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3話「塔での幽閉生活」
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王太子に公爵家から拉致されて一カ月が過ぎた。
王太子と正室のハンナ様の結婚式と結婚披露パーティーは華やかに行われたらしい。豪華な馬車に乗りハネムーンに行ったらしい。
その間私はずっと塔に閉じ込められている。国民は私が王太子の側室になったことすら知らないだろう。宮中でもどれだけの人が知っているか……。
ハンナ様の王太子妃教育が一カ月で終わったとは思えないが、王太子が無理やり結婚式の日取りを早めたのだろうか?
どうでもいい、私は王宮の隅にある古びた塔に監禁され、一歩も外に出ることができないのだから。
塔の見張りが朝夕二回食事を運んでくるだけであとは静かなものだ。
食事と言っても硬いパンと具のないスープだけなのだが。王太子が結婚した日はデザートにりんごが一つ出た。見張りが「豪勢な結婚式だった」と言っていたので、二人が結婚したことが分かったのだ。
ここで入ってくるのはおしゃべりな見張りが漏らす情報のみ。王太子とハンナ様の結婚も、二人が新婚旅行に行ったことも彼から聞いた。
塔は石造りで朝晩は冷える。部屋にあるのは硬いベッドと大きな執務机のみ。
衣服は平民が着るような白無地の粗末なワンピース。
執務机と椅子がこの部屋で一番豪華だ。
部屋の扉は鉄製で、扉の外には兵士が二人。
無理やり拉致して王太子の側室にしておいて、この扱いはないんじゃない? これではまるで罪人だ。
ここでの楽しみは食事のみ、その食事さえ時々見張りが意地悪してるわざとスープをこぼしたり、パンを踏みつけたりする。
でもしっかり食べておかなければ! 幸い味はともかく量は足りている。空腹ではいざと言うときに動けない。
兵士に踏みつけられたパンでも食べて栄養に変えておかなければ。
絶対にここから逃げ出してやる! 私は転んでもただでは起き上がらない!
希望はまだある、あとはチャンスを待つのみ!
◇◇◇◇◇
さらに一カ月ほどしたある日、王太子が血相を変えて部屋にやってきた。
「どういうことだエルフリーナ!!」
扉を開けて入って来るなり、王太子は執務机をバンと叩いた。
振動で書類が十枚ほど床に落ちた。
「どういうこととおっしゃいますと?」
表情を変えず王太子の目を見る。
「この二カ月ちっとも仕事をしてないそうじゃないか!」
山積みにされた書類を見て王太子が眉を釣り上げる。
机の上に置ききれなかった書類が床にも高く積まれている。
「君が仕事を怠けて無駄飯を食らっているなんて、結婚式の準備と新婚旅行で忙しくて気づかなかったよ!」
王太子が自分の仕事が進んでいないことに二カ月も気が付かないのはいかがなものかと思うが。
この王太子は昔からそうだ。自分の仕事を人に押し付けて遊び呆けている。今までは私が完璧に仕事をこなしていたから、仕事が滞ったこたなどなかったのだろう。
「ハンナをいじめるような心の醜い君を王太子の側妃にしてやり、部屋と食事を与え、仕事をさせてやってるというのに……!」
脳みそお花畑王子様は、どこまで自己中心的で傲慢で理不尽な考えを押し付けてくる。
浮気相手と真実の愛に目覚めたからと大勢の前で婚約破棄され、無実の罪で国外追放を命じられ、
翌日いけしゃあしゃあと公爵家を訪れ「ハンナと結婚するため側室になれ! お前は仕事だけしていろ!」と理不尽な要求を突きつけられ、
私の同意を取らず親の同意のみで契約を成立させ、攫うように屋敷から連れ出し、形だけとはいえ無理やり結婚させられ、粗末な衣服と食事しか与えられず牢獄のような場所に監禁され……。
ここまでコケにされて、真面目に仕事をこなす人間がいると思っているのでしょうか?
