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二十三話「水の神子」

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ーー水の神子(立花葵視点)ーー


「使っえないなぁ~」

愛用のムチをしならせれば、目の前の男の肌を傷つけ赤い血が飛ぶ。

「くっ……」

男は端正な顔をしかめ痛みに耐える。程よく筋肉のついた鍛えられた体、綺麗に割れたシックスパック、ボクの好みの体だ。今は無数の切り傷のせいで見るも無残な姿だけど。

男は壁に取り付けられた鎖に両腕をしばられ、未動きが取れずにいる。いいなこういう光景、美形と鎖の組み合わせは絵になる。

「いつ見てもイケメンの裸はいいね~」

目の前の男はギリッと奥歯をかみ、灰色の瞳でボクを睨みつけてきた。

もう少しいたぶれば『くっ、殺せ』とか言いそうだよね。小説や漫画以外でそんなこと言う人見たことないから、一度生で見てみたかったんだよね~。

「ボクはザフィーアを犯してから殺せって言ったよね? 抵抗したから斬りました? 死体は崖下に転落しました? そんな報告は求めてないんだよ!」

ビシッ! と音を立てムチがしなる。

「うっ……!」

端正な顔に縦に大きな傷が入る。

容姿がいいから顔を傷つける気はなかったんだけど、怒りで手元が狂った。

まぁいっか。この世界には回復魔法がある、顔の傷ぐらい簡単に治せるだろう。

ザフィーア・アインス。筆頭公爵アインス家の長男で、レーゲンケーニクライヒ国の王太子エルガー・レーゲンケーニクライヒの婚約者。

金色のストレートヘアに、海のようにきらめく青い瞳、雪のように白い肌を持つ美少年。

生まれる前から王太子との婚約が決まっていて、薔薇色の将来が約束されていた。

ボクは最初に見たときからあいつのことが嫌いだった。

周りから甘やかされて育ち、美も、権力も、婚約者も、何もかも与えられ、勝ち組になることが約束されている苦労知らずのお坊ちゃま。一番嫌いなタイプだ。

何が起きてもいつも涼しい顔をしている。あいつのすました顔を恐怖で歪ませてやりたかった。

清楚で可憐とたたえられるあいつを、ゲスな男の精液で汚してやりたかった。

ボクが現代日本から剣と魔法のファンタジーな世界に呼ばれたのが一年前。

ボクを呼んだのは水竜メルクーア。この国の神として崇められている聖竜だ。

水竜メルクーアは仕事熱心ではないようで、十年仕事して、九十年居眠りしている。気楽なものだ。

水竜メルクーアはボクに言った【我の言うとおりにすればお前の望みを叶えてやる】と【地位も権力も金もお前の望み通りにしてやる】と。

数いる日本人の中からメルクーアがボクを選んだ理由は、ボクの波長がメルクーアと合うから。

自分で言うのもなんだけどボクの性格はいびつだ。そのボクと波長が合うなんて、聖竜と言われて崇められているけど、メルクーアもそうとうだね。

この世界にはツテもコネもないし、何より神と崇められる生き物の申し出を断る理由もないので、ボクは二つ返事でメルクーアの申し出を受けた。

メルクーアの望む、をすれば、メルクーアは見返りに雨を降らせてくれる。

水の神子としてメルクーアに祈りを捧げ、乾いた大地に雨を降らせれば、国王と国民の信頼はすぐに得られた。

一般人から一気にスーパースター、いやロイヤルファミリーの仲間入りするまでに登りつめた。

だがこの国の国王は神子をなめていた。

まあメルクーアが現れたのは九十年前、現国王の生まれるずっと昔、五代前の国王の時代だったっていうし。水竜と神子のありがたみを忘れていても仕方ない。

水竜の加護を受け天候を操る神子を王族と結婚させ、王家の権力を確固たるものにするのは昔からの習わし。

水竜の加護を受け、民からの支持を受けている神子を王家に取り込もうとするのは当然のこと。

その水の神子であるボクを、現国王の弟、三十すぎの親父に嫁がせようとするとはね。なめているとしか思えない。

ボクの結婚相手は王太子のエルガー一択だろ。

国王は王太子にはすでに婚約者がいると言って断ってきた。どんだけアインス公爵家が怖いんだよ? それともボクを軽んじている?

