幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組みたいと思います

竜頭蛇

文字の大きさ
19 / 64

認め合う悪役令嬢

しおりを挟む

「ああ、お前は俺のところに帰ってくると思っていたよ」

 雛人形を作る施設からバスで降りると恵梨香はまず簡易医務室にいるという天政の元を訪れた。
 見た目からはケガをしていないように見えるが、頭が痛いのか手で押さえている。

「まあ座れよ」

「いえ、すぐ終わるので」

「すぐ終わる? どういうことだよ!!」

 柔らかい態度だった天政は恵梨香の返答を聞くと一変して、声を荒らげた。
 恵梨香は自分に対しての想いの強さが想定より強いような気がしたが、どちら道切り捨てるものなので気にしないことにした。

「嫌がるあなたに対して粘着するようなことをしてすいません。これからはもう関わり合うことはありません」

「お前! 俺を捨てるのか? 今、俺はお前を受け入れようとしてやってたんだぞ! それを裏切るのか、お前は!」

「すいません、もう気になる人ができてしまったので」

「おい、待てよ! おい!」

 天政がふらつきながら静止するように命令するが、恵梨香は医務室から立ち去っていた。


 ーーー


「あなた、雛祭の後に私と話す場所を設けたのはどういう意図があるのかしら?」

 陽菜は家の自室に到着すると、早速本題について切り出した。
 それというのも恵梨香から雛祭の後、陽菜個人と話をしたいと切り出されていたからである。
 陽菜としては恵梨香の意図について察していたがわざと尋ねていた。
 彼女の真意が知りたかったのだ。

「いえ、秋也くんのことが気になっていて、浅黒さんに断りを入れたくて」

「彼女に堂々と彼氏を狙っていると言うなんてあなたかなり逞しい精神の持ち主ね」

「隠れて狙いとるのは不誠実だし、それではやっていることが天性君を奪い取った高松さんと変わりません」

 きっぱりと言う恵梨香に対して、陽菜は思わず毒気を抜かれた。
 話すまでに何かしらの言い訳やら、自分の正当性を言って、初めて真意を吐露すると思っていた矢先にそれらを全て飛ばして真意を言うとは思ってもみなかった。
 それと言うのもそこまで直球で言うということはすでに、正面対決は避けないと言っているようなものだからである。
 ずっと摩耶が絶対に正面対決を避けようとしていたので、陽菜には殊更以外に思えた。
 だが正面から宣戦布告を受けた陽菜の胸中には不思議と怒りの感情はなかった。
 むしろ正面から来る正々堂々としたその態度には好感が持てた。

「不誠実ね。あなたが正直に答えてたのだから、私も事実を告げた方がいいわね。私が付き合ってるのは不利というだけで、本当には付き合っているわけじゃないわ」

「付き合ってないんですか!? じゃあ!!」

「ごめんなさいね、紛らわしく申し訳ないんだけど。私も彼のことが好きなの」

 陽菜から付き合ってることが擬似的なものだと伝えられ、恵梨香が早まったのですぐに陽菜は訂正を入れる。

「そうですよね……」
 
 しゅんとした状態になり、事故とはいえさながら天国から地獄に落としたようになったようになってしまい陽菜は少し可哀想だなと思ってしまう。
 雛祭に向けて準備を整えている間は、直近で破局している人間の前で秋也に対してアタックするのも憚れ、抑えていたのも、もしかしてと思わせる原因になっただろうかと陽菜は考え、さすがフォローした方がと思うと恵梨香が口を開いた。

「浅黒さんには良くして貰ったので、出来れば争いを避けられればよかったのですけど。こうなったらどうしようもありませんね」

「引く気はないサラサラないってことね。私以外にも秋也を狙っている子は多いけど覚悟はできてる?」

「能力が異常に高い人だから、折込済みです。それに私は陽菜さんに申し訳ないと思っているだけで、別にこのことに気後れしているわけではありません」

 口調は意気揚々としており、先ほどのことは嘘のようだ。
 手強そうな子が来た。
 陽菜はこの時初めて、恋敵として恵梨香を意識した。
 思いが強い分、理事長からの干渉を避けるために秋也に近づいて来る子よりも、陽菜に対して肉薄する可能性が高い。
 もしかしたら家庭教師で直近の交流を重ねている分、陽菜よりも優勢と言えるかもしれない。

「あなた強いわね」

「浅黒さんに言われるとそんな気がしませんけど」

「何か失礼なことを言われた気がするけども不問にするわ。これからよろしくね、恵梨香」

 お互いの関係は対等だと認識した陽菜は恵梨香の名前を初めて呼び捨てで呼んだ。
 彼女が呼び捨てで呼んでいる生徒の数は片手で数えられる程しかないことを考えられば、とても珍しいことだった。

「よろしくお願いします、陽菜」

 この国の頂点にいると言っても過言ではない人間に呼び捨てにされることに恐れ多いと若干気後れしながらも、光栄に思った恵梨香は同じように陽菜を呼び捨てにした。

 









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

嘘からこうして婚約破棄は成された

桜梅花 空木
恋愛
自分だったらこうするなぁと。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...