そのことにニカ月も気が付かずハンナ様と遊び呆けていたとは……滑稽ですね。塔に閉じ込められてから初めて愉快な気持ちになりました。
「こんなことは言いたくないがエルフリーナ! 君がこのまま仕事をしないのなら僕にも考えがある!」
「考えとは?」
「君の実家のアーレント公爵家に責任をとってもらう!」
私の顔を指差し、王太子がドヤ顔で言い放つ。
その顔には「家族を人質に取られたらぐうの音もでないだろ!」と書いてありました。
心底馬鹿なんですかね、この王太子は? 私を売った親と、私の不幸をあざ笑っていた妹に、情があるとでも思ってるのかしら?
もはや親だとも妹だとも思っておりません。
彼らより毛虫の方が可愛いと思えるレベルです。
「君の妹のラウラ・アーレント嬢はフォークト公爵家との縁談が決まっている! 君が態度を改めないのなら妹の不義をでっち上げ婚約をなかったことにするぞ! 妹に悪い噂が流れ結婚がだめになったら君だって嫌だろ? 妹が傷ついて泣くところなんて見たくないだろ? ご両親が社交の場で恥をかく姿なんてみたくないだろ?」
鬼の首をとったみたいな顔で王太子が私に詰め寄ります。
私が国外追放になった途端、アクセサリーもドレスも部屋も奪った妹がどうなろうと私の知ったことではありません。
私の口を塞いだ継母と勝手に契約書にサインした父が、社交界でさらし者になろが笑いものにされようが一向に構いません。
フォークト公爵家は古くから続く名家、妹のラウラは下品で教養もないあばずれ。むしろ妹との縁が切れた方がフォークト公爵家のためです。妹の不義の証拠は王太子がでっち上げなくても、少し叩けばいくらでも出てくるでしょうし。
「どうぞ」
「なっ……!」
王太子が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「だからお好きにどうぞと申しました」
「つ、強がりを言うな! 家族がそんな目に合わされて平気なわけがないだろう?
家族に関心がないふりをしても僕は騙されないぞ!
僕は優しいから君にチャンスを与えてやる! 今すぐ仕事をするんだ! 提出期限の過ぎているものもあるから徹夜でやれ! そうすれば許してやる!」
だからあんな人たち家族ではありませんし、その人たちがどうなっても私には関係ないのですが。
「私も王太子殿下にチャンスを与えます。卒業パーティーの婚約破棄から今までのこと、私に謝罪する気持ちはありませんか?」
これが最後通告ですよ殿下。
五歳で王太子と婚約してから、王太子と王妃にはずっと煮え湯を飲まされて来た。
本当なら五歳から今まで王太子が私にしてきた数々の仕打ちに、私がどれだけ傷つき、理不尽な思いに耐え、苦しみと悲しみの日々を送ってきたか、三時間みっちり説教してやりたいところです!
だがこのポンコツ王太子の頭ではそこまで過去に遡って追求しても、覚えていないだろう。一年前に何をしたか覚えているかもあやしい。
なのでおおまけにまけて、卒業パーティーから今日までのことを反省できたら許してあげようと思う。
「ハッ! 笑わせるな君が僕にチャンスを与えるだと? ハンナの美しさに嫉妬して陰惨ないじめを繰り返した性悪女のくせに ! 君に言いたいことや文句なら山ほどあるが、僕が君に謝らなければならないことなど一つもない!」
王太子がキッパリと言い切った。私への罪悪感はかけらもないことが、これでよく分かった。
「王太子殿下は私がハンナ様をいじめたとおっしゃいますが証拠はおありですか? まさかとは思いますがハンナ様の証言だけとはいいませんよね? ハンナ様の証言だけを信じ、何も調べずに卒業パーティーで私を断罪したわけでありませんよね?」
「それは……!」
王太子が顔を引きつらせ額から汗を流す。図星だったようだ。
少し調べればハンナ様の証言が嘘だと分かったはず。
むしろ王太子の寵愛を傘に、身分の低い貴族の令嬢を平気でいじめていたのは、ハンナ様なのだ。
いじめられた生徒が私に助けを求めてきた。ハンナ様に注意したら、その日から目の敵にされ悪い噂を流され、卒業パーティーで王太子に婚約破棄と国外追放を言い渡された。
ハンナ様の言葉など教師を含め誰も信じていなかった。被害妄想か気を引きたいための嘘だとみんな分かっていた。
生徒会の仕事が忙しかったので噂を放置した。まさかそんな噂を信じるバカがいようとは……それがよりによって婚約者の王太子だったとは。
「ハンナは私の妻だ! 夫が妻の言葉を信じて何が悪い!」
お言葉ですが名義上私もあなたの妻なんですけどね。側室ですが。
「卒業パーティーのときはハンナ様は殿下の正室ではありませんでした。あのときはまだ殿下は私の婚約者でした。殿下は婚約者の言葉を信じずに浮気相手の男爵令嬢の言葉を信じたのですね」
「ぐっ……! それはお前の態度が悪いから」
王太子の額から滝のように汗が流れる。
「すっ、過ぎたことをごちゃごちゃとうるさいぞ! 自分が正室になれなかったからハンナにヤキモチをやいているのだろう?
