2 / 11
2話「癒やしの力を持つ聖女、タイムリープする」
しおりを挟む目を開けると古い木組みの天井が見えた。
見覚えのある部屋、嗅いだことがある匂い。
「私、ギロチン台にセットされて……それから……」
処刑された事を思い出し戦慄した。ブルブルと震える手で首に触れる。
「よかった……繋がっている」
首筋に手を当てて確認したが、傷一つなかった。
その時扉がドンドンと叩かれた。
「リートちゃん、起きてるのかい? 私だよ」
ドアの外から聞き覚えのある声がする。
この声はアポテーケ村にいたとき、お隣に住んでいたおばさんの声だ。
私はベッドから出て、ゆっくりと扉を開けた。
にこやかに笑う中年のご婦人が立っていた。間違いない、昔隣に住んでいたおばさんだ。
おばさんは右手には大きなバスケットを抱え、左手にピンクの花を持っている。
「やっと起きたね。おはようリートちゃん、それから誕生日おめでとう。クッキー焼いたからお食べ、土手に綺麗なお花が咲いていたから摘んできたんだよ、よかったら食卓にでも飾って」
おばさんがにこにこ笑いながら、お菓子の入ったバスケットと、花束を私に手渡した。
「誕生日……?」
「やだ忘れちゃったの? 今日はリートちゃんの十四歳の誕生日よ」
「ボケるにはまだ早いよ」と言ってケタケタと笑いながら、おばさんは帰って行った。
扉を閉め、ゆっくりと息を吐く。
胸に手を当てると、心臓がどくどくと激しく音を立てていた。
「時間が巻き戻ってる……?」
私は部屋の中を見回す、三人がけのテーブルと椅子、古ぼけた食器棚、一人用の木のベッド、壁にかけられた小さな鏡、間違いなく十五歳まで私が住んいた家だ。
壁の鏡の前に立ち自分の姿を確認する。
栗革色の髪に胡桃色の瞳の見慣れた顔、でも鏡の中の私はあどけなさを残していた。
どう見ても十三歳~十四歳ぐらいの少女の顔だ。
「タイムリープ……したの?」
未来の記憶を持ったまま、精神だけ時を遡り、過去の自分の体に宿るタイムリープというものがあると、王宮の書物で読んだことがある。
おばさんは今日が私の十四歳の誕生日だと言っていた。
やり直し前の私は二十歳だったから、六年分の時が巻き戻ったことになる。
十四歳の誕生日、私は癒やしの力を得た。
その日の夕方村長様が馬車の下敷きになり大怪我を負う、私はそこで初めて癒やしの力を使った。
「私は……この村にいてはいけない」
私は急いで荷造りをし【旅に出ます】と書いた紙を机の上に置き、生まれ育った村を後にした。
両親は一年前に亡くなった、私が村を出て行っても悲しむ人はいない。
私はここにいてはいけない、この村にいたら私は村長様を助けてしまう。
私が村長様を助けるために癒やしの力を使ったら、いずれ王家に知られてしまう。
王族に見つかり利用されるのはもう嫌、沢山の人が私のせいで不幸になるのを見たくない。
やり直し前の人生、初めのうちはアポテーケ村の人や近隣の村の人達の怪我や病を治しているだけだった。
私はそのままひっそりと村の人たちを治療して、一生アポテーケ村で生きていくつもりだった。
でも運命は残酷で、王太子が私の噂を聞きつけてアポテーケ村を訪ねて来た。それから私の人生はおかしくなった。
王都に連れて行かれ、国王の病を治したことで聖女として崇められ、王太子に「皆の為」と説得され、大勢の人を癒やした。そして要らなくなったら全ての罪を押し付けられ処刑された……そんな人生はもう嫌。
私が王都に行けばまたレーベン公爵の養女にされるだろう。レーベン公爵家の人を巻き込めない。
レーベン公爵家の人は平民出身の私にも分け隔てなく接してくれた、養父である公爵は貴族としての嗜みを、養母である公爵夫人は読み書きや刺繍やダンスを教えてくれた。
メイドさんも執事さんも、みんな情に満ちたいい人達だった。
私を養子にしたばかりに養父は爵位を剥奪され、家を取り潰され、養父の三親等先の親族は処刑され、使用人まで殺された。
私が治療を施した貧しい子供達は奴隷として海外に売られた。
私が癒やした兵士達は、何度も何度も治療され戦場に送られ廃人になった。
ハイル国に攻められたメーアト国は、戦争に負けハイル国の属国になった。
今回の人生でも、私が癒やしの力を使えば遅かれ早かれ王家に嗅ぎつけられる。この力を王家に悪用させる訳にはいかない。
村長様が大怪我をするのを分かっていて見捨てるのは、心苦しい。
だけど私が癒やしの力を使えば村が無くなる。六年後アポテーケ村は悪魔の聖女の誕生した地として焼き払われ、村人は皆殺しにされる。
私はアポテーケ村にいないほうがいい。
今回の人生では聖女の力を使わない。
大勢の人巻き込まない為に村長様を見捨てる私は酷い人間だ、でも他に選択肢がない。
今回の人生は誰も私の巻き添えにしたくない。
私は最低限の荷物を背に村を後にした。
「ごめんなさい村長様、さようなら村の人達」
私がアポテーケ村の土を踏むことは二度とないだろう。
74
あなたにおすすめの小説
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
縁の切れ目が金の切れ目です!
あんど もあ
ファンタジー
「みすぼらしいお前とは婚約破棄だ!」
「じゃあ、貸してたお金を返してくださいね」
質素倹約がモットーのアナベルは、浪費家の婚約者に婚約破棄されてしまう。だがそれは想定内で……。
大嫌いな従兄と結婚するぐらいなら…
みみぢあん
恋愛
子供の頃、両親を亡くしたベレニスは伯父のロンヴィル侯爵に引き取られた。 隣国の宣戦布告で戦争が始まり、伯父の頼みでベレニスは病弱な従妹のかわりに、側妃候補とは名ばかりの人質として、後宮へ入ることになった。 戦争が終わりベレニスが人質生活から解放されたら、伯父は後継者の従兄ジャコブと結婚させると約束する。 だがベレニスはジャコブが大嫌いなうえ、密かに思いを寄せる騎士フェルナンがいた。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから
越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。
新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。
一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?
グランディア様、読まないでくださいっ!〜仮死状態となった令嬢、婚約者の王子にすぐ隣で声に出して日記を読まれる〜
月
恋愛
第三王子、グランディアの婚約者であるティナ。
婚約式が終わってから、殿下との溝は深まるばかり。
そんな時、突然聖女が宮殿に住み始める。
不安になったティナは王妃様に相談するも、「私に任せなさい」とだけ言われなぜかお茶をすすめられる。
お茶を飲んだその日の夜、意識が戻ると仮死状態!?
死んだと思われたティナの日記を、横で読み始めたグランディア。
しかもわざわざ声に出して。
恥ずかしさのあまり、本当に死にそうなティナ。
けれど、グランディアの気持ちが少しずつ分かり……?
※この小説は他サイトでも公開しております。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる