幼なじみの彼女に裏切られ、親友と付き合っていたことを知ってしまったので、親友の婚約者であり幼なじみの天敵の悪役令嬢と組みたいと思います

竜頭蛇

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コラボ配信①

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 昨日は家庭教師の仕事をして、恵那のコラボ相手を探して終わり、今日は本来は予定は入っていなかったが、恵那の口づての依頼と俺自身、何もやることがない時間があると苦痛を感じるタイプの人間なので、恵那のところで追加のバイトをしにきている。
 今はコラボ相手に話を通して、1時間後に配信をすることに決まったので、その間に恵那から配信において大事なことについて聞いている。

「とりあえず俺は初めてだし、何か配信において気をつけることてあるかな」

「うん、そうね。まずは今日用意したアバターはモチーフが犬だから語尾にワンってつけるってことくらいかな。基本秋也マナーとかなってるから、コラボ相手とかリスナーとか揉めることはなさそうだし」

 語尾にワンか。
 若干抵抗ないこともないが、Vtuberではキャラ付けや差別化のためにオリジナリティのある語尾を付けている人が多いし、つけたほうが自然だろう。
 今回の相手もオリジナルの語尾を持っている人で、恵那のアバターもにゃんという語尾を持っているし、今回の場合はなおさらだ。

「とりあえずは語尾以外はそのままで良いって感じね。コラボ相手の御殿崎マロさんは個人勢だけど、人当たりいい人だし、そこまで心配をする必要もないか」

 コラボ相手は動画を共に視聴した恵那からもこの人ならばと言われるくらいには人当たりがよく、ノリも恵那が苦手とする典型的なウェーイ系の陽キャではなく、どちらかというとお淑やかな清楚系と言われる人だ。
 流石に全ての動画を視聴できたわけではなく、コラボの時の様子が知りたいので、コラボ動画のみだったが、特に悪ノリだったり、過度なイジリをするようなところは見られなかったし、恵那本人の直感通り、相性も悪くないだろう。


 ーーー

 機材の調整も済ませたので、あとは配信を予約した時間まで御殿崎マロさんを待つだけだ。
 初見の人とは久しぶりにコラボ配信をするとのことのなので、緊張しているかと思い、恵那のほうを見るが、存外のこと緊張しておらず、外見上普段と変わらない。
 もしかしたら配信になるとスイッチが入るタイプなのかもしれない。

『入りますのでBGMお願いします』

 SNSに御殿崎さんからのメッセージが来て、いよいよ配信開始の段になった。
 あらかじめ流すように言われているBGMを流し、彼女が出てくるために必要なお膳立てをする。

「御殿崎マロでおじゃる。皆のもの面をあげい!」

「「ははあー!!」

 低音の和楽器のBGMが厳かな雰囲気を作る中、不釣り合いに甲高い声が響き、俺と恵那が御殿崎さんの配信で決まっているお約束をする。
 恵那のチャンネルでやっているが、御殿崎さんのところからもリスナーが来ているようで、コメント欄にも大量に『ははあー!!』というメッセージが正座をした絵文字と共に連投される。

「そこもとのものら名を何と申す」

「月木ニャンにゃん! よろしくにゃん!」

「晴川ワンだわん! 今日はよろしくお願いしますんだわん!」

 御殿崎さんが気を使って、こちらに自己紹介を振ってきたので、チャンネルの主である恵那、俺という順で略式の自己紹介を行なっていく。

「おじゃあ!? お主ら、声が全く同じでおじゃる!! どういうことでおじゃる!?」

 御殿崎さんは俺の声に驚いたようで、声を上げ、コメント欄も『声同じで草』、『後輩の新人(月木ニャン)』、『¥1,0000 Vtuber初ガワ2体同時召喚おめでとうございます』と言った困惑やら俺の中身が恵那であるか疑う声が上がる。
 俺の狙い通りである。
 このアバターは最終的には処分するのと、恵那が俺がやってくれるしいいやと思わないようにしてもらうことを考えて、女声を出すスキルを身につけた後に恵那の声になるように改良を加えていた。
 こうすればアバターが消えた後にも本体はいるからまだと言った感じで、あるものが消えてもの悲しくなるリスナーさんの心の負担を軽減できるし、恵那もリスナーの反応を見て、自分自身の疑いのある配信者のコラボを続けていてはいつまでも経っても男好きの印象は払拭できないとやがて気づくはずだ。
 恵那には申し訳ないが、また本体が男のアバターと組んでいることがバレれれば、前回の倍以上に激しく炎上し、恵那は配信をすることができなくなる上、酷く精神的に追い詰められることわかりきっている都合上、一番いい方法がこうする以外浮かばなかった。

「違うんだわん! 同じじゃないんだわん! もっとよく聞くんだわん!」

「そ、そうにゃん! ニャンのほうが透き通った声をしてるにゃん! あ、あー。 ほら聞くにゃん! このプリプリボイスを!」

 俺が表面上だけ誤魔化すと、恵那も発声を実演して違う声であると証明しだした。
 配信者でおおよそ自分の声をよく聞いている恵那自身からも突っ込みが入るかと思ったが、意外にも本人から突っ込みは入らなかった。
 見た感じ本人には本当に違う声に聞こえているようなので、おおよそ自分の耳で聞こえる自分の声と第三者に聞こえる自分の声が一致してないのではないだろうか。
 配信者といえども自分の配信を見直さないという人も一定数いるので、恵那もそのパターンかもしれない。
 あるいは自分の声が正確に聞こえすぎて、俺が声を真似ている違和感に恵那本人が気づいてるパターンもあるが。

「ボーとしてないでワンも弁解するんだにゃん! このままではにゃんが架空の友達を紹介して見栄を張ってる寂しいやつになるにゃん!」

「大変なんだわん! このままではリスナーの先輩への認識が歪んでしまうわん!」

 恵那に促され、弁明を入れるが、コメント欄には『解釈一致』、『にゃんたそ、友達いないもんね……』、『¥50,000 自分自身とコラボすれば炎上しないことを悟って偉い』と言ったものが流れた。
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