復讐の慰術師

紅蓮の焔

文字の大きさ
300 / 315
17章 もう、後戻りは出来ないから……

294話 廃屋に佇む四つの目

しおりを挟む
歩いて行くサラの後ろをレインとレンゼは会話しながら歩いて行く
「俺、奴らは軍部と関係してると思ってるんですよ」
「……なら、この国の、今この場に居る軍隊との交戦になりそうだが……レンゼくんには、勝算があるのかね?」
「いえ、全く」
すぐに首を横に振り否定するが、それを終えると同時にすっと前を歩く白い髪を見詰めた
「でも、彼女にはあるみたいです。サラさんには……ね」
「そうか……だとすれば、彼女にも聞いておかないと──」
「いえいえ!」
ブンブン首を横に振ってレインの腕を引っ張り小声で話す
「彼女は奴らの仲間かもしれないんです。奴らを倒すと言っていましたが余り信用出来ません。なので、彼女に聞くのは愚策と思います」
顔を下に向ける。レンゼを見下ろす。レンゼは一瞬だけムッと睨みかけたが軽く首を横に振った
「……信用出来ない。そう言いたいのかね?」
レンゼがコクっと頷くとレインは顔を上げて前を見る。白髪の彼女は気付いた様子も無くただただ前を見据え、歩いていた
「どうしたもんかなぁ……」
「どうか、したのかね?」
「あっ……いえ、なんでも無いです」
そう言うとサラが立ち止まり上体をレンゼ達に向けた。そして左手を隣に建っている建物に向け、人差し指を立てる
「着きました」
「……ここって、何処なんですか?」
レンゼ達の前には飲食店のような建物が建っている。小綺麗に見せているが所々欠けていてよく見ればボロ屋だ
「古くから……と言っても人の尺度ですが。まあ、付き合いの長い友人です」
それをレインに伝えている間にコンコンッと木製の片開きのドアを二回ノックする。するとはぁいぃ~。と少し独特な、優しげの口調が建物の中から聞こえ、サラが一歩下がるとドアが開く
「わぁあぁ~。お客さんん~? 連れて来てくれたのかなぁ~?」
「違います。すみませんがお母様は居ますか?」
レンゼはそれをドアから出て来た女性に伝え、女性は何か思い出したように手を叩く
「これはぁあぁ~、ごめんなさいねぇ~。聞こえなかったからぁ~」
少し奥へ行き振り向き手招きする
「どうぞぉおぉ~。コッチにいますよぉ~」
レンゼ達は一瞬だけ顔を合わせて中に入った。カウンター式のようで長いテーブル、カウンターテーブルの前に回転椅子? がズラリと並んでいた
「コッチだよぉおぉ~?」
カウンターの右隣の壁にドアが取り付けられていた。そこへ女は手招きしてから入って行った
「早く行きましょう」
すぐにその後を追って小走りで進んで行く。ドアの先には小さな丸いテーブル。それに立て掛けられた杖が一本。椅子が一つ。それには白髪しらがを生やした老婆が老眼鏡を掛けて本を読んでいた。テーブルにはティーカップが一つ、小さなスプーンのようなさじが入れられ、天井には電球がぶら下がっている
「お婆ちゃんん~──」
そう言いながら老婆の肩をトントンっと叩く
「お婆ちゃんにお客さんが来てるよぉ~」
「おやおや、これはこれは……家の孫がお世話になっております」
本を畳んで杖を取ってそれを支えに立ち上がるとレイン、レンゼ、そしてサラと見ていきサラの所で目を留める
「おや? もしかして……サラおばさん、ですか?」
「「「ッ!?」」」
レンゼ、レイン、孫娘は驚いたような顔で一斉にサラの顔を見詰める。それに気付いた様子も無くサラは返事を返した。はい。お久し振りです。と
「サ、サラさん? おばさんってどういう──」
「どういうもこういうも……昔、近所で遊んであげていた子供です」
「……あっ、そういう事ですか。そうですか」
苦笑して答えると溜め息を吐いた
「それでは本題に入りますが……例の件はどうなっていますか?」
それを二人に伝えると老婆は一瞬だけ驚いたような顔をし、すぐに戻してええ。と頷いた
「大丈夫ですよ。ちゃんとあの場所に居るそうです。しかし、サラおばさんは……いいえ、何も言いません。ただ、お願いします。息子たちは必ず、必ず助けて下さい。お願い、します」
老婆が深く頭を下ろすとサラは微笑んで分かりました。と言う。それを伝えると老婆はホッとしたように溜め息を吐いて椅子に座り込んだ
「息子たちは昔よく遊んでもらっていたあの公園に居ます。サラおばさん。お願いします」
今度は無言で老婆に背を向けて外へ歩き出した。老婆はレンゼに目を向けるがレンゼは首を小さく振って頭を下げてからレインの背中を押して外へ歩いて行った
「レンゼくん。頑張りましょう。勝ちましょう。絶対に……」
少し前を歩いているサラの後ろ姿を見てコクっと頷き、誰にも聞こえないような音量で呟く
「勝つ。あの二人には……絶対に……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。 従属せよ。 これを拒否すれば、戦争である。 追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。 そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るため。 サナリア王が下した決断は。 第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。 王が、帝国の人質として選んだのである。 しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。 伝説の英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...