だがもう遅い! ハンナのお腹には僕の子供がいるんだからな!」
結婚して二カ月でもう子がいる? 結婚しているのだから子供ができても不思議ではないが、子供が出来たことに気づくのが早すぎる。妊娠に気づくのは三カ月目以降ではないだろうか?
「もしかして殿下、婚前に行為を……?」
結んだと考えて間違いないだろう。
「それがどうした! 僕は王太子でその子は未来の王子か姫だ! 世継ぎを生んでくれるんだ! その女を大切にするのは当然だろ? 婚前に性行為をしたくらいでとやかく言われる筋合いはない!」
王太子が開き直った。婚約者のいる身で不貞行為をしておいて悪びれる様子もない、色んな意味で終わってる。
国民の見本となる王太子が、婚前に婚約者以外の女と性行為をし、子供をつくる行為がどれだけ問題か、認識すら出来ていない。
王太子妃の教育は血を吐くほど厳しかったが、王太子の教育はどうなっていたのだろう?
国王と王妃を問い詰めて文句を言ってやりたい。
国王と王妃が王太子とハンナ様の結婚を認めたのはお腹に子供がいたから? 二人の結婚を急いだのもおそらくそのため。
「とにかく僕はお前に謝ることなど一つもない! 詫びるのはお前の方だ! 父上も母上もお前の執務能力の高さだけは買っている! だからお前は生かされているんだ! でなければ高慢チキなお前などとっくに処刑されている! 分かったら僕と父上と母上の優しさに感謝してさっさと仕事をしろ!」
国王も王妃も、私を仕事をするだけの人形ぐらいにしか思っていないのね。
「分かりました」
私が彼らにとってどういう存在なのか…………どこの誰まで復讐すればいいのかが。
「やっと自分の立場が分かったか!」
王太子が満面の笑みを浮かべ腰に手を当てふんぞり返る。
「失礼ですが殿下、子供が出来たなら下半身の大事なものはもう必要ありませんよね」
にっこりと笑い王太子に近づく。
王族の血筋を絶やすのには抵抗があった。無能でポンコツの王太子でも、幼い頃からの知り合い。その人を不能にすることに僅かなためらいがあった。
家族に迷惑をかけることも一瞬頭をよぎった。
卒業パーティーで婚約破棄されたときは、王太子のことを阿呆でも国の継ぐ尊い人だと思っていた。父と継母と妹がひどい人間でも家族だと思っていた。だから卒業パーティーでは実行しなかった。
殿下が公爵家にいらしたときは、空腹で力が出せなかった。
だけど今は違う。アーレント公爵家の人間を家族だとは思っていない。目の前の男に幼馴染としての情も王太子としての尊敬の念もない。
私は私をゴミくずのように扱った王太子も、私を嵌めたハンナも、私を王族に売った父も継母も妹も、私を仕事をする人形ぐらいにしか思っていない国王も王妃も許せない!!
