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認め合う悪役令嬢
しおりを挟む「ああ、お前は俺のところに帰ってくると思っていたよ」
雛人形を作る施設からバスで降りると恵梨香はまず簡易医務室にいるという天政の元を訪れた。
見た目からはケガをしていないように見えるが、頭が痛いのか手で押さえている。
「まあ座れよ」
「いえ、すぐ終わるので」
「すぐ終わる? どういうことだよ!!」
柔らかい態度だった天政は恵梨香の返答を聞くと一変して、声を荒らげた。
恵梨香は自分に対しての想いの強さが想定より強いような気がしたが、どちら道切り捨てるものなので気にしないことにした。
「嫌がるあなたに対して粘着するようなことをしてすいません。これからはもう関わり合うことはありません」
「お前! 俺を捨てるのか? 今、俺はお前を受け入れようとしてやってたんだぞ! それを裏切るのか、お前は!」
「すいません、もう気になる人ができてしまったので」
「おい、待てよ! おい!」
天政がふらつきながら静止するように命令するが、恵梨香は医務室から立ち去っていた。
ーーー
「あなた、雛祭の後に私と話す場所を設けたのはどういう意図があるのかしら?」
陽菜は家の自室に到着すると、早速本題について切り出した。
それというのも恵梨香から雛祭の後、陽菜個人と話をしたいと切り出されていたからである。
陽菜としては恵梨香の意図について察していたがわざと尋ねていた。
彼女の真意が知りたかったのだ。
「いえ、秋也くんのことが気になっていて、浅黒さんに断りを入れたくて」
「彼女に堂々と彼氏を狙っていると言うなんてあなたかなり逞しい精神の持ち主ね」
「隠れて狙いとるのは不誠実だし、それではやっていることが天性君を奪い取った高松さんと変わりません」
きっぱりと言う恵梨香に対して、陽菜は思わず毒気を抜かれた。
話すまでに何かしらの言い訳やら、自分の正当性を言って、初めて真意を吐露すると思っていた矢先にそれらを全て飛ばして真意を言うとは思ってもみなかった。
それと言うのもそこまで直球で言うということはすでに、正面対決は避けないと言っているようなものだからである。
ずっと摩耶が絶対に正面対決を避けようとしていたので、陽菜には殊更以外に思えた。
だが正面から宣戦布告を受けた陽菜の胸中には不思議と怒りの感情はなかった。
むしろ正面から来る正々堂々としたその態度には好感が持てた。
「不誠実ね。あなたが正直に答えてたのだから、私も事実を告げた方がいいわね。私が付き合ってるのは不利というだけで、本当には付き合っているわけじゃないわ」
「付き合ってないんですか!? じゃあ!!」
「ごめんなさいね、紛らわしく申し訳ないんだけど。私も彼のことが好きなの」
陽菜から付き合ってることが擬似的なものだと伝えられ、恵梨香が早まったのですぐに陽菜は訂正を入れる。
「そうですよね……」
しゅんとした状態になり、事故とはいえさながら天国から地獄に落としたようになったようになってしまい陽菜は少し可哀想だなと思ってしまう。
雛祭に向けて準備を整えている間は、直近で破局している人間の前で秋也に対してアタックするのも憚れ、抑えていたのも、もしかしてと思わせる原因になっただろうかと陽菜は考え、さすがフォローした方がと思うと恵梨香が口を開いた。
「浅黒さんには良くして貰ったので、出来れば争いを避けられればよかったのですけど。こうなったらどうしようもありませんね」
「引く気はないサラサラないってことね。私以外にも秋也を狙っている子は多いけど覚悟はできてる?」
「能力が異常に高い人だから、折込済みです。それに私は陽菜さんに申し訳ないと思っているだけで、別にこのことに気後れしているわけではありません」
口調は意気揚々としており、先ほどのことは嘘のようだ。
手強そうな子が来た。
陽菜はこの時初めて、恋敵として恵梨香を意識した。
思いが強い分、理事長からの干渉を避けるために秋也に近づいて来る子よりも、陽菜に対して肉薄する可能性が高い。
もしかしたら家庭教師で直近の交流を重ねている分、陽菜よりも優勢と言えるかもしれない。
「あなた強いわね」
「浅黒さんに言われるとそんな気がしませんけど」
「何か失礼なことを言われた気がするけども不問にするわ。これからよろしくね、恵梨香」
お互いの関係は対等だと認識した陽菜は恵梨香の名前を初めて呼び捨てで呼んだ。
彼女が呼び捨てで呼んでいる生徒の数は片手で数えられる程しかないことを考えられば、とても珍しいことだった。
「よろしくお願いします、陽菜」
この国の頂点にいると言っても過言ではない人間に呼び捨てにされることに恐れ多いと若干気後れしながらも、光栄に思った恵梨香は同じように陽菜を呼び捨てにした。
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