63 / 64
なしくずしの同棲
しおりを挟むなぜか家が全焼した。
ピンク色の髪を見たので、犯人は転校生ーー飴桃夏夢だろう。
動機が謎だが、とんでもないことをしてくれた。
「秋也、おはよう」
おかげで我々田中家は、麻黒さんの豪邸に匿われることになった。
最新セキュリティやプロのボディガードが配置されているため、安全面において死角はないので安心だが、幾度目にかならない迷惑を麻黒さんに申し訳ない。
「おはよう、陽菜」
「昨日は災難だったわね。あの女のことは探させてはいるのだけど、申し訳ないのだけど、まるで足取りがつかめないわ。制限がかかっているはずだから、限定されているはずなんだけど」
「そんなことまで悪いね。あの子は昔から天才だから、感覚で全部避けれているのかも」
「邪悪な何かを感じたけど、あなたにそうまで言わしめる能力もあるなんて、困ったものね」
全くだ。
あの子がその気になれば、警察もプロの追跡も逃れられてもなんら不思議がない気がする。
俺たちのような普通の人間とは一線を画しているのだ。
才能という点においては、神と言っても信じられるレベルと言っても過言ではない。
こちらから転校生に介入するのはあちら側から姿を晒さない限りは難しそうだ。
「転校生が出てくるまではどうにもならないか」
「夏祭りで仕掛けられても面白くないから。それまでに姿を見せてほしいけど。もう期間がないから無理そうね」
麻黒さんは夏祭りが大好きなので、中止に追い込むような事態になれば、由々しき事態だろう。
最善策としては夏祭りの最中に現れたとしても、夏祭りが中止にならないように手を打つことだろうか。
精華の家庭教師がてら、夏祭りの準備の手伝いをさせてもらって、あらかじめ介入できる目を把握しておいてもいいかもしれない。
「麻黒さん、今から精華の家庭教師に行ってくるけど、このまま行っても大丈夫かな」
「まだ安全だっていう確証が持ってないから悪いけれど、こっちで送迎させてもらうわ。あと私もボディガードと一緒にあなたと行動を共にすることにするわ」
「え? 麻黒さん、仕事は大丈夫なの?」
「大丈夫よ。一通りは終わったし、お父様が秋也のところのように危険だからということで、新しいのは受けてないから」
「そうなんだ」
一瞬、現在精華もかなりあられのない姿を晒しているので、断った方がいいかと考えたが、麻黒さんは醜態を晒しても軽蔑したりしないことを思い出して、考え直した。
俺が冬夜と摩耶に裏切られた直後であっても、哀れみだったり、見下したりせずに接してくれたのだ。
今回の精華の場合も言わずもがなだろう。
「じゃあ、一緒に行こうか」
ーーー
いつもの精華の家に行くと、常とは違い、精華の偽のお母さんが出迎える形ではなく、精華が出迎える形で出てきた。
「あ、麻黒さん?」
なぜか裸エプロンだったため、麻黒さんがあまりの衝撃にフリーズし、精華は正気に戻った。
「すいません! 着替えてきます!」
嵐のような勢いで家の中に戻っていくと、ホットパンツにシャツという部屋着スタイルで再び姿を現した。
「私としたことが、修行が足りないわね……」
ショックから回復すると麻黒さんは反省のような言葉を口走る。
これに慣れたら逆に危ういので、そのままでいいのだが。
口に出して言うと精華に追い討ちを掛けそうなので、内心でツッコミを入れつつ、精華の家の中に足を運んでいく。
「体調は大丈夫?」
「ええ、昨日ぐっすり寝れたせいか、体調は万全ですよ」
精華は机上にそう言うが、玄関に出てきた時に正気でなかった上に、顔色も若干悪い。
「あ、ちょっと待っててくださいね。ジュース買ってきます」
冷蔵庫の中に客人のようの飲み物がないのを思い出したのか、精華は部屋まで案内するとそう申し出た。
「まだ本調子じゃないでしょ。俺が代わりに買ってくるよ」
流石に体調も悪いというのに、何かと物騒な街に1人で出て行かせるのも憚られたので、代わりに俺が行くことにした。
ここら辺は歩き慣れているし、近くのスーパーも知ってるのでそこまで手間ではない。
「じゃあ、すぐ行ってくるから」
そう2人に言い置くと、外に出た。
0
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる