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3話「フルスネコの町の写本師」
しおりを挟む村を出てから二年が過ぎ、私は十六歳になった。
二度目の人生で私は癒やしの力を一度も使っていない。
隣国のメーアト国に渡りいくつもの町を転々とした。今はフルスネコの町という大きな町に落ち着いている。
メーアト国に来て知ったことがいくつかある。
メーアト国はハイル国よりも国土が広く、温暖な気候で穀物がよく育ち国自体が豊かで、民の生活も安定している。
音楽を好む人が多く、ファッションや建築学が進んでいるということ。
やり直し前の人生で私はメーアト国を滅ぼしてしまった。
こんなにも自然が豊かで、人々が穏やかに暮らしている国を、私は不死身の軍隊を作り出し滅ぼしてしまっのね。
やり直し前の人生で王太子が言っていた事を思い出す。
『メーアト国の人間は皆野蛮で攻撃的だ。料理は手づかみで食べ、男は暴力的で気に入らない人間がいると女でも子供でも平気で殴る。
好戦的な民族で民から税を搾取し兵器の開発ばかりしている。そのせいで民は食べる物にも事欠き苦しい生活を強いられている。
メーアト国が攻めて来たら今のハイル国の兵力ではなすすべもなく負けるだろう。そうなればハイル国の国民は皆奴隷にされてしまう。
だからリートの癒やしの力で傷ついた兵士を治療してくれ! 強力な兵器のない我が国がメーアト国に勝つためには他に方法がないんだ!』
ユーベル様はそう言って私に兵士の治療をさせた。
今なら王太子が嘘を言っていたと分かる。
メーアト国は大きな国だが人々は温厚で、町中で誰かが暴力を振るっているところなどいない。まれに見ることはあるが、そういう人は直ぐに兵士に捕まり牢屋に入れられている。
私は国政には詳しくはない、だけど音楽や文学を好むこの国が、民から税金を搾り取り兵器を開発しているようには思えない。
国王陛下も王妃陛下も王太子殿下も平和を好む穏やかな人だと皆が口を揃えて話している。
今なら分かる、好戦的な性格の悪人はハイル国王と王太子のユーベル様だったのだと。騙されたとはいえ、私はとんでもない過ちを犯してしまったのだと。
メーアト国の人達はよそ者の私にも良くしてくれました。
私はこの国の為にも癒やしの力は二度と使わない。
ユーベル様のような人間に癒やしの力を悪用させないために、私の持っている力の事は死ぬまで秘密にしよう。
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