「殿下、息子にさよならを言ってください」
王太子の手に触れ、王太子のペニスを消し去った。
王太子と正室のハンナ様の結婚式と結婚披露パーティーは華やかに行われたらしい。豪華な馬車に乗りハネムーンに行ったらしい。
その間私はずっと塔に閉じ込められている。国民は私が王太子の側室になったことすら知らないだろう。宮中でもどれだけの人が知っているか……。
ハンナ様の王太子妃教育が一カ月で終わったとは思えないが、王太子が無理やり結婚式の日取りを早めたのだろうか?
どうでもいい、私は王宮の隅にある古びた塔に監禁され、一歩も外に出ることができないのだから。
塔の見張りが朝夕二回食事を運んでくるだけであとは静かなものだ。
食事と言っても硬いパンと具のないスープだけなのだが。王太子が結婚した日はデザートにりんごが一つ出た。見張りが「豪勢な結婚式だった」と言っていたので、二人が結婚したことが分かったのだ。
ここで入ってくるのはおしゃべりな見張りが漏らす情報のみ。王太子とハンナ様の結婚も、二人が新婚旅行に行ったことも彼から聞いた。
塔は石造りで朝晩は冷える。部屋にあるのは硬いベッドと大きな執務机のみ。
衣服は平民が着るような白無地の粗末なワンピース。
執務机と椅子がこの部屋で一番豪華だ。
部屋の扉は鉄製で、扉の外には兵士が二人。
無理やり拉致して王太子の側室にしておいて、この扱いはないんじゃない? これではまるで罪人だ。
ここでの楽しみは食事のみ、その食事さえ時々見張りが意地悪してるわざとスープをこぼしたり、パンを踏みつけたりする。
でもしっかり食べておかなければ! 幸い味はともかく量は足りている。空腹ではいざと言うときに動けない。
兵士に踏みつけられたパンでも食べて栄養に変えておかなければ。
絶対にここから逃げ出してやる! 私は転んでもただでは起き上がらない!
希望はまだある、あとはチャンスを待つのみ!
◇◇◇◇◇
さらに一カ月ほどしたある日、王太子が血相を変えて部屋にやってきた。
「どういうことだエルフリーナ!!」
扉を開けて入って来るなり、王太子は執務机をバンと叩いた。
振動で書類が十枚ほど床に落ちた。
「どういうこととおっしゃいますと?」
表情を変えず王太子の目を見る。
「この二カ月ちっとも仕事をしてないそうじゃないか!」
山積みにされた書類を見て王太子が眉を釣り上げる。
机の上に置ききれなかった書類が床にも高く積まれている。
「君が仕事を怠けて無駄飯を食らっているなんて、結婚式の準備と新婚旅行で忙しくて気づかなかったよ!」
王太子が自分の仕事が進んでいないことに二カ月も気が付かないのはいかがなものかと思うが。
この王太子は昔からそうだ。自分の仕事を人に押し付けて遊び呆けている。今までは私が完璧に仕事をこなしていたから、仕事が滞ったこたなどなかったのだろう。
「ハンナをいじめるような心の醜い君を王太子の側妃にしてやり、部屋と食事を与え、仕事をさせてやってるというのに……!」
脳みそお花畑王子様は、どこまで自己中心的で傲慢で理不尽な考えを押し付けてくる。
浮気相手と真実の愛に目覚めたからと大勢の前で婚約破棄され、無実の罪で国外追放を命じられ、
翌日いけしゃあしゃあと公爵家を訪れ「ハンナと結婚するため側室になれ! お前は仕事だけしていろ!」と理不尽な要求を突きつけられ、
私の同意を取らず親の同意のみで契約を成立させ、攫うように屋敷から連れ出し、形だけとはいえ無理やり結婚させられ、粗末な衣服と食事しか与えられず牢獄のような場所に監禁され……。
ここまでコケにされて、真面目に仕事をこなす人間がいると思っているのでしょうか?
そのことにニカ月も気が付かずハンナ様と遊び呆けていたとは……滑稽ですね。塔に閉じ込められてから初めて愉快な気持ちになりました。
「こんなことは言いたくないがエルフリーナ! 君がこのまま仕事をしないのなら僕にも考えがある!」
「考えとは?」
「君の実家のアーレント公爵家に責任をとってもらう!」
私の顔を指差し、王太子がドヤ顔で言い放つ。
その顔には「家族を人質に取られたらぐうの音もでないだろ!」と書いてありました。
心底馬鹿なんですかね、この王太子は? 私を売った親と、私の不幸をあざ笑っていた妹に、情があるとでも思ってるのかしら?
もはや親だとも妹だとも思っておりません。
彼らより毛虫の方が可愛いと思えるレベルです。
「君の妹のラウラ・アーレント嬢はフォークト公爵家との縁談が決まっている! 君が態度を改めないのなら妹の不義をでっち上げ婚約をなかったことにするぞ! 妹に悪い噂が流れ結婚がだめになったら君だって嫌だろ? 妹が傷ついて泣くところなんて見たくないだろ? ご両親が社交の場で恥をかく姿なんてみたくないだろ?」
鬼の首をとったみたいな顔で王太子が私に詰め寄ります。
私が国外追放になった途端、アクセサリーもドレスも部屋も奪った妹がどうなろうと私の知ったことではありません。
私の口を塞いだ継母と勝手に契約書にサインした父が、社交界でさらし者になろが笑いものにされようが一向に構いません。
フォークト公爵家は古くから続く名家、妹のラウラは下品で教養もないあばずれ。むしろ妹との縁が切れた方がフォークト公爵家のためです。妹の不義の証拠は王太子がでっち上げなくても、少し叩けばいくらでも出てくるでしょうし。
「どうぞ」
「なっ……!」
王太子が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「だからお好きにどうぞと申しました」
「つ、強がりを言うな! 家族がそんな目に合わされて平気なわけがないだろう?
家族に関心がないふりをしても僕は騙されないぞ!
僕は優しいから君にチャンスを与えてやる! 今すぐ仕事をするんだ! 提出期限の過ぎているものもあるから徹夜でやれ! そうすれば許してやる!」
だからあんな人たち家族ではありませんし、その人たちがどうなっても私には関係ないのですが。
「私も王太子殿下にチャンスを与えます。卒業パーティーの婚約破棄から今までのこと、私に謝罪する気持ちはありませんか?」
これが最後通告ですよ殿下。
五歳で王太子と婚約してから、王太子と王妃にはずっと煮え湯を飲まされて来た。
本当なら五歳から今まで王太子が私にしてきた数々の仕打ちに、私がどれだけ傷つき、理不尽な思いに耐え、苦しみと悲しみの日々を送ってきたか、三時間みっちり説教してやりたいところです!
だがこのポンコツ王太子の頭ではそこまで過去に遡って追求しても、覚えていないだろう。一年前に何をしたか覚えているかもあやしい。
なのでおおまけにまけて、卒業パーティーから今日までのことを反省できたら許してあげようと思う。
「ハッ! 笑わせるな君が僕にチャンスを与えるだと? ハンナの美しさに嫉妬して陰惨ないじめを繰り返した性悪女のくせに ! 君に言いたいことや文句なら山ほどあるが、僕が君に謝らなければならないことなど一つもない!」
王太子がキッパリと言い切った。私への罪悪感はかけらもないことが、これでよく分かった。
「王太子殿下は私がハンナ様をいじめたとおっしゃいますが証拠はおありですか? まさかとは思いますがハンナ様の証言だけとはいいませんよね? ハンナ様の証言だけを信じ、何も調べずに卒業パーティーで私を断罪したわけでありませんよね?」
「それは……!」
王太子が顔を引きつらせ額から汗を流す。図星だったようだ。
少し調べればハンナ様の証言が嘘だと分かったはず。
むしろ王太子の寵愛を傘に、身分の低い貴族の令嬢を平気でいじめていたのは、ハンナ様なのだ。
いじめられた生徒が私に助けを求めてきた。ハンナ様に注意したら、その日から目の敵にされ悪い噂を流され、卒業パーティーで王太子に婚約破棄と国外追放を言い渡された。
ハンナ様の言葉など教師を含め誰も信じていなかった。被害妄想か気を引きたいための嘘だとみんな分かっていた。
生徒会の仕事が忙しかったので噂を放置した。まさかそんな噂を信じるバカがいようとは……それがよりによって婚約者の王太子だったとは。
「ハンナは私の妻だ! 夫が妻の言葉を信じて何が悪い!」
お言葉ですが名義上私もあなたの妻なんですけどね。側室ですが。
「卒業パーティーのときはハンナ様は殿下の正室ではありませんでした。あのときはまだ殿下は私の婚約者でした。殿下は婚約者の言葉を信じずに浮気相手の男爵令嬢の言葉を信じたのですね」
「ぐっ……! それはお前の態度が悪いから」
王太子の額から滝のように汗が流れる。
「すっ、過ぎたことをごちゃごちゃとうるさいぞ! 自分が正室になれなかったからハンナにヤキモチをやいているのだろう?
