幼なじみに婚約破棄された僕が、隣国の皇子に求婚されるまで・BL・完結・第9回BL小説大賞、奨励賞受賞作品

まほりろ

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114話「⑦」

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――立花葵たちばなあおい・サイド――



復活祭、それは水の神子に一番注目が集まる日。

人々は輿こしに乗るボクに羨望の眼差しを向け「美しい!」「神々しい!」「国が栄えるのは水の神子様のおかげです!」口々にボクを褒め称える。

一年で一番ボクが輝いて、最高に楽しくて、心躍る日、それが本来の復活祭。

なのに、それなのに……! なんだよこの騒ぎは!

アインス公爵が私兵と生贄を連れて庭園になだれ込んできてから、復活祭はめちゃくちゃになった。

一時は国王が悪竜オードラッへを必要悪と認めさせ、平穏を取り戻したかのように見えたが。

悪竜オードラッへがゾンビのようなグロテスクな姿で現れて、流れはまたアインス公爵に戻った。

「民を生贄にしろーー!!」と喚くだけの国王、「どうしよう……どうしよう……」と言っておどおどしているエルガー。

本当に使えない、こんな奴らにかまっていられるか!

ボクは悪竜オードラッへが現れた時点で、国王側の敗北を悟り、バルコニーを後にした。

「神子様これからどうしましょう?」「アオイ様、我々はどうすれば?」

オロオロしながらボクの後をついてくる取り巻きたちがうっとうしい。

廊下を歩きながら周りを見ると壁や床に亀裂が入っていた。悪竜オードラッへの攻撃の効果がここまで及んでいるようだ、この城も長くは持たないだろう。

「逃げるに決まってるだろ、取り敢えずボクは一度部屋に戻るよ。あそこには王太子から貰った宝石やアクセサリーがあるからね」

いや待てよ……城はもぬけの殻だ、もっと金品を集められるかも。

「いままで黙っていたけど実はボクは水竜メルクーアの加護を受け、転移の魔法を使えるんだ」

取り巻き達がざわめく「さすが水の神子様」とボクをもてはやす。

剣と魔法のファンタジー世界といえど、転位の魔法を使える者は、神とごく限られたものだけだからね。

「各自城にある金目の物をかき集めてくるんだ、逃げるには資金が必要だからね、一通り金目のものが集まったら僕の部屋に集合、転移の魔法で逃げるよ」

ボクの言葉を聞いた取り巻き達は、金目の物がありそうな場所に走っていった。

「単純だね」

ボクはそんな彼らを見てくすりと笑った。

ボクは自室に戻り、王太子からもらった宝石やアクセサリーをかき集め、アイテムボックスへと放り込んだ。

「あいつエッチは下手だったけど、金払いだけは良かったな」

本当は今日の復活祭で、王太子エルガーとの婚約を発表するはずだった。

国王はボクも王太子との婚約を嫌がっていたが、国民の前で発表してしまえばこっちのものだ。

後は順風満帆な人生が僕を待っていたはずだった……。

「くそっ、もう少しだったのに……!」

怒りに任せ拳で壁を叩いた、ボクの右手に血がにじむ。

その時外にいた民衆から歓声が上がり、ボクの部屋にまで聞こえてきた。

何事かと思い窓から外を見ると、白いローブを纏った魔法使いらしき二人が、悪竜オードラッへの攻撃を光のバリアみたいなもので防いでいた。

「ザフィーア様!」「カルム皇子!」「我らが救世主!」「聖女様! 英雄様!」民衆が魔法使いを褒め称えている。

「ザフィーアだって……?」

民衆から聞こえてきた名前に、ボクの血が沸騰しそうになった。

「どうしてザフィーアが生きてるんだ? その隣にいるのがカルム皇子だって? カルム皇子と言ったら隣国の第二皇子じゃないかな! ボワアンピール帝国の第二皇子がなんでザフィーアなんかと一緒にいるんだよ!」

死んだはずのザフィーアが生きていて、隣国の皇子と共に戻ってきただと……?

それだけでも衝撃なのにザフィーアは光のバリアみたいな魔法を使い、国民の心を得ていた。

しかもカルム皇子は遠目で見てもわかるぐらいかっこいい! 銀色のサラサラの髪の長身の二枚目! 王太子エルガーなんて彼の足元にも及ばない! 月とすっぽん! ダイヤモンドと石ころだ!

「今日民衆の心を掴み人々から称賛されるのはボクだったのに……! なんで死んだはずのザフィーアが戻ってきて英雄扱いされてるんだよ! しかもボクが掴まえた男より遥かにレベルの高い男と一緒にいるなんて!」

悔しい、憎らしい、腹が立つ! 腸が煮えくり返りそうだ……!!

「アオイ様、城にあった金目の物をかき集めて参りました」

その時ボクの取り巻きたちが部屋に入ってきた。

「煩い!」

ボクは思わず本音を漏らしてしまった。取り巻きたちが驚いた顔でボクを見ている。

「すまない……外が騒がしくて気が立っていたんだ。ありがとう、それだけあれば当分暮らしに困らなさそうだ」

ボクはなんとか取り繕い、取り繕きに向かってほほ笑んだ。

「さぁ集めた物をボクのアイテムボックスに入れて、ボクの転移の魔法にも限界がある、一度に運べる重さには限界があるんだよ、その点アイテムボックスには生き物以外の物をしまえるから便利だよね」

説明をすると取り巻きはあっさり信じアイテムボックスに金目の物を入れはじめた、本当に馬鹿な奴らだ。

「これで全部かな?」

「はい、神子様」

取り巻きの一人が答える。

「そうかありがとう君たちの働きは忘れないよ、さようなら……転移」

ボクは取り巻きから距離を置き転移の呪文を唱えた。

最後に見た取り巻きの顔は、鳩が豆鉄砲を食らったみたいにキョトンとしていた。

お・バ・カ・さ・ん、お前達なんて用済みなんだよ、連れてくわけないだろ。



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