116 / 131
116話「⑨」
しおりを挟む――シエル・サイド――
「「光の盾っっ!!」」
何度目になるか分からない光の盾の詠唱。
かれこれ一時間以上、悪竜オードラッへの攻撃を受け続けている。
光の盾の効果は持って10分、効果が切れる前に上書きしなければいけない。
いくらエメラルドの杖が消費する魔法力を半分にしてくれるといっても、限界がある。
悪竜オードラッへは疲れなど微塵も感じていないようで、吹雪や氷の刃、水の弾丸を吐き続けている。時折放たれる真空波も厄介だ。
光の盾の範囲外の地面は真空波によってえぐれ、城の壁には亀裂が入り、庭の噴水は悪竜オードラッへの吐いた吹雪により凍っていた。
悪竜オードラッへが俺たちを集中的に狙ってくる理由は分からない、だけど悪竜オードラッへが俺たちを攻撃している間は、他の地域は安全だ。
悪竜オードラッへが俺たちを攻撃している間に、アインス公爵と私兵たちが街の人を安全なところに逃してくれるはずだ。
俺の肩には庭にいる大勢の人たちの命だけでなく、王都に住む大勢の人の命がかかってる、絶対に倒れるわけにはいかない!
「辛いか?」
ノヴァさんが心配そうな顔で声をかけてくれた。疲労が顔に出ていたのかな、かっこ悪いところ見せちゃったな。
「ノヴァさんが側にいてくれるから平気です」
俺の腰に添えられた腕からノヴァさんの体温が伝わってくる。ノヴァさんが隣にいてくれなかったらとっくに心が折れてる。
ノヴァさんが一緒なら、どんな攻撃にも耐えられる。
それに……この子のことも守らないとな、俺はちらりと自身の腹に視線を向けた。ノヴァさんとこの子と三人で幸せな家庭を築くんだ!
それにしても防戦一方ってのはまずいな、ヌーヴェル・リュンヌが来る気配もないし、なんとか悪竜オードラッへのすきをついて攻撃に出ないと魔法力が減っていく一方だ……。
その時耳慣れない音が聞こえた。
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!
なんだ今の音は? 悪竜オードラッへの方から聞こえたけど、鳴き声とは違うような?
「ノヴァさん、今の音って……?」
「おそらく、悪竜オードラッへの腹の音のようだ」
そうか今日は復活祭、本当なら300人の生贄が悪竜オードラッへに捧げられるはずだった。生贄に捧げられるはずだった人たちを俺たちが救出してしまったから、悪竜オードラッへはお預けをくらってお腹を空かせている。
もしかして悪竜オードラッへが狙ってたのって俺じゃなくて、俺の後ろにいる生贄に捧げられるはずだった人たち?
善良な村の人たちを誰一人として、悪竜オードラッへに食べさせる訳にはいかない! 俺がこの人たちを守るんだ! 俺は杖を握る手に力を込めた。
「民を生贄に捧げるのだーー! 皆オードラッへの生贄になれーー!!」
国王がバルコニーから怒号をとばしている。
悪竜オードラッへの注意が国王に向いた、どうやらオードラッへは国王の放った「生贄」という言葉に反応したらしい。
悪竜オードラッへは溶け落ちてない方の目で、ギロリと国王をに睨みつけた。
バルコニーにいた国王は悪竜オードラッへの視線に気づき、顔を真っ青にして後退りを始めた。
「な、なんだその目は……! そ、そんな目で余を見るな……!」
国王は悪竜オードラッへに完全に食べ物としてロックオンされていた。
「国王、逃げろ!」
俺が叫んだときには、悪竜オードラッへは国王に向かって滑空していた。
「ひっ! 止めろ! 来るな! 生贄とは言ったが、余のことではない! 余が食べろと言ったのは民のことだ!!」
国王が側に落ちていた瓦礫の破片を悪竜オードラッへに投げつける、しかしそんな攻撃では悪竜オードラッへはびくともしない。
悪竜オードラッへが大きく口を開ける。
「シエル、見るな!」
ノヴァさんが俺の顔に手を添え、自身の胸に押し付けた。
バキバキバキバキッッ!!
という音が聞こえた、おそらく悪竜オードラッへにバルコニーが砕かれだ音だ。
「ぐぎゃああああああああ!!」
今のは国王の断末魔だろう……。
民衆から「キャーーーー!!」とか「うわぁっ!」という悲鳴が上がる。
聞こえてきた情報を整理すると、国王が悪竜オードラッへにバルコニーごと食われた……。
守れなかった……! 悪党だけど国王を死なせてしまった……!!
「気にするな、シエルのせいではない」
ノヴァさんが俺の気持ちを察してくれたようで、やさしく頭をなでてくれた。
「シエルは休んでいろ、後は私が一人で光の盾を唱える」
ノヴァさんはやさしい、でもノヴァさんに頼ってばかりはいられない。
これは俺の祖国の問題だ、アインス公爵も、アモルドさんも、アインス公爵の私兵も、衛兵も、みんな俺より力がないのに戦ってくれてる。
俺だけが逃げる訳にはいかない……!
「ノヴァさん心配してくれてありがとうございます、でも俺もまだ戦えます!」
俺は顔を上げて、ノヴァさんに言った。
「守りたいんです、この国の人たちを!」
「シエルは強情だな」
ノヴァさんが困ったように眉をしかめた。
「知らなかったんですか、母親は強いんですよ」
待てよ、俺は男だから母親ではなく父親になるのかな?
「ん? 母親とは……?」
ノヴァさんが不思議そうな顔で首を傾げた。
しまった! ノヴァさんにはまだ内緒だった!
「この戦いが終わったらノヴァさんにお話しします」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「ぐぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
悪竜オードラッへが咆哮を上げ、溶け落ちてない方の目でこちらを睨んできた。
これ以上あいつに人を殺させるわけにはいけない! 光の盾で守りに徹するだけじゃだめだ! 反撃に出ないと……!
☆☆☆☆☆
269
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる