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夏
しおりを挟む夏。
転校生が来て、一波乱あるかと思ったが、学校にいる期間はなにもなく、七月初め、早めの終業式を行うことになった。
今日は半ドンでいいので気分は楽ではあるが、前のゴールデンウィークでは休みの初日にはトラブルに見舞われたので安心はできない。
転校生もこちらに向けてあまり絡んでこないので、これからわざわざこっちにちょっかいをかけてくる可能性も少ないはずだが。
麻黒さんが一目見た時に、拒絶反応を見せていたことが気になる。
いつも相手を見極めてからとる態度を決めている彼女だけに、それをする余裕のないほどの何かを感じたようにしか思えない。
「秋也、考えごと?」
「いや、夏休みどう過ごそうかなと思って」
わざわざ正直に話して、よく思っていない相手について言うのも気が引けたので、夏休みのことを引き合いに出して誤魔化す。
麻黒さんは考える顔になると、「確かにね」と言って呟いた。
「今のところの目ぼしい予定といえば、お祭りくらいだものね。2ヶ月近くあるのに流石にそれだけじゃ味気ないし」
「シンガポールに飛んでいてリゾート地は暫くはいい感じだけど、軽くは何かしたいよね」
「映画とかどうかしら。今シーズンなのか、一気にいろんな映画が公開されてるし」
「映画か。確かにいいね。夏の映画館の雰囲気って好きだし」
「へえ、映画館って、季節によって雰囲気が変わるのね」
ああ、麻黒さん多分映画館とか行ったことがないのか。
あんな暗い場所で密室なんて、狙っていくれって言ってるようなものだし、流石にお金持ちの令嬢を入れるわけにもいかないか。
プライベートシアターのようなもので見るのが、お金持ちの普通なのかな。
「変わるね。冬は人も落ち着いて、放映されるものも感動ものが多いからなんだかしんみりした感じがするけど、夏は人がいっぱいいるし、B級映画とかアクション映画が多いからなんだかワクワクした感じがするよ」
「映画はウチで見るものだから、そういうものを感じるものではなかったし。映画館で見るのは新鮮そうね」
「じゃあ決まりだね。いつ頃くらいに行こうか?」
「私は来週から少し予定が詰まってる程度でそれ以外ならいつでもOKだけど」
「俺も来週からはちょっと予定が混み合ってるけど、今週は恵梨香は生徒会活動が忙しいし、恵那は新作ゲーム、精華も親子会議とかいうことで空いてるから、今週中なら都合がつきやすいね」
「そうね。明日くらいでいいかしら」
「明日ね。確かに明日なら映画も自由に選べるから、そうしよう」
映画館は適当に入ると待ち時間が長かったり、自分の好みの映画がその時間にやってなかったりと楽しさが半減しちゃうし、初めて行くものはそれでは流石に可哀想だ。
明日見るものについては万人受けするものか、劇場映えするものを予約して見にいくことにしよう。
ーーー
「ふう、最近頑張るすぎなくらい頑張ってるし、映画館にでも行こうかしら」
終業式後、夏夢は秋也たちが映画館に行こうとしていることなどついぞ知らずに明日の予定を決めていた。
彼女の中では秋也たちはイベントのタイミングでしか行動を起こすものであり、作中にかけらも登場していない駅前の映画館などには絶対に出てくるわけがないと高を括っていた。
「これでいいか。10億越えとかでハズレなさそうだし」
スマホで映画の予約を進めて、座席を選ぶ。
公開して結構経つが座席がそれなりに埋まっていて、いいところを選ぼうと思うとどうしても隣りに人がいる位置取りになったが、映画中に隣に人が居ようがあまり気になるたちではなかったので夏夢はその席で即決する。
奇しくも夏夢が予約した映画の席の隣は秋也が予約した席の隣であった。
「ソロ映画なんて前世で仕事帰りに観てた時、以来だな」
夏夢は自らの行動が波瀾を呼ぶことになっていることに気づくこともなく、能天気なことを言いながら、前世のことについて回顧する。
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