祖国に連れて帰るような真似はしない」
リシェル嬢はまだ幼い、親元から離れて他国に暮らすのは不安だろう。
リシェル嬢をいつ頃帝国に呼ぶかはおいおい考えるとして、取り敢えずいまはリシェル嬢と婚約だけは結んでおきたい。
「リシェル嬢はまだ幼いし、まずは婚約だけ結んでおこう。
その後はしばらくお互い親元で暮らし、手紙でやり取りをしよう」
「殿下……」
教育係はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、俺はそれを無視した。
「それなら問題ないだろ?
リシェル嬢、俺は帝国に帰ったら毎日君宛に手紙を書くよ。
だからリシェル嬢も俺に手紙を書いてくれ!」
「そう……皇子様もいつかは帝国に帰るのよね」
「リシェル嬢もしかして寂しい?
君が望むなら俺が辺境伯家の婿養子に入っても……」
「それはありえません。
殿下は皇帝陛下の一人息子でしょう?」
「うう……やはりリシェル嬢を嫁に貰うしかないのか……?」
「私が皇子様のお嫁さんになるかは置いといて。
皇子様がいなくなったら少しだけ寂しくなるから、たまにでいいなら手紙ぐらい書いてあげる」
リシェル嬢がそう言って頬を赤く染めた。
ツンデレのデレが来たーーーー!!!
「俺もたくさん手紙を書くよ!」
「手紙を書くくらいなら、帝国まで走って行って直接皇子様に会った方が早そうだけど」
「リシェル嬢は冗談が上手いな。
帝都はうんと遠いんだよ。
走ったら何日もかかってしまうよ」
このときの俺は、本気になったリシェル嬢が馬の何倍も早く走れることを知らない。
教育係はリシェル嬢に文字の他に算術や天文学や歴史や地理や幾何学などを教えた。
それらの教育はリシェル嬢がニクラス王国の王太子と婚約したときに役立つことになる。
帝国に帰った俺は勇者の血族に受け継がれる呪いについて知らされ、愕然とするのだった。
それはもう少し後のお話。
俺はもうしばらく辺境伯家に滞在することになる。
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