【BL】完結「異世界に転移したら溺愛された。自分の事を唯一嫌っている人を好きになってしまったぼく」

まほりろ

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5話「風《ヴィント》」

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ヴィント!」

ふわりと風が起こり木の葉を揺らす。

ヴィントを唱えた回数は一万三千二百五十回。自分でもよく数えてたとえ思う

「できた! できたよリュート!」

「そう、じゃあ次は突風ヴィントシュトースを十万回」

リュートはクールな顔で眉一つ動かさず、それどころか読んでる本から顔も上げずに言った。

ごふっ!

思わず血を吐きそうになった。

ヴィントを習得したこと、少しは喜んでくれると思ったのにな。

でもそんなリュートのクールな態度に、ぼくの胸はドキドキと音を立てる。

冷たくされるとときめくとか、ぼくはこの世界に来てからおかしい。

きっとこの世界で出会ったリュート以外の男に「好きだ! 愛してる! 結婚してくれ!」と言って迫られ、性的な意味で襲われたせいだ。

リュートの塩対応が妙に心地良い。

「なにしているの? さぼってないでさっさと唱えて」

リュートが本から顔を上げずクールに言う。

「はい!」

ぼくは元気よく返事をし、ヴィントの上位魔法である突風ヴィントシュトースを唱えた。









「ヴィ……突風ヴィントシュトース!」

突風ヴィントシュトースを唱えること十二万五千二十七回目。

ぼくの手から突風が巻き起こり、枝葉を切り裂き、木々を揺らした。

呪文の唱え過ぎて喉はガラガラで、声は低くしわがれていた。

魔力も底をつき、立っているのがやっとの状態だ。

「今のどうかな? リュート!」

リュートは全くこちらを見ず、ぐつぐつと煮立つ鍋をかき混ぜていた。

「いいんじゃない」

温度のない声でリュートが言う。リュートは鍋をかき混ぜるのに集中しているのかちらりともこちらを見ない。

「やった! 突風ヴィントシュトースの合格点をもらえた!」

リュートと出会ってから二週間が経過していた。

その間ずっと「ヴィント」と「突風ヴィントシュトース」を唱えていた。

一人で呪文の詠唱をしているときに、たまたま森に入ってきた猟師や木こりに遭遇し、求婚され、押し倒され、犯されかけること数回。

全部リュートが助けてくれたけど、リュートから借りた服は引きちぎられてボロボロになったり、押し倒されて泥まみになったりして、二度と着れなくなった。

その度に、リュートは死んだ魚の目で深く息を吐いていた。

「疫病神」と呟かれた事もある。

リュートに冷淡な視線を向けられ、素っ気ない態度を取られ、きつい言葉を浴びせられるたびに、ぼくの胸はキュンキュンと音を立てていた。

獣ようなギラギラしたまなざしでなめるように裸を見られ、荒い鼻息を吹きかけられ、よだれをたらされ、勃起したあそこを体にこすりつけられた後、リュートに涼やかな視線を向けられ、冷たい言葉を言われるのは酷く心地良かった。

リュートはぼくに欲情したりしない。リュートはぼくが唯一安心して側にいられる存在なのだ。

「じゃあ次は暴風シュトゥルムヴィント百万回」

ゴフッ!

胃の中のものを思わずぶちまけそうになった。

「か、回数多くない?」

ヴィントが一万回、突風ヴィントシュトースが十万回だったので、暴風シュトゥルムヴィント突風ヴィントシュトースの倍の二十万回ぐらいを想定していた。

まさか百万回とは!

「あんた物覚えが悪いから」

リュートが眉一つ動かさずスラッと答える。

ズーンと目の前が暗くなる。

ぼくの身を守るための魔法で、その修行にリュートを無理やり付き合わせているんだ、弱音を吐いてはいけない。

「分かった。ぼく頑張るね!」

「その前にこれ飲んで」

リュートが無表情で鍋の中身をコップに注いだ。

「これ………何?」

リュートから手渡された液体は、黒と緑の絵の具をまぜたような色で、三日間放置された生ゴミのような、毒の沼地のような匂いがした。

「飲めば分かる」

リュートはおたまで鍋をかき混ぜながら言った。

得たいのしれない液体だけど、リュートが飲めって言うんだから全部飲まなくちゃ!

ぼくはフーフーしながらコップに口を付けた。

苦くて、えぐくて、臭くて、不味い。

一口飲んだだけで、体から魂が抜けそうになった。

「リュート、これ……何?」

毒の沼の水を煮詰めたものとかじゃないよね?

声を出して気づいた。さっきまでガラガラしていた喉が痛くない。体のだるさや痛みが取れ、体力と魔力が回復した気がする。

「もしかして回復薬を作ってくれたの?」

「回復薬プラスドーピング剤」

「ドーピング剤?」

「魔力の底上げをして魔法を覚えやすくしてくれる薬のこと。あんた物覚えが悪いから」

「ありがとう」

相変わらずリュートはぼくと目を合わせないし、表情一つ変えないし、声も冷たい。

でもこの薬からはリュートのやさしさが伝わってくる。

「そう思うなら全部飲んで」

「うん!」

あまりの不味さに一口飲んだだけで魂が抜けそうになったけど、頑張って全部飲むね!

「鍋のも全部ね」

「う、うん」

「鍋十杯分のお代わりがあるから」

「………………うん」

ぼくのご飯は当分この魂が体から抜けそうになるほど不味い汁になりそうだ……。


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