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背中に散る桜を想う
しおりを挟む出会いの季節は春というけれど、僕の運命の出会いは秋だった。紅葉が絨毯を作り、歩く度にカサカサと音がする。当時小学一年生だった僕は音楽を奏でているようで楽しくて。僕は夢中になって足で音楽を奏でていた。
「あら、お隣の工藤さん」
母の声に我に返った。母の目線を辿ると、そこには母よりも少し若く見える女性がいた。彼女には見覚えがあった。最近隣には若い夫婦が引っ越してきていて、彼女はその奥さんのようだ。
母に声をかけられた彼女は小さな赤ん坊を抱いていた。抱っこ紐で赤ん坊を支えている。幼い僕は、カンガルーのようだとトンチンカンなことを考えていた。
「生まれたのね!」
嬉しそうに母は彼女の元に歩み寄った。興味を引かれ、僕も駆け寄る。彼女は嬉しそうに笑って、赤ん坊の頭を撫でた。
「妊娠中は色々とお世話になりました。生まれた子は、女の子なんです」
彼女は少し屈んで、赤ん坊の顔を僕にも見せてくれた。大きくクリクリとした黒い目、もちもちの頬、小振りだが瑞々しい唇に僕は目を奪われた。
「……あの。握手、してもいいですか?」
僕は赤ん坊に触れたくて、声をかける。彼女は笑顔で赤ん坊の手を差し出してくれた。僕は恐る恐る紅葉のような手に触れる。ふにふにだ……!同じ人間のはずなのに、この赤ん坊は小さくてふにふにで、強く握ったら壊れてしまいそうな儚さがあった。
「彩葉って言うの。よろしくね」
顔を綻ばせた僕に彼女が笑いかける。僕は彩葉の存在に衝撃を受けて、小さく頷くことしかできなかった。僕はその時、彩葉を守れと言われたような気がした。小さくて儚い彩葉を僕が守らなければと思った。僕は騎士なのだ、と。当時好きだった漫画の騎士と自分を重ねて、僕は思ったのだった。
「ハルにいー!」
小学生になった彩葉は妹のように僕の後ろをチョコチョコと付いて回る。彼女の雛鳥のような行動がくすぐったくも可愛らしくて、僕はついつい世話を焼いてしまうのだった。
彩葉が歳を重ねる毎に、彼女は少しずつ僕と節度のある距離を保つようになった。思春期によるものだろうか。それとも、僕を異性として見ているからだろうか。後者であって欲しいなと思いながら、僕は高校生になった彼女の家庭教師をしていた。どうも勉強が得意ではない彼女は成績が思わしくないようだ。
「ハル兄は、頭が良くていいなあ」
集中力が途切れた様子の彩葉は、シャープペンシルを回しながらぼやく。
「そんなことないよ。彩葉は頭がいいから、理解が出来ればすぐに解けるようになるさ」
僕が笑いかけると、彼女は腑に落ちないような顔をする。
「そりゃあ、ハル兄の教え方は上手だけどさ。勉強、つまんないんだよね」
「……楽しいことがあるといいのかな?」
僕の言葉に、彩葉は飛びつくように顔を輝かせた。
「そう!それよ!楽しいことがあると続けられるんだけどなあ」
「じゃあ、彩葉が今度のテストでいい成績を取ったらご褒美をあげるよ」
「ほんと?!わーい!」
彼女は声を弾ませる。その姿が可愛らしくて、僕もつられて笑みを浮かべた。
宣言通り、彩葉はテストで良い成績を残した。
「ハル兄!約束したよね?ご褒美ちょーだい!」
ウキウキとした彼女に、僕は笑みを浮かべて口を開けた。
「いいよ。僕のとっておきのご褒美!マッサージだ!」
「……マッサージ?」
拍子抜けした様子の彩葉に、僕はにっこりと笑って言葉を続ける。
「そう!日頃疲れてる彩葉を癒してあげようと思ってね」
「うーん、なんか思ったのと違うなあ……」
ぼやく彩葉に、僕はすかさず言葉を重ねる。
「あと、チョコレートケーキを買ってきたよ!」
「流石ハル兄!」
チョコレートケーキは彩葉の好物だ。単純な彩葉は目を輝かせる。
「じゃあ、先にマッサージして身も心もリラックスしてから食べようよ」
「うん、分かった!」
驚くほど素直になった彩葉。
「じゃあ、洋服脱いでうつ伏せになってね」
「えー、恥ずかしいなあ」
「マッサージするだけなのに?」
「……えっちなこと、しないでよね」
「するわけないだろ。僕を犯罪者にさせたいの?」
「冗談だよ」
彩葉が遠慮がちに服を脱ぐ。勿論、じっくり見るわけにはいかないので背を向けているのだが、服を脱ぐ音だけが部屋に響く。
「……いいよ」
彩葉の声に振り向くと、彼女はベッドにうつ伏せになっていた。僕はベッドに乗り込む。ギシ、とベッドが音を立てた。
「じゃあ、始めるね」
「うーん……きもちいー……」
彩葉の声に覇気がなくなってきた。そろそろ効いてきたのだろうか。安らかな寝息を立て始めた彼女の姿を確認して、僕は彼女の白く華奢な背に唇を落とす。何度も何度も。夢中で彼女に所有の証を刻む。彼女の背中には桜がいくつも散らばっているようだ。
今、彼女のハジメテを奪うのは早急だろう。彼女が高校を卒業したら、告白しよう。そして、卒業のお祝いに僕のハジメテを捧げよう。彩葉、早く卒業しないかな。僕は彼女の背に散る桜を指で撫でた。
Fin.
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