ボクに王太子を与える気がないならいいよ、自力で奪うだけだ。

性行為は罪悪、セックスは子作りのために仕方なくというこの国で、王太子のエルガーは若さを持て余し、性欲のはけ口を見つけられず、愛に飢えていた。

ちょっと誘惑すればホイホイ乗ってきた。空腹の犬でももう少し待てができる。

セックス中のキスも愛撫も禁止、裸でするのも、昼間のセックスも禁止。

そんな退屈な国に生きてる王太子様を、ボクのテクニックで落とすのは簡単だった。一度体を交えてしまえば、あとはボクの言うなり、可愛いおもちゃが一つできた。

王太子をものにしてしまえば、ザフィーアを蹴落とすのは簡単だった。

ザフィーアの悪口を吹きこめば単純な王太子は素直に信じた。

卒業パーティーで婚約破棄と断罪をしようと持ちかければ、ホイホイと誘いに乗った。父親と違って扱い易くて助かる。

卒業パーティー当日、ザフィーアはボクが王太子の名前で贈った漆黒のジュストコールを着てきた。

それが自分の死装束になるとも知らずに嬉しそうに。笑いをこらえるので必死だったよ。

でもちょっと退屈だったな。婚約破棄されても断罪されても、ザフィーアは大して表情を変えなかった。

もっと苦痛に顔を歪ませ「僕は何もやってない! はめられたんだ!」と泣きながらわめいてくれたら面白かったのに。

断罪イベントの後のお楽しみもアインス公爵につぶされたし。

性行為は害悪という国にもならず者はいる。性行為大好き、無理やり女・子供を犯すのが生きがいの変態野郎はいる。

そいつらに牢屋にいるザフィーアを強姦させ、雌イキした頃合いを見計らって王太子を牢屋に連れていき、最愛の人の前で他の男に犯される醜態をさらさせて、ザフィーアの心を完全に壊そうと思っていた。

無表情でお高く留まってる清らかで純真と評判のザフィーアが、男たちのちんこに喘がされて「ザーメン頂戴っ!」ってよだれを垂らしながら叫んでるところを、王太子に見られたらどんな顔しただろう? 発狂したかな? それとも「王太子殿下の子種汁もください!」って、はしたなくおねだりしたのかな?

ザフィーアが闇落ちするところを見たかったのに、アインス公爵が手を回し、牢屋の見張りを強化したせいでそれもできなくなった。

まさか公爵自ら牢屋の入口で見張りをするとは思わないだろ?

ザフィーアの処分も国外れの教会に数年間幽閉されるだけで済まされたし。期待外れだ。国外追放とか、平民に落として娼館送りとかを期待していたのに。

ボクは神子だぞ! 嫉妬に駆られてボクを害そうとした奴がそんな軽い罰でいいなんて間違ってる!(仕組んだのはボクだから冤罪だけど)

だから王都から護送されるとき、民衆に石を投げさせ罵声を浴びせた。ここまですれば泣くかと思ったけど、ザフィーアのやつ表情一つ変えない。

わざわざ平民に金を渡して、民衆をあおらせたのが無駄になった。

罪人の護送は市民の格好の憂さ晴らしの場だ。誰か一人が暴言を履けばそれに便乗して悪口を言うし、最初の一人が石を投げれば釣られて石を投げる。

誰もが最初の一人になりたくないだけ。その最初の一人を意図的に投じてやれば、あとは煽られた民衆が石や罵声を勝手に投げつける。

ザフィーアを護送する兵士を金で買収した。金に転ばない奴は家族を人質にとった。そこでボクにムチで打たれている兵士みたいに。

ザフィーアを三人で犯して、精神的にも肉体的にもボロボロにしてから殺せと命じた。

犯されるときザフィーアがどんな顔をして、どんな声を上げたのか、どのくらいでメスイキしたのか、報告を楽しみにしていた……それなのに。

犯そうとしたら抵抗したので斬りつけました、斬った拍子に崖から落ちました、急所を突きましたから助からないでしょう……という超つまらない報告。

屈強な男が三人もいてなにやってるの? あのヒョロヒョロのザフィーアに抵抗されたからなんなの? 斬らなくても力で制圧できただろ?