だがもう遅い! ハンナのお腹には僕の子供がいるんだからな!」
結婚して二カ月でもう子がいる? 結婚しているのだから子供ができても不思議ではないが、子供が出来たことに気づくのが早すぎる。妊娠に気づくのは三カ月目以降ではないだろうか?
「もしかして殿下、婚前に行為を……?」
結んだと考えて間違いないだろう。
「それがどうした! 僕は王太子でその子は未来の王子か姫だ! 世継ぎを生んでくれるんだ! その女を大切にするのは当然だろ? 婚前に性行為をしたくらいでとやかく言われる筋合いはない!」
王太子が開き直った。婚約者のいる身で不貞行為をしておいて悪びれる様子もない、色んな意味で終わってる。
国民の見本となる王太子が、婚前に婚約者以外の女と性行為をし、子供をつくる行為がどれだけ問題か、認識すら出来ていない。
王太子妃の教育は血を吐くほど厳しかったが、王太子の教育はどうなっていたのだろう?
国王と王妃を問い詰めて文句を言ってやりたい。
国王と王妃が王太子とハンナ様の結婚を認めたのはお腹に子供がいたから? 二人の結婚を急いだのもおそらくそのため。
「とにかく僕はお前に謝ることなど一つもない! 詫びるのはお前の方だ! 父上も母上もお前の執務能力の高さだけは買っている! だからお前は生かされているんだ! でなければ高慢チキなお前などとっくに処刑されている! 分かったら僕と父上と母上の優しさに感謝してさっさと仕事をしろ!」
国王も王妃も、私を仕事をするだけの人形ぐらいにしか思っていないのね。
「分かりました」
私が彼らにとってどういう存在なのか…………どこの誰まで復讐すればいいのかが。
「やっと自分の立場が分かったか!」
王太子が満面の笑みを浮かべ腰に手を当てふんぞり返る。
「失礼ですが殿下、子供が出来たなら下半身の大事なものはもう必要ありませんよね」
にっこりと笑い王太子に近づく。
王族の血筋を絶やすのには抵抗があった。無能でポンコツの王太子でも、幼い頃からの知り合い。その人を不能にすることに僅かなためらいがあった。
家族に迷惑をかけることも一瞬頭をよぎった。
卒業パーティーで婚約破棄されたときは、王太子のことを阿呆でも国の継ぐ尊い人だと思っていた。父と継母と妹がひどい人間でも家族だと思っていた。だから卒業パーティーでは実行しなかった。
殿下が公爵家にいらしたときは、空腹で力が出せなかった。
だけど今は違う。アーレント公爵家の人間を家族だとは思っていない。目の前の男に幼馴染としての情も王太子としての尊敬の念もない。
私は私をゴミくずのように扱った王太子も、私を嵌めたハンナも、私を王族に売った父も継母も妹も、私を仕事をする人形ぐらいにしか思っていない国王も王妃も許せない!!
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