『お前が『やめろ!』と叫ぶたびに仲間を1人ずつ殺していく…』『やめろ!』〜迫害されていた無職の私は魔王幹部にそう言われて『やめろ』と叫んだ

竜頭蛇

文字の大きさ
10 / 28

神灯騎士団

しおりを挟む

 神灯騎士団の元に訪れたハロルドを、神灯騎士団の団長のオフィリアが出迎える。

「ああ、ハロルド王子殿下。ご無事であられたのですね!」

 魔人殺しの異名を持つ女傑のオフィリアがハロルドに対して、快活な声を出して生還を出迎える。
 よその騎士団ということで人となりを知らなかったのでハロルドは面食らう。
 あまりの信心深さに必死と言われる魔人にも一歩も退かない態度を取るために魔人殺しという異名がついたということは実しやかに聞いていたので、厳格で冷酷なイメージを持っていたのだが、目の前で柔和な態度をとるオフィリアの態度が一致しなかった。
 信心深いものほど王族でありながら身分不相応の加護しか与えられなかったハロルドを、心が邪なものだから、神への奉仕が足りないためにと侮蔑する者が多かったので、その中でも抜きん出ているオフィリアなどあからさまな嫌悪を示すだろうとまで予想していた。

「……ああ、なんとか難を逃れてここに来ることができた。エバン団長が先の戦いで心を病み、我々では手が負えぬ状態だ。頼めるか?」

「ええ、女神アスタロトからここまでの寵愛を受けている陛下の頼みとあらば、喜んでお受け致します。陛下に対する不遜な噂の類が嘘であったことをこのオフィリア確信致しました」

 オフィリアの言葉から、ハロルドは勇者として覚醒したために態度が軟化していることに気づき、蛇に首元を這われるような感覚に襲われる。
 態度の裏側を認識したからか、彼女の目はハロルドに合っておらず、他のものを見ていることに気づき、得体の知れなさを感じる。

「オフィリア団長。目の焦点がずれおるがどこを見ておるのだ」

「女神の寵愛を見ております、陛下。祝福を見るに白翼騎士団と相対していた魔族どもを潰して頂いたようですね。イカルデ、隊列を左に寄せて中央の穴を塞ぎ、白龍騎士団にこちらの動きに合わせて左に隊列をずらすように伝令を送りなさい」

「はは!」

 オフィリアが迅速果断に命令を飛ばす様に、有能さを感じると共に不気味さを感じる。
 ハロルドの後ろに控えていたマスキオは、久しぶりに見るオフィリアの狂騒に嫌悪を感じつつ、ハロルドがあまりの不快さに神灯騎士団を飛び出しかねないと危機感を抱き、進言する。

「オフィリア殿。 貴公の慧眼の通り、魔族軍の大隊をお一人で壊滅されお疲れです。手の空いているものに宿舎に案内させていただけますかな」

「私としたことが。ベイル、陛下を私のテントに案内しなさい」

「は!」

 団長側付きのベイルが先導し始めると、マスキオはハロルドに目立たぬように移動するように促しつつ、できるだけオフィリアから距離を取る。
 マスキオにとってハロルドの機嫌以外にも、オフィリアを彼から引き離したい理由がもう一つあった。
 オフィリアがマスキオが軍に左遷される一件に関与しているからだ。
 そういう裏事情を知らないハロルドに知られて、評判を落とすことは避けたかった。
 地理的に近く、魔族からの攻撃が緩くなければこんなところには絶対に足を運ばなかった。
 せめて同じく地理的に近かった聖血騎士団が陛下と息のあった連中であれば良かったのだが、あそこは腐敗しきっているので、陛下と距離感の近いマスキオを始末して、取り入るためにその空いたスペースに入り込もうとする可能性が高かった。
 オフィリア側はマスキオが気をつければ、何とかはなるが聖血騎士団側は権謀術中に長けた有力貴族の庶子ばかりが集まるため、それを防ぐのは不可能に近い。

 ーーー

「オフィリア団長は私にこのテントを開け渡すようだが、彼女のテントはどうするつもりだろうか」
 
 ハロルドは一息つこうと思うと、自分のものを明け渡したことで寝床を失ったオフィリアのことが気になり口に出した。

「おそらく副団長たちが詰める幹部たちのところに行くでしょう。何も気負う必要もありませんよ」

「そうか。だが男たちどもが詰める場所に女性を一人でよこすよりは我々が幹部たちの元に行った方が良いのではないか?」

「教会の信徒にとって男女の別など気にかけることではないので宜しいかと。我々は女神の祝福の量によって人を区別するので」

 戦場のことに関しては博識なハロルドに対して、模範的な教会の人間の考え方については無知なのかと少し意外に思いながらもマスキオは答える。
 教会に属するものは女神の元の平等を掲げており、女神の加護以外の物事において区別は判断する。
 教義において、この世には男も女も子供も大人も貧者や富者も女神に加護の恩恵に預かっているものは、皆ともであり友人。
 そして女神がつけた序列には絶対服従である。

