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二章・36話「薔薇と王子様 4」シンデレラ視点
しおりを挟む「いまでもその人のことが、好き……なのか?」
こんなことを聞いても、どうにもならないのに。
「好きだよ」
ズクン! 心臓を矢で射られたような痛みが走る。
フィリップには好きな人がいたんだ。本当にオレは巻き込まれただけの哀れなピエロだったんだな。
冷静に考えたら、好きな人をこんな危険な計画には巻き込まないよな。
「君は?」
「……えっ?」
「シンデレラは今日はどうしてここにきたのかな?」
「別に暇だったし、王子へのプレゼントもあったし……」
「本当にそれだけ? プレゼントならカールに頼めたよね?」
「そっ、それは……フィリップ王子が生きてるか、ちょっと気になって」
「ボクの生死を気にかけてくれてたんだ」
フィリップがニヤリと笑う。
「あんな別れ方をしたら誰だって気になるだろ! 生きているなら顔を見て文句の一つも言ってやろうと思っただけだ! じゃあな、オレはもう帰るよ……」
イスから立ち上がろとして、フィリップに腕をつかまれた。
「本当にそれだけ?」
フィリップの真剣な眼差しで射抜かれ、心臓がドキドキと早鐘を打つ。
「他になにがあるんだよ! おまえに会いたくて、ここに来たとでも思っているのか? 自惚(うぬぼ)れるな! おまえのことなんか何とも思ってない! おまえなんかさっさと好きな人と結婚しちゃえ!」
素直じゃない自分が嫌になる。
本当はずっとずっと会いたかった。
フィリップの死に、何日も涙した。
今でもフィリップと別れたあの日の夢を見る。
不敵に笑ってるのに、どこはかとなく悲しげなフィリップの顔を思い出し、何度も胸をしめつけられた。
いまここで「好き」って言わなかったら、きっと後悔する。
だけどフィリップ王子は、オレとはもうなんの関わりもない人間で。
オレに「好き」って言われても、きっと迷惑だよな。
「そうだな相手が許してくれるなら、いますぐにでも結婚したい」
フィリップの言葉に胸がつぶれる。
完全な片思いだ。
フィリップはその人との結婚も考えてたのか。
「せいぜいお幸せに……!」
オレは何をしに、ここまで来たんだろう……?
フィリップが生きているとカールさんに聞かされて、無性に会いたくなった。
フィリップを想うと、身が引きさかれるぐらい苦しくて、どうしようもなくて会いに来た。
でも結果はこれだ。わざわざ遠くまで出向き、フィリップののろけ話を聞かされ、みじめに失恋した。
何を期待していたんだ? あいつがオレと同じ気持ちでいてくれるとでも想っていたのか?
オレはフィリップの道具で。
あいつがオレにやさしくしてくれたのは、道具として利用価値があったから。
その道具としての利用価値も、オレにはもうない。
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