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知り合いに忘れられるのは精神的に応える
しおりを挟むこちらに気づかなかったのだろうか?
「エラー、ちょっと待てよ」
今度はちゃんと呼びかけると、エラーは振り返った。
「誰? あんた?」
奴は俺の顔を見ると怪訝そうな顔をしてそういった。さすがにもう俺にも何が起こっているのか分かった。
「……俺はリードていうんだが、知らない?」
だが確認せずにはいられなかった。
「知らないわね」
エラーはこちらの望みを否定するようにそっけなく返事をした。
胸が締め付けられるような圧迫感に襲われる。
「そうか、ごめん。人違いみたいだったみたいだ。時間取らせて悪かったな」
「それほど時間も取ってないし、気にしなくていいわよ」
エラーはそう言うと人ごみの中に消えていく。
人に忘れられることがこんなに辛いとは思わなかった。
決して奴は裏切ってなどはいないのに何だか裏切られたような気分だ。
トリシュとアルテマイヤも俺のことを覚えていないのだろうか?
この場から走り出してそのことを確認したい焦燥に駆られる一方で、エラーのように忘れられているのではないかと思うと恐怖に体を雁字搦めにされる。
動き出したいが、動き出せなかった。
ただ人ごみの中を流されるように歩いた。気づくと校舎の前にたどり着いていた。
「リーさん! どこに行っていたの? 探していたのに見つからないから焦ったよ」
声のした方向に体をむけるとトリシュがいた。少し困ったような顔をしている。
トリシュは俺のことを覚えていたようだ。自分のことを誰も知らない世界に放りだされたような気分だったので、救われた気分になった。
「ああ、ごめん。ちょっと、ここらへんを練り歩いていたんだ」
「どうしてそんなこと……。まあいいや、早く食堂にいこう」
トリシュはそういうと俺をひきずって食堂の方に駆けていた。トリシュの積極性がいつもよりもアップしている。
今は昼時かなにかでトリシュは余程、空腹なのだろう。
―|―|―
食堂のテーブルに料理がひしめいている様を久しぶりに見たせいか、えらく新鮮に感じる。
過去の学園であった連中はそこまで食うような奴はいなかったからだろう。
「トリシュ、そういえば、アルテマイヤは何処にいるんだ?」
目の前の食べ物を黙々と口に運ぶトリシュに、俺は勇気を振り絞って、問いかけた。
この返事でこの世界で俺とアルテマイヤがどういった関係性かわかるだろう。
いづれはわかることだし、トリシュと出会って回復した今なら悪い結果でも耐えられるような気がした。
はからずも、俺の問いを聞くトリシュの姿を凝視してしまう。
トリシュは食べ物を運ぶ手を止め、口を開いた。
「アルテさんなら、用事があるていって図書館に行ったよ」
トリシュがなんてことはないという風に答えるさまを見て、安心した。
奴が淀みなく返事したということは、俺がアルテマイヤのことを話すことの違和感はないということだ。
アルテマイヤはおれの事を忘れていないのだ。
「あいつが図書館に行く用事なんてあるんだな……」
安心したせいか、そんな感慨が口から洩れた。
なんでもない言葉だが、そう言えてる自分が少し幸せであるように思える。
人から忘れられれしまえば、こんな言葉を言うこともできないのだから。
「……」
「……」
トリシュはまた食べるのに夢中になってしまい、沈黙が訪れた。
前はしょっちゅう沈黙など訪れて気にならなかったが久しぶりに会うせいか気になった。
何だか落ち着かなくなったので食事に手を伸ばした。
「リーさん、何だか疲れたような顔しているね、何かあったの?」
しばらくするとトリシュが口を開いた。
エラーに忘れられたことで応えていることを悟られたようでギックリとした。
「やっぱりな。リーさん、辛いことがあるとすぐ顔に出るから」
トリシュは苦笑すると、話す事を促すように目を見つめてきた。
「俺、そんなに顔に出やすかったのか……」
そうつぶやくとトリシュは頷いた。
なんだかそれを見ると素直に話そうという気持ちが湧いてくる。
「知り合いに忘れられててな。それがショックだったんだ。何だか自分の存在が否定されているような気がして」
とりとめのない言葉でそれをトリシュに話した。胸を締め付けていた何かが少し楽になった気がする。
「それはつらいね……。でもわすれられても、またその人と関係を築けばいいんじゃないかな」
その言葉はひどく無責任に聞こえたけど、それ以外には方法がないことはすぐに理解できた。
それと同時に忘れられたと聞いて、すぐに答えを出せたトリシュの強さを感じた。
「リーさんならきっとできるよ」
こちらの背中を押してくれるようなその一言で、胸の苦しみがなくなって、力が湧いてきた。
強い人間にできると太鼓判を押してもらえることほどやる気が出ることはない。
なんでもできるような気がするし、こいつの期待に応えたいという気持ちが湧いてきた。
こいつには、また貸しができたな。
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