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8話「俺が君を守るよ」
しおりを挟む「ギロチンで首を刎ねられたはずの私は、気がついたら生まれ育ったアポテーケ村にいてベッドで眠っていたの。十四歳の誕生日の朝まで時間が巻き戻ったみたい。私は村人に何も言わず置き手紙を残して村を出たわ」
ビーネは黙ったまま私の話を聞いてくれた。
「酷い女よね、その日の午後に村長さんが馬車の下敷きになって大怪我することが分かっていたのに、何もしないで逃げたのよ」
村長さんの顔が脳裏に浮かぶ。
両親を亡くした私に子供でも出来る仕事を紹介してくれて、時々夕飯にも招待して下さった優しい村長様。
私は親切にしてくれた村長様を見捨てて村を出たのだ。胸がズキリと音を立てる。
「時が巻き戻ってから、私は癒やしの力を隠して生きてきた。
助けなかっのは村長さんだけじゃないわ、目の前で苦しんでいる大勢の人から目を背け見捨ててきたの」
病にかかったお年寄り、大怪我をした幼児、獣に襲われ瀕死の傷を負った若者……私はたくさんの人を見捨ててきた。
「でも、俺のことは助けてくれた」
「それは……」
ビーネのことだけは見捨てられなかった。冷たくなっていく体から手を離せなかった。
「リア、君は優しいよ。村長さんの命と村人の命を天秤にかけて、村人の命を助ける道を選んだんだろ?」
「……」
「他の人達についても同じだよ。リアの話が本当なら、この国は数年後ハイル国に攻められ敗北する。
戦場で多くの兵士が命を落とし、メーアト国はハイル国の属国になる。属国になれば国民は今までのような生活を送れない。
若者は国境の警備として徴兵され、女性は娼婦にされ純潔を踏みにじられ、子供は労働力として他国に売られ、年寄りは殺されるだろう。
リアは目の前にいる数人の命と、この国の数十万人の命を天秤にかけて、より多くの人が助かる道を選んだだけだよ。リアは悪くない。俺がリアでも同じ選択をしたさ」
「それでも、助けられる人を見殺しにしたことに変わりはないわ。私は目の前で苦しんでいる人を見捨てたのよ」
ビーネが私の手に自身の手を重ねた。
「泣かないでリア、俺はリアが傷ついているのを知ってるよ」
「ビーネ」
「リアは病や怪我で亡くなった人の話を聞くたびに涙を流していたよね? 初めのうちはリアが慈悲深い人だからだと思っていた。心根が優しいから見ず知らずの人の死にも心を痛めるのだろうとそう思っていた。
でも違った、君は苦しんでいたんだ。助ける力を持ちながら、何も出来なかった自分を君はずっと責めていた」
ビーネの手が私の頬を拭う、私はいつの間に泣いていたのかしら?
「泣かないで、リア君は思いやりのある情け深い人だよ。これからは俺がリアを支える。君の苦しみも痛みも悲しみも、俺が一緒に背負うよ」
ビーネが私の頭をそっと撫でてくれた、小さな子をあやすように撫でてくれた。
「昨日は馬車に乗る前に着替えたし、血のついた服は家に持ち帰り暖炉で燃やしたから、血のついた服は誰にも見られていない。馬車も念入りに掃除した、これで俺が怪我をした証拠はどこにもない」
ビーネの空色の瞳が真っすぐに私を見つめる。
「命をかけて誓う、俺は絶対に誰にもリアの能力の事を話さない」
「うん……」
「それでも怖いならこの街を出よう、その時は俺も一緒に行く。一生君の側にいさせて、何があっても俺が君を守るから」
「……ビーネ」
「二人なら辛いことや悲しいことは半分、嬉しいことや楽しいことは倍になるよ」
「ありがとう、ビーネ」
私はビーネの手をきゅっと握った。
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