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7話「夜明け前」
しおりを挟む夜明け前、必要最低限の荷物とお金を持って家を出た。
ビーネは癒やしの力について話す人ではないと分かっている、この力を利用するような人ではないということも。
それでもやはり怖いのだ、断頭台で首を跳ねられた日の記憶が消えない。
何かのきっかけでビーネ以外の人に力のことを知られてしまったら……また利用されてしまったら……そう考えると怖くて仕方ない。
癒やしの力を戦争や奴隷売買に利用されてしまう。いえもっと酷いことが起こるかもしれない。
奴隷として売られる子や、廃人になる兵士を作ってはいけない、癒やしの力を戦争に利用させてはいけない。
私がこの街から姿を消し長い時間が経てば、ビーネは私の事を忘れる。
時間が経てばきっと昨日の事を夢だと思ってくれるはず。そんな淡い期待を抱き私はドアに鍵をかけた。
「どこに行くの?」
「ビーネ、どうして」
後ろから声をかけられ振り返ると、不機嫌そうに眉を釣り上げたビーネがいた。
「それはこっちのセリフ、今日説明してくれる約束だったよね? それなのにそんなに大きな荷物を持ってどこに行くつもり?」
「ごめんなさいビーネ、何も聞かずに私を事をこのまま行かせて、私のことは忘れて」
「リア!」
ビーネの横を通り過ぎようとすると、腕を掴まれた。
ビーネの真空色の瞳が真っ直ぐに私を見つめている。
「行くなリア!」
「お願い行かせて、それがあなたのため、いえこの世界のためなの!」
この街の朝は早い、ビーネと話している間に人々が起き出した。窓を開けたり、井戸に水を汲みに行く人などが増え始めた。
「ここで長時間いると目立つ、人に聞かれていい話でもないし、家の中で話せないかな?」
ビーネの言うことにも一理ある、家の前で揉めるのはまずい。
「分かったわ、家の中で話しましょう。その代わり話を聞いたら帰って、そして私の事は忘れて」
「それは保証できないな」
☆☆☆☆☆
話が長くなるので紅茶を入れ、お茶菓子を用意した。
長椅子に隣り合って座り、ゆっくりと今までにあった経緯を話し始めた。
私に癒やしの能力があること、この世界が巻き戻り後の世界であることなど包み隠さずに全て話した。
話すからには私の力は危険だと言うことを知って貰いたい、そのためには全てを話した方がいいと思った。
私はハイル国の外れにあるアポテーケ村という小さな村に生まれた。
十三歳のとき両親を亡くし、両親の残してくれた家で一人で暮らしていたこと。
十四歳の誕生日に癒やしの力に目覚め、その日の夕方馬車の下敷きになった村長様を助けたこと。
そのことをきっかけにアポテーケ村や近隣の村人の病や怪我を治療することになり、僅かな報酬を得て生計を立てていたこと。
癒やしの力を持つ娘がアポテーケ村にいるという噂が王都にまで届き、王太子が訪ねて来たこと。
王太子に国王の病を治してほしいと言われ、王都に連れて行かれたこと。
癒やしの力で国王様の病を治すことに成功したこと。
王太子は私の力に目をつけ、私を公爵家の養女にし自身の婚約者にした。
王太子はとても野心家で邪悪な心の持ち主だった。
王太子は私に貧しい子供達を治療させ、裏で人頭税が払えない子供を奴隷として他国に売り払っていた。子供の病や怪我を治療させたのは少しでも高く売る為だったこと。
王太子は領地拡大の野望を抱き、隣国のメーアト国に戦争をしかけたこと。
私にはメーアト国が攻めてきたと嘘を吐き、国を守るために兵士を治療するように命じたこと。
私は王太子の言葉を信じ兵士の治療をした、それが国を守る事に繋がると思っていた。
何度も何度も治療され回復するたび戦場に送られた兵士は、戦争が終わったとき廃人になっていた。
戦争が終わり、王太子が子供を奴隷として他国に売ったことと、隣国に戦争をしかけた事が公になりそうになると、王太子は全ての罪を私と養父に押し付けた。
私は王太子に婚約破棄され、養父の公爵とともにギロチンにかけられた。
養父は公爵の地位を剥奪され、公爵家の人間は養父の三親等先の親族と使用人に至るまで処刑されたこと。
私の育ったアポテーケ村は王太子に悪魔を育てた村と責められ、王太子に焼き滅ぼされたことを……。
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