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5話「シンデレラ♂と王子様」
しおりを挟むオレの体がガラスの靴とドレスによって、ダンスホールへと運ばれていく。
勘弁《かんべん》して~~!
ダンスホールを扉を開けるとシンデレラに、会場中の視線が集まった。
シンデレラ♂を見た男たちから「なんと美しい」「どこの姫君だ」「綺麗な娘だ」ざわめきが起こる。
男からは熱いまなざしを、女からは嫉妬の視線を向けられる。
つうかオレは姫じゃないし、女でもない! ドレスを着ていても男だから!
会場にいる男たちが、オレに声をかけるタイミングをうかがっているのが分かる。
ムダに人目をひいて、余計なやつに絡まれてもめんどうだな。
さくさく王子とのダンスを踊って、城を出て、港に向かおう!
さすがに王子様とダンスを踊った娘を、ダンスに誘う勇者《バカ》はいないだろう。
そのとき会場がどよめいた。
「王子様」「フィリップ王子」「王太子殿下」
瞳をキラキラさせ、未婚と思わしき女性たちがざわめく。
あまいろの髪に、青みを含んだ気品のある黒色の瞳、切れ長な目、甘いほほ笑みをたたえる、眉目秀麗な青年。
深紅のジャケットに白のシャツ、黒のパンツに身をつつんだ王子様が。
優雅《ゆうが》な足どりでシンデレラに向かって歩いてくる。
ダンスホールにいた人たちが、モーゼの十戒《じっかい》のように綺麗に左右に別れ道ができた。
絵本で見た王子様より少しクールな印象を受けるが、かなりの美形《イケメン》だ。
ダンスホールにいた娘たちが王子様にポーッとなって、見惚《みほ》れるのもう頷ける。
王子様がシンデレラ《オレ》の前で立ち止まり、
「一曲踊っていただけませんか?」
手を差しだしてきた。
舞踏会の主催者である王子様に「踊ってください」と言われたら断れない。
おそらく魔法使いの出した靴とドレスは、王子と踊るまで王子の周りをうろうろし続けるだろう。
ぱっぱと王子様と踊ってしまおう。
ダンスが終わったら、すっと城をあとにしよう。
「はい」
オレは王子様の手を取り小さく頷く。
他の客たちが壁ぎわまで下がり、王子とシンデレラのためにダンスホールの中央に大きな円ができる。
魔法使いのおばさんの出してくれたオートで踊るガラスの靴とドレスのおかげで、オレのダンスは完璧だった。
シンデレラ♂の父親が亡くなる前、シンデレラ♂は上流階級のたしなみとして、ダンスを習っている。
しかし、シンデレラ♂ちゃんはそのダンスの練習が苦手だった。
男なのに、女のパートを覚えさせられることが不服だった。
やさしくて父親思いのシンデレラ♂ちゃんも、そこだけは納得がいかなかったようだ。
シンデレラ♂の父親はシンデレラ♂に、女のパートを教えることになんの疑問も持っていなかった。
物語補正のせいだろうか?
幼い頃は中性的な服を着せられ、シンデレラ♂ちゃんは女の子のように育てられた。
父親の死後は、義理の姉のおさがりのドレスを当然のように着せられていた。
シンデレラ♂は女の子、もとい男の娘として生きることを強制されてきた。
「君はダンスが上手なんだね」
王子様がとろけるようなほほ笑みを浮かべる。
シンデレラが女なら、その笑みにメロメロになっていたことだろう。
しかし男のオレには、王子様のキラキラ笑顔の効果はない。
「いえそれほどでも、王子様のリードがお上手だからですわ」
女言葉で王子にお世辞をいう。
「いや、私はダンスがあまり得意ではないんだ。いまこうしてダンスを踊れているのは、君のリードがうまいからだよ」
オレの口から、乾いた笑いがこぼれる。
ハハハ~~魔法使いのチートな道具がなかったら、ダンスが下手な二人が公衆の面前で散々なダンスを披露して、恥をかくところだったな。
「聞かせてほしい、どうして君はこんなにダンスが上手なのかを」
「それは……」
魔法使いのチートな道具のおかげです、とは言えない。
「女のパートが得意だなんておかしいだろ」
王子の黒真珠のような瞳が、キラリと光る。
「えっ?」
「だって君は…………男なんだから」
心臓がドクン! と跳ねた。
バッ、バレた……!
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