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18章 その手の温もりは何処(いずこ)へ
303話 忘れたことも、思い出も
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「……こりゃあ、『斬られた』と言うより『千切られた』の方がしっくりくるな」
「一体誰がこんな……やっぱり、先程の奴でしょうか?」
「分からんが……その可能性は十二分にある」
二人が死体検証をしている間に、残りの人員は人々を帰宅させて、この大通りを封鎖していた
「一旦、持ち帰りましょう」
「おい、お前は誰だ。答えなければその首を即刻叩き落とす……!」
「おいおい、そりゃねえぜ? 俺だって結構苦労したんだからな? 少し待ってりゃ俺の事は分かるから、それまで待ってな」
少しだけ、経った
闇を抜けた先は広い、広大な草原だった
花は夜風に揺れ、向こう、隣には駅が見える。駅の灯りが今居る場所が草原だと判断した一つの材料であり、もう一つは音だ
「久し振りだな。……レンゼ」
そう言いながら男はレンゼを地面に降ろし、笑って見せた
「誰だ、お前……」
「ありゃ、名乗ってなかったかぁ?」
グイッと親指を立てて自分に向けながら
「俺は通りすがりの情報屋、ジャックと呼ばれている」
ジャック。彼は少し前、この中央街でスラムの子供達に毛布などを配っていた男だ
「どうした? まさか忘れた。とでも言いたいのかよ。会って一ヶ月も経ってないぞ?」
「……それで、なんで俺を……? 俺には、やらなきゃならないことが──」
「知ってる。行くんだろ? アソコに」
と、優しく微笑んだ。その笑顔に驚いたように瞳を大きく開けて──俯いた
俯いたのだ。辛そうに、悲しそうに、目を逸らした
「何があったのかは知らねえ。けどな、一人でアソコに乗り込むのは無茶が過ぎるってもんだぜ? せめて一軍隊くらいの人数が居ないと……」
「それでも、軍は、ヤツに操られてるだけなんだ。良い奴が沢山居るのを、俺は知っている。だからこそ、ヤツだけは葬らないといけない。だからこそ、俺は行く。一人になっても」
止めてくれるなよ。そう言い残し、レンゼは遠くの方に微かに見える本部を目指して走り出した
「あ、おい!」
手を伸ばした時にはもう、レンゼの姿はジャックの前には無かった
ただ、紅い跡が草原の一箇所だけに存在していた。まるで、先程まで誰かがそこに居たかのような跡が
目の前に建つ重厚な造りの建造物。侵入者を徹底的に拒むようなその見た目に圧巻されるのだろう
が、それも杞憂。ではないが、レンゼは正面から乗り込んで行った
やけに静かだ。中に入ってもレンゼの足音しか鳴らない。更に言えば暗い。真っ暗だ。何故か月明かりが射し込む事もなく、真っ暗な空間が続いている
その時、何かが軋む音が空間に木霊した。無音の中でのそれは一際目立って聴こえる
断続的に聴こえるソレへ向かって走って行く。駆けてゆく。カツカツと鳴り響く
カツカツ……カツカツ……カツカツカツ……
そしてそれの前に辿り着いた時、音が止んだ
突如、音が止んだと言うことは──
ヤツが、居る
そう