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17話「継母の策略と後悔」ざまぁ
しおりを挟む――継母視点――
カウフマン伯爵家に後妻として嫁いでからのあたくしの人生は、順風満帆だった。
先妻を亡くしたカウフマン伯爵に近づくのは簡単だった。
あたくしは一人娘のエラの家庭教師として伯爵家に入り込み、伯爵の心の隙間を体を使って埋めた。
その甲斐があって、ほどなくしてカウフマン伯爵と結婚できた。
娘のアルゾンを伯爵家の養女にし、アルゾンに伯爵位の相続権を与えた。
あたくしと結婚してからしばらくして、運良く夫の具合が悪くなり寝たきりになった。
「あなたが死んだ後、娘のアルゾンが心配なのです。
アルゾンはエラと違って器量が良くありません。
だからきっとアルゾンは年頃になっても、誰とも結婚できないわ。
せめてアルゾンに財産があれば……。
アルゾンも素敵な殿方と結婚して幸せな人生を送れるのに……」
あたくしは毎日、夫のベッドサイドに行き、涙ながらにアルゾンの不幸を訴えた。
病気で弱り正常な判断能力を失っていた夫は、アルゾンを後継者に指名する遺言書を書いてくれた。
遺言書を作成した後、夫はポックリと亡くなった。
伯爵家に残されたのは、十歳になったばかりのエラだけ。
エラとあたくしは血の繋がりがない。
寒空の下放り出しても良かったけど、優しいあたくしはエラを使用人として雇ってあげた。
住むところは与え、食べ物と着る服を与え、仕事を与え、この家に置いてやったというのに……あの恩知らず!
☆☆☆☆☆
エラが精霊に愛されていたなんて!
しかも精霊二人と魔法使い一人から愛されていたなんて……!
なんて贅沢な子なの!!
リカード様から聞いた話だと、精霊の一人がエラを連れ去り、別の精霊が私たちを拘束したのち、リカード様以外の意識を奪ったそうだ。
リカード様から今までカウフマン伯爵家の領地が栄えていたのは、エラが精霊に愛されていたからだと聞かされた。
カウフマン伯爵家の領内にモンスターが出なかったのも、
伯爵領の空気や水がおいしいのも、
伯爵領の土地が豊かなのも、
伯爵家だけでなく領内の商売がうまくいっていたのも、
屋敷がお城のように美しかったのも……全部全部エラが精霊に愛されていたからだった。
精霊たちが伯爵家が豊かになるように魔法をかけていたのだ。
そんなに凄い精霊たちに愛されていたエラが、屋敷を出ていかず伯爵家の使用人として働いていたのは、父親との約束があったからだ。
カウフマン伯爵は死ぬ間際にエラを枕元に呼び、「アルゾンが婚約するまでは家にいてほしい」と頼んだらしい。
エラは父親との約束を守り、どんなにあたくしたちに虐められても、使用人に辛く当たられても、伯爵家を出て行かなかった。
だからって、アルゾンが婚約したとたん挨拶もなく家を出て行くなんて……!
とんだ恩知らずだわ!
エラには、あたくしたち家族に対する愛情はないの?
今までエラには住む家も食べ物も着る服も仕事も与えてやっていた。
それなのにこんな仕打ちはあんまりだわ!
何て薄情な娘なの!
あの子が帰ってきたら、ムチでふくらはぎをうんと打って、とっちめてやるわ!
でも……エラがこの家に帰ってくることはないでしょうね。
エラは精霊に愛されている。
すっかり落ちぶれた伯爵家にすがりつく理由がないわ。
きっと今頃は、精霊たちと共にお城のようなお屋敷に住んで、贅沢な暮らしをしているのでしょうね。
贅沢な暮らしをするのは、第二王子と結婚したアルゾンのはずだったのに……!
第二王子が王位継承権を剥奪され、王家から縁を切られるなんて!
これではアルゾンがリカード様の子を生んでも、子供は王位継承権を得られないじゃない!
王族でないリカード様なんて何の利用価値も無いわ! ただの穀潰しよ!
その上、王家からは困窮する当家になんの支援もない!
穀潰しを養ってあげてるんだから援助ぐらいしなさいよ!
カウフマン伯爵家が貧しくなると、領地から農民が逃げ出し、商人も去っていった。
伯爵家の使用人も体調不良を理由に辞めてしまった。
エラがいたとき、あれだけ沢山あったお金はどんどん減っていき、今や食べるものにも困る有様。
これが私たちに対する罰だというの?
私はただ親を失ったかわいそうな子を使用人として雇っただけなのに……!
それがこんな目にあわされるほど重い罪だというの?
分からない、何も分からないわ!
ただお腹がすくし、お金はないし、家は汚いし、八つ当たりできる使用人もいないし……!
とにかく苛つくわ!
エラだけが幸せに暮らしていると思うと、憎らしくて憎らしくて憎らしくて、悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて……夜も満足に眠れない!!
このままどんどん落ちぶれて、みすぼらしく死んでいくのがあたくしの運命なの?
こんなことなら、コブ付きのカウフマン伯爵なんかと結婚するんじゃなかった!
でも幼い子供を抱えたあたくしと再婚してくれるお人好しなんて、カウフマン伯爵ぐらいしかいなかった。
今からでもエラに土下座すれば、許してもらえるかしら?
エラには精霊が二人に魔法使いが一人付いているのよね?
一人ぐらいあたくしやアルゾンに貸してくれないかしら?
そうすれば、エラがいた頃のようにまた贅沢な暮らしができる!
何でもするわ!
だからお願いエラ! 帰ってきてちょうだい……!!
お義母様を見捨てないで!
しかしカウフマン伯爵家にエラが帰ってくることはなく。
エラに加護を与えていた精霊と魔法使いが、当家に姿を現すこともなかった。
カウフマン伯爵夫人とアルゾンとリカードは名ばかりとなった伯爵家で、ついには庭の雑草を食うほどに落ちぶれた。
廃墟のようにボロボロになったカウフマン伯爵家で、三人の遺体が発見されるのはこの一年後のこと……。
三人の死因は餓死と判断された。
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