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悪役令嬢の奸計
しおりを挟む秋也が飲み物を買いに行ったことで、部屋には陽菜と精華だけが残された。
秋也は万能なため、おおよそ襲撃されたとしても問題ないと陽菜は確信している。
秋也に陽菜やボディガードたちがついているのは、陽菜の父ーー郷士郎の秋也にできるだけ恩を売って自分から逃げられない様にしたいという打算と、陽菜ができるだけ秋也の近くに居たいという願望からだ。
それゆえに陽菜の意識は自然と目の前にいる精華に向けられる。
「体調が悪そうに見えるのだけど大丈夫?」
「大丈夫です」
陽菜が尋ねたのに対して青い顔をして、答える。
誰が見ても体調が悪いのは一目瞭然だった。
秋也から失恋の傷心からこうまで追い込まれていることはあらかじめ聞いているので、陽菜にはこれで放っておくにはあまりにも薄情な気がした。
「顔青いわよ」
「っ」
顔色について陽菜が指摘すると、精華は驚いた顔をする。
表情で隠せていると思っていただけに衝撃は大きかった。
「何があったか、聞かせてもらえるかしら」
「でも話しても」
「悩みっていうのは話すだけでも楽になるものよ。騙されたと思って話してみて」
精華は口ごもったが、陽菜が真摯な態度で促してきたことで決心がついた。
「実はーー」
ーーー
精華の独白はもとより秋也から聞いている話をなぞるようなもので事実確認のようなものだったが、だんだんと血色を取り戻していく様子に満足していた。
単純な話ではあるが、婚約者の寄るべのなくなった精華の暴走の様子を聞いた陽菜は、寄るべがないなら増やせばいいという推測を立ててそれを実行したのだ。
今の反応をみてそれが当たっていると彼女は確信した。
「楽になった?」
「ええ、だいぶ」
「良かったわ。私も恵梨香も恵那も頼ってくれていいのよ」
「でもみんな自分の苦しみで手一杯だし、私たちは同じ被害にあったていうだけですから」
「私の言い方が悪かったわね。手一杯で繋がりが深くないからこそ、お互いに傷を癒すために利用しあわなければいけないってことよ」
「利用ですか……」
「聞こえは悪いけど裏切られた直後で信じるのが難しいならそこから始めるしかないわ。打算の関係なら最悪の想像をしても最初から裏切ってもしょうがないってどこかで思えるから」
「確かにそうですけど、なんだか自分が相手を裏切っているようで」
「精華は優しいのね」
相手を裏切るのが嫌だという精華の言葉から自分は一切の非を負いたくないという彼女の本心が見えたが、陽菜はオブラートに包んで返す。
精華に対する要求を一段階を落とすことにした。
「練習としてまず私に対してその関係を意識して接してくれる。これは私のお願いだと思って」
陽菜は目を見つつ、顔を近づけてそう精華に提案する。
特に意識してではないが、昔からそうすると大概の人間は陽菜の言うことを飲み込んだので、無意識下でそうしていた。
精華も例外ではなく、陽菜の整った容姿から滲み出る覇王の風格のようなものに飲まれ、気づいたら首を縦に振り、それを承諾していた。
「良かった」
陽菜はこれで秋也に対して依存する目を潰す足掛かりができ、精華と中を深め、花園組が管理する祭りに混ざるだろう不埒者を追い出す算段を作れたことに一息つく。
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