幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組みたいと思います

竜頭蛇

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雛祭

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 今日は『雛祭』当日。
 制服ではなく、着物を着た女生徒の姿が見えることで今日がその日であることを意識させられる。
 着物は特に強制ではないが、『雛祭』の身代わりにするという趣旨にのとって、大概の生徒は雛人形にできるだけ姿を似せるために着物姿になる。
 他の生徒と同様に恵梨香も着物姿になっており、丈の短い桜色の振袖を着ていた。

「秋也、麻黒さん、行ってきますね」

「恵梨香、練習を思い出して頑張って」

「羽咲さん、あの女が怪しい動きをした瞬間に私の端末に連絡して頂戴」

「はい、任せてください」

 俺と麻黒さんが摩耶に対する対応策を提示しがてら激励すると恵梨香は元気よく送迎バスに乗車していく。
 麻黒さんの言葉を聞くとどこかで短い悲鳴が聞こえたが、どうやら激励のついでに摩耶に対する牽制にもなったようだ。
 できれば一日中この効果が続いてくれればいいが。

「余裕そうじゃないか、庶民。男子生徒と雛祭に参加しない女生徒はスポーツ交流会に出ることを忘れているわけじゃないよな」

 見えることのない雛祭会場に想いを馳せていると、バスケユニフォーム姿の天政くんが声を掛けてきた。
 スポーツ交流会といえども強制参加ではなく、バーベキューなどを楽しむレジャーにも参加が可能だと言うのに、まるで強制的にやらなければならないような調子だ。

「強制じゃないはずだけど」

「おやあ、そうだったかなあ? 俺は毎回参加してるからそんなこと考えたことなかったな。 そういえばお前は去年も参加してなかったな。もしかして運動は苦手か?」

 白々しいことを言って、混ぜ返してきた。
 安い挑発だ。
 乗らせて、後ろに控えているバスケ部の生徒たちと戦わせようと言う魂胆だろう。
 バスケ部の2年は幼い頃からやっている精鋭揃いだというのに、そんな無謀な挑戦を受けるわけがない。

「そういうわけじゃないけど。わざわざ参加しても面白くなさそうなのはしたくないってだけだよ」

「言ってくれるじゃないか。とっても楽しいから是非とも楽しんでくれよ」

「付き合ってられないな」

 いつまでもこんなことに付き合ってもしょうがないので、レジャー会場に行こうとすると前に天政君が前に回って通せんぼした。

「待ってよ。もうエントリーしてるって言うのにどこに行こうって言うんだ?」

「エントリー? 俺はした覚えはないんだけど」

「こっちでしてやったんだよ。選りすぐりのメンバーでな」

 天政君はもったいぶった口調をすると、ゾロゾロと4人組の男子生徒たちが現れた。
 太った生徒に、女子生徒と見紛うくらいに華奢な生徒だったりと、4人ともあまり運動をしそうな感じには見えない。

「そんなことしても大丈夫なの?」

「大丈夫だともちゃんと久保が合意の上での出場だって言ってるからな」

 流石に交流会のルールに反するのではないかと頼むと、太った男子生徒を指さして言う。

「佐藤、ごめん。俺こうしないと……」

 太った男子生徒ーー久保君は天政君を怯えた目で見ると、消え入りそうな声でそう言う。
 他の3人の男子生徒も同じような経緯でバスケのチームに組み込まれたのか、目を逸らして俯いている。
 どうやら俺がこの挑戦を受けないと彼らがただでは済まなさそうだ。
 男子生徒たちのことを考えると無理に辞退しても禍根しか残らなそうだし、この誘いに乗るしかなさそうだ。

「わかったよ。出場するよ」

「いい返事じゃないか。まあせいぜい頑張ってくれたまえ。初戦敗退が関の山だろうけどね。まぁ、教えるのが得意と噂だし、10分の間でなんとかしてみたらいいんじゃないかな」

 そう捨て台詞を言いながら、せせら笑うと天政君は踵を返してその場から去っていく。

「あら、とんだ噛ませ犬が現れたわね。 秋也、あなたの雄姿をカメラで撮っておくから、完膚なきまでに叩きのめしてね」

「そ、そうだね。期待に添えるように頑張るよ」

 一悶着あった後だが、麻黒さんは清々しいまでに平静そのものでこちらの勝利を疑っていないようだ。
 と言うよりもなぜか、上機嫌になっている気がする。

「佐藤、ごめん、もうすぐなんだ試合。そろそろ……」

「ああ、そうなんだ。どこまで行けるか、わからないけど頑張ろうか」

 とりあえず、時間も押しているので、麻黒さんの上機嫌の理由について考えるのは保留にして、コートに向かう。


 ーーー

『雛祭』のために用意された施設には和服姿の令嬢たちが幾人も押し入り、黙々と作成に取り組んでいる。
 皆選ぶことにまず苦労しており、ほとんどのものがまだ作成に入る前の段階にいる中で恵梨香はすでに雛人形の作成に取り組んでいた。
 その手に迷いはなく、耐久力を上げるために気をつけるべきところ、秋也に気づかせるために工夫をするべき箇所を全て忘れることなく、余すところなく処理していく。
 これは秋也に対する気持ちと天政への気持ちの答えを恵梨香が出したことで、迷いがなくなったことで出せる速さだった。
 迷いがあった前回の練習の倍以上の速度は優に出ている。
『雛祭』のここ一番で彼女は最高潮に達していた。
 いの一番に雛人形を作れることは、川で見つけるさい、一番先頭にあるため発見しやすく、さらに作った順に雛人形は流されていくので、前方とぶつかり、雛人形のパーツが欠ける危険性が減るため大きなアドバンテージがあった。
 一番先に作ったものが、この『雛祭』を制すると言っても過言ではない。

 つまりこの場において、早くも完成間近である恵梨香はこのイベントに対する王手をかけつつある状態にあった。

「出来ました」

 そして今まさに彼女は王手をかけた。





 






 
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