幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで・BL・完結・第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品

まほりろ

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四十六話「あなたの預言が外れるなんて珍しいですね」

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――謎の人物視点――



ボワアンピール帝国・帝都フォレ・カピタール・月の神殿




水晶に映し出された映像に、短く息を吐く。

「カルムは運命の相手と婚姻の約束をしたようだ」

嬉しいような、ひどく残念なような。

カルムが泣きべそをかいて帰って来たら、僕が優しく慰めてあげようと思っていたんだけど……その必要はなくなってしまった。

二人が林に消え……そこで水晶の映像は途切れた。

意地悪な神は、弟の閨を見せてはくれない。

僕も弟の情事を透き見するほど悪趣味ではない。というよりそんなものを見せられたら、弟の相手を殺してしまう。

だから二人が性行為に入る前に、水晶を透き見するのをやめるつもりだった。それを僕を好き物だとでも責めるように映像そのものを消すなんて……信用されてないな。

それはそれとして……。

「あなたの預言が外れるなんて珍しいですね」

振り返れば、部屋の中心にあった影がゆらゆらと揺れる。床まで届くウェーブした髪とローブをまとう少女の影。もっともと断言はできないが。

【流れが変わった、器が同じでも中身が違うのからな当然の結果か……】

預言が外れることもには想定内のことだったようだ。

「あなたの預言では、弟と運命の相手が性行為をするのは解毒治療の時、一度きりのはずでしたね」

だが実際には一度どころか、宿屋に泊まる度に共寝している。直接見たわけではないが宿に入る度に途切れる映像と、前後の会話から推測するに、毎回床を共にしていると見て間違いないだろう。

はじらい死ティミディテ・モー草の治療は一度でいいはず、弟がそれを知らないはずがない。いやでもカルムだからなぁ……もしかしたらその可能性も……。あの子はちょっとぼんやりしているし……。

「母の形見精霊のサン・テスプリ祈りプリエールの指輪も、左手の薬指にはまったきり抜けなくなった」

精霊のサン・テスプリ祈りプリエールの指輪は、愛する人の指にしかはめられず、指輪をはめられた相手も、指輪をはめた相手を愛していないと抜けてしまう。

言わば愛を図るための道具。

預言では弟の運命の相手はエルガー王子を今も思い続けていて、指輪はあっさりと抜けてしまう。許可なく指輪をはめたカルムは指輪を突き返された挙げ句、平手打ちされるはずだった。

「これもあなたの言う中身が変わったことと関係が?」

二年前レーゲンケーニクライヒ国のパーティーで見たときは、表情の乏しい人形のような少年だった。

王太子のエルガーしか眼中にないと顔に書いてあるような少年。それがエルガー王子に婚約破棄されたとはいえ、短期間にこんなにも変わるものだろうか?

【……直に分かる】

まあいい、このお方に慌てた様子は見えない。

カルムが運命の相手と想いが通じようと、通じまいと計画に支障はないということか。

「シエル……いやザフィーア・アインスと呼ぶべきかな。君は知らないだろうけど、君はまだエルガー・レーゲンケーニクライヒ王子の婚約者なんだよ。それを知っても君は喜ばないだろうけど、婚約者のいる身で他の男と愛を誓うのはいかがなものかな?」

パーティー会場で「婚約破棄します」と言って婚約が解消されるほど、世の中は甘くない。あんなところで一方的に婚約破棄を宣言したら恥をかくだけだ。それが分からないなんてエルガー王子はアホなのかな?

カルムに愛されて、心変わりしてしまったザフィーアの気持ちも分かる。全ては世界一可愛い僕の弟のせいだね、罪作りだな僕の弟は。

「カルムと結婚したいなら、まずはエルガー王子との婚約を解消してもらわないとね」

僕の手にはそれぞれ別の送り主から届いた手紙が三通。高品質な紙に蝋封、高貴な相手からの手紙だとひと目で分かる。

「エルガー王子も若いね、自分の愛した相手と結婚できると思っているなんて」

もっとも神子のほうに愛があるとは思えないが。

手紙の送り主は三人、レーゲンケーニクライヒ国の国王エーアガイツと、王太子エルガーと、公爵ヴュルデ・アインス。

それぞれが使者を立て手紙を送ってきた。

「国王は王太子と神子を婚約させたくない、王太子は神子と婚約したい、親の心子知らず、子の心親知らずとはよく言ったものだね」

他国のごたごたは蜜の味とはよく言ったものだ、手紙を眺めていたら思わず口角が上がってしまった。

「だけど僕に頼むのは筋違いじゃないかな?」

レーゲンケーニクライヒ国が建国されて六百年、二十四代目の国王になるとボワアンピール帝国とレーゲンケーニクライヒ国の関係を忘れてしまうのかな?

他国の指導者が無能なのは、僕にとっては好都合だけど。

「アインス公爵からは、息子の捜索に協力してほしいという嘆願書が届いている、愛されてるねザフィーアくんは」

もっとも探している理由が、可愛い息子としてなのか、利用価値のある傀儡(かいらい)人形としてなのかは分からないが。

「ザフィーアくんはカルムがしてるから、アインス公爵の件は解決」

アインス公爵の手紙をテーブルに置き、残り二通の手紙に目を向ける。

「エルガー王子の願いは簡単に叶うよ、神子と結婚したいなら王太子をやめればいい。と神子の婚約を阻止してほしいというエーアガイツ王の願いも叶って、丸く収まるね」

神子なんて面倒なものがボワアンピール帝国にいなくて良かったよ。

水の神子、タチバナアオイ。今世紀の水の神子は随分好き勝手にやっているようだね。だけど君は王太子とは結婚できない。

「タチバナアオイくんには、自分を中心に世界が回っているように見えているのかな? でも君もレーゲンケーニクライヒ国にとっては使い捨ての駒にすぎないんだよ」

大人しく王弟と婚約していれば、もう少し我が世の春を味わえたかもしれないのに、僕と同じ時代に存在したのが不運だったね。

それがなかったとしても、水の神子に利用価値があるのは十年という短い時間なんだけど。



◇◇◇◇◇
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