ビシリ! と音を立てムチがしなる。

「あいつが恐怖で泣き叫ぶところが見たかった! 白濁液で汚されて絶望に打ちひしがれる様子が知りたかった!」

バシッ! と音が響きムチが男の肌をえぐる。

「愛してもいない人間に無理やり犯され絶望に打ちひしがれる姿を拝みたかった! それでもアナルがうずき子種汁を欲してしまう淫らな自分に絶望してほしかった!」

ビシッ! ビシッ! とムチを打ち付けると、鮮血が飛び、兵士が眉根をよせ、兵士を拘束する鎖がシャラシャラと揺れる。

美男子に鉄の鎖ってやっぱり合うな。日本だとこんなに手軽に人をいたぶれなかったから気分がいいや。

煉瓦れんが色の髪、グレーの瞳、目鼻立ちは悪くない。六つに割れた腹筋も太い二の腕も割とボクの好みだ。だから任務に失敗しても生かしておいた。

「ねぇ、お兄さん。アモルドだっけ? 家族を助けてほしい?」

靴を脱ぎ、ふにゃんふにゃんのアモルドの性器を軽く足で踏みつける。

つぶしたりしないよ、その辺の加減はボクも心得ているからね。

「うっ、あっ……」

苦痛の中に欲の色がこもっていく。

「やだなぁ人前で性器を踏まれて感じるなんて、お兄さん淫乱だね」

クスクスと笑えば、アモルドの白い頬が赤みを帯びる。

顔が赤いのは羞恥心のせいだけではない、頬についた傷のせいもある。眉尻から口元にかけて大きな傷になっていて真っ赤な血をたらしていた。

早く治療しないと傷跡が残っちゃうかな? ルックスが良いからそれはもったいない。

薄暗い地下のお仕置き部屋、ボクのお気に入りの場所。今ここにいるのは兵士が三人と治療魔法師が二人。いずれもボク好みの美青年だ。

床に転がっているアモルドのお仲間を入れれば兵士の数は五人になる。死体を数に入れればの話だけど。

「ねぇ、どうなの? 助けてほしくないの?」

「ぐぁっ……!」

ぐりっと力を入れて性器をいたぶると、アモルドは苦悶の表情をした。

「あっ、ふっ、いっ…! くぁっ……」

緩急をつけて感じるようにいじると、アモルドから甘い声が漏れた。

アモルドの男根が緩く立ち上がり硬さを増している、体は正直だなぁ。

「何が、目的だ……!」

アモルドの灰色の瞳がキッとボクを睨みつける。清廉がモットーの兵士にそういう顔させるの大~好き♡

「ボクと遊ぼうよ、お兄さん♡ 遊んでくれたら家族の命は助けて上げるよ」

「遊ぶだと?」

家族の事を言えば途端に従順になる可愛い。

「嫌だなとぼけちゃって、お兄さんも大人なんだし分からない訳じゃないでしょ?」

甘えた声を出し、性器を優しく撫でる。

「ぐぁっ……、お前は王太子殿下の婚約者ではなかったのか!」

「婚約者だよ、でもエルガー様は力まかせのエッチばっかりでさ、ボクがどんなに技を教えても習得してくれないんだよね」

エルガー様は顔と体と地位は百点なんだけど、エッチが下手なんだよね、下手なくせにしつこいし。

「王太子だから結婚はしてあげるけど、毎晩セックスするのはちょっとしんどいかな。いくら美味しくても毎日お肉ばっかりじゃ飽きるでしょ? 野菜や果物も食べたいと思うのが普通じゃない?」

「なんてふしだらな、お前のようなみだらな男が王太子殿下の婚約者とは……!」

アハハ、受ける。この国の人って本当に教会の教えを真面目に守って生きているんだね。

結婚前は性行為しないし、結婚後も面倒な制約ばっかり。

「お兄さんもしかして童貞? エッチが怖いの? 大丈夫だよ、ボクが手取り足取り快楽への落ち方を教えて上げるから」

緩く立ち上がったお兄さんの裏筋を足の裏で優しくなでる。治療魔法師がボクが転ばないように、そっと手を貸してくれた。ナイス、ボクが教育しただけあって気が利いている。

「くっ、止めろ…! いっそ殺せ……!」

「フフフ! アハハハハハ! 初めて聞いた! 本当にそんな言葉を吐く人いるんだ!『くっ、殺騎士』初めて見た! あっ、騎士じゃなくて、兵士か!」

あ~おかしい。久しぶりに大爆笑したよ。一回やったら捨てようと思ったけど考えが変わった。こんな面白い逸材、禁欲が取りえのこの国でもなかなかお目にかかれない。

「こちらの勇敢な兵士さんに回復魔法をかけて上げてよ」

隣にいた治療魔法師に命じる。顔に傷が残ったらもったいない。

「感謝してよ、君をボクのコレクションに加えて上げる」

地下室で飼っているボクの性奴隷おもちゃの仲間に入れてあげる。

「アモルドは可愛いから時々相手してあげるよ」

「家族は! 母と妹とのことは……!」

「あ~そういえば君がボクのものになれば助けて上げるとかいったけ? 大丈夫だよ家に帰してあげるから」

「本当か?!」

「もちろん」

家族の身の安全が保証されたのを知って兵士はおとなしくなった。

ちゃんと家には帰すよ、ただし無傷ではないけどね。

妹は男の味をたっぷり教えこませて、男根なしではいきられないようにしてから帰すよ。処女性が重要視されるこの国では嫁のもらい手がないだろうね。娼館行き決定かな。

母親は麻薬漬けにしてから帰そう。親孝行だった息子は行方不明、娘は娼婦。とても正気ではいられないだろうから、幻覚を見せてあげよう。その方が幸せだろう。ボクって優しいな。

「アオイ様、例の捧げ物が届きました」

アモルドを連れて二人の兵士が部屋を出て行く、入れ替わりに一人の兵士が入って来た。

そういえばもうすぐ復活祭だっけ。

復活祭は水竜メルクーアが九十年の眠りから覚める日だ。六百年前水竜メルクーアがこの地に現れたの日でもある。

その日は国を上げて祭りが行われる。そしてメルクーアが起きている間は非公式に贈り物がされる。

「数は?」

「三百です」

「上出来だ」

水竜メルクーアはただでは雨を降らせないし、国を守ってはくれない。

ボクは過去に二回雨を降らせた。その時の捧げ物の数は五十、二回目は百だった。

あの竜は大食漢なのだ。

「それだけいるなら、新しいおもちゃが一人や二人見つかるかな」

思わず口角が上がりニヤけてしまう。

「アオイ様、しかしながら数を減らすことは」

「そんなのその辺の浮浪者や罪人を捕まえて、入れ替えればいいだけの話だろ?」

メルクーアは大食いだが、グルメではない。生きていればなんでもいいのだ。

「わかりました、こちらで浮浪者や罪人を何人か用意しておきます」

「頼むよ」

何も言わなくてもこちらの考えを察してくれるから、この兵士は好きだ。

「三百人もどこから集めていらしたのですか?」

治療魔法師が問う。

「簡単だよ、メルクーアが意図的に雨の降らない地域を作り、村の住人にその土地を諦めさせればいい。そこに救いの手を差し伸べる『都にくれば仕事を与える』とね」

すると村人たちは自ら進んで村を捨てる。

「神子様は賢くていらっしゃる」

治療魔法師がわざとらしくボクを褒めたたえた。褒めれるのは好きだから許す。

「ボクは嘘はついてないよ、捧げ物いけにえとして水竜メルクーアに食べられるのも国の繁栄のためには大切な仕事だ」
 
このことを知っているのは神子であるボクと国王と一部のものだけ。水竜メルクーアの神聖なイメージを崩すから秘密にされている。

真実を知ったところでどうせ誰も歯向かえない、レーゲンケーニクライヒ国は水竜メルクーアの加護なしでは成り立たないのだから。

「さぁ~てと、新しい性奴隷おもちゃにふさわしい子がいるか品定めに行こうかな」

「お供いたします」

兵士と治療魔法師がボクのあとを付いてくる。

村人だから洗練された感じの美男子はいないだろう、たまには素朴な青年を食うのも悪くない。

結婚を控えた見目のよい女をズタズタに傷つけるのも楽しい。

ザフィーアは痛ぶり損ねたけど、すぐに新しいおもちゃが見つかりそうだ。これなら当分は退屈しなくてすむかな。


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