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1話「王太子殿下、歯を食いしばってくださいっっ!!」王太子視点
――王太子視点――
「王太子殿下、歯を食いしばってくださいっっ!!」
目の前の可憐な少女が右手を握り締めていた。
「はっ?」
次の瞬間、少女から右ストレートが繰り出された。
僕は二メートルほど吹っ飛ばされ、背中を打ち付けた。
背中と頬に痛みが走るまで、己の身に何があったのかわからなかった。
先日、国王である父から婚約者が決まったと知らされた。
僕も今年で十歳だ。
婚約者ができても不思議ではない。
婚約相手はルンゲ公爵家の長女で同い年のベルティーナ。
家格の面でも、年齢の面でも、彼女が一番釣り合いが取れるという。
わがままに育てられた公爵令嬢との婚約など面倒だが、彼の父親と親族の後ろ盾はほしい。
王太子と言う立場上、政略結婚は避けられない。
なら一番、価格が良い家から婚約者を選ぶだけだ。
どうせ誰恋愛結婚出来ないなら、できるだけ利用できる相手を選びたい。
そして、すぐに公爵令嬢との顔合わせの日時が決められた。
顔合わせの場所は王宮の一角にある、ガゼボだった。
その日はメイドに色々と着飾られた。
お見合いは第一印象が大事と言われたが、どうせ自分の意思ではどうにもならない婚約に、印象もくそもないと思った。
僕がガゼボに行くと、婚約者と思われる少女と、彼の父親が先に来ていた。
ガゼボにいた少女は銀色の髪に紫の瞳、青のドレスを纏っていて、お人形のように綺麗な顔をしていた。
どうせ王太子の僕に媚を売る奴か、僕の見た目に惚れて「好きです」とか言ってくる奴なんだろ……つまんない。
婚約者の少女と話をする前から、未来が容易に想像できる未来に僕は辟易していた。
「あとは若いお二人で」……と言って、公爵と僕の護衛が下がっていく。
「はじめまして、王太子のブロック・グラウンだ」
僕は愛想笑いを浮かべて自己紹介した。
どうせこの子も、僕の造り笑顔に「かっこいい」と言って目をハートにしているに違いない。
つまらない。
本当につまらない。
少女は「お初にお目にかかります。ベルティーナ・ルンゲと申します」と名乗り優雅にカーテシーをした。
カーテシーのお手本みたいだな、さすが公爵令嬢、礼儀作法は完璧だ。
見た目もいいし、礼儀も完璧。これならパーティで連れて歩いても、恥をかかされることはないだろう。
及第点だ。
愛し合うことはないが、ビジネスパートナーぐらいにはなれるだろう。
僕が相手の価値を見極めていると……。
公爵令嬢にギロッと睨まれた。
彼女は親の仇でも見るような憎しみの籠もった目で、僕を見据えていた。
まさかお見合いで、淑女に睨まれるとは思わなくて、僕は困惑していた。
「王太子殿下、歯を食いしばってくださいっっ!!」
「はっ?」
彼女はそう言って、ぽかんとしている僕の左頬に右ストレートを食らわせた。
公爵令嬢に殴られ、僕は二メートルほど吹っ飛ばされた。
同い年の深窓の令嬢のパンチなんて、当たっても大したことないと思っていた。
なのに……なんだこの破壊力は??
なんて馬鹿力なんだ!
婚約者との初の顔合わせだからと、護衛を下がらせたのが仇となった。
まさか、令嬢に殴られるなんて……予想もしてなかった。
「大丈夫ですか! 殿下!」
護衛の一人が僕に駆け寄ってくる。
「へ、平気だ……」
僕は右手を押さえ起き上がった。
彼女に視線を向けると、彼女は護衛に拘束されていた。
「この金髪クソ野郎が! くたばれ!!」
ベルティーナはゴミを見るような目で僕を睨みつけ、およそ貴族の令嬢から発せられたとは思えない憎まれ口を叩いた。
彼女の言葉が胸に突き刺さった。
トクントクンと僕の心臓がせわしなく音を立てる。
なんだろうこの感覚は?
今まで味わったことのない感覚だ。
ベルティーナにもっと殴られたい、ベルティーナに汚いものを見る目で見られたい、ベルティーナにもっと口汚く罵られたい……!
僕の頭の中はベルティーナのことでいっぱいになっていた。
もしかして……僕ってM体質だったのか……?
僕にこんな性癖があるなんて知らなかった。
知らなかったし、知りたくなかった。
だか、知って良かったという相容れない感情も同時に湧いてきた。
僕は暫く困惑していた。
「ベルティーナ・ルンゲ……面白い子だ」
護衛に連行される彼女を見送りながら、僕はそうつぶやいていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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【連載】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」異世界恋愛
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