「教会のものは独特な世界に生きておるな。私には難解な教会の教えはただ矛盾しているだけの意味のないものに思えてならんよ」

「これでもこの教えは人の世の役に立っているのですぞ、私もくだらんと感じますが」

「教会のものなのにそれでいいのか……」

「ものごとを習熟する段階には守破離という三段階あります。守の段階ではひたすらに教えを守り、破の段階で己に不必要な部分を破り、離の段階では教えはもう必要としなくなり、教えの師から離れます。これは教会にても同じこと。そうすることで、多数の派閥のものや異端のものは生まれました」

「絶対なのではないのだな」

「所詮は人が決めた掟ですからな」

 いつも教会で振るう説法を披露し、教会の内部事情についてマスキオは伝える。
 この神灯騎士団は全てのものが教会関係者で構成されているため、無知のままであれば、教会に紛れる過激派に謀れる可能性があるからだ。
 ハロルドが過激派の連中の手に堕ちれば、王国は崩壊する。
 そうなればここから帰ったところで意味はない。

「それと陛下。教会の人間にいる過激派にはご注意下さい」

「過激派?」

「王国の魔族不可侵の結界を破壊した時に、女神の加護が薄いものが排斥され、女神の加護が強いものが生き残ることで真の信徒を選別しようと考える頭のおかしな連中です」

 ハロルドは過激派の思惑のあまりの悍ましさに顔を歪める。
 魔族から侵略されることを防ぎ、民の安寧を守ってきた結界をわざわざ壊し、女神の加護の多寡で人を選別しようなど、正気の沙汰とは思えない。
 そんなことをしても荒れ果てた亡国と流民となった自分自身が残るだけだというのに。

「教会関係者の中にはそう言った危険人物をおります上、大きな力を得た今でも油断をすることなく教会に所属する騎士たちの動静をよく見るようにお願いします」

「教会も中々に重い病巣を抱えているのだな。聖女と懇意ということもあり、ハハーン兄上が取り仕切っていたので、私は関わらないようにしていたが、これからはできるだけ情報を集めて備えた方が良さそうだ」

 ハロルドがハハーンが教会関連の情報を統制していたことを伝えたことで、マスキオはハハーンと聖女が過激派に陥ていたことを察した。
 一部の過激派からはハハーンこそ真の王であり、勇者の祝福を受けなかった偽の現王と出来損ないのハロルドは王族としておくにはあまりにも浅ましいので始末するべきであるというものが出てきており、おおよそそれに感化されたのだろう。
 だからこそ情報を遮断していつでも手が出せるようにしておいたのだ。
 改めてマスキオはハハーンが死んで、勇者としてハロルドが覚醒して心底良かったと思った。
 出なければ遠くにないうちに、王国の結界が解かれて、王が崩御されるとなっていてもおかしくなかったのだから。
 そうなれば最悪動乱の最中に他国の賊がやってきて、奴隷落ちも十分あり得る。

「目の前の戦いに過激派の脅威とやることは山積みだな」

「まずは目の前の戦いを追わせることが先決ですな。陛下、魔族を一掃した技は明日には打てそうですかな?」

「まだわからない。私自身今まで時間を置かねば支えない技を使ったことがないからな」

「あの技は遠距離からでもできるので、体を十分に回復させた明日の夕ごろに遠くから打ってもいいかもしれませんな」

「そうだな。それまでの時間があれば流石に。でなければ実戦での使用は限られたものになる」

 ハロルドはあの規格外の技について冷静に分析しつつそう呟く。
 ハロルドに早く戦乱を終わらしてもらい、余力で魔王幹部のクリスからノインを救出させたいと思っているマスキオにとってその返事は満足のいくものではなかったが、ハロルドを急かしても対して事態は好転しないことを知っていたため明日に期待することにした。
 マスキオとしてはこの調子で地道に使うことで技の熟練度が上がり、早く打てるようになれば大助かりだ。
 未来に展望を見出すマスキオの一方でハロルドは目立つ冠斬を使用することで、潜伏している可能性があるノインとクリスの捕捉されるかもしれないのではないかと密かに危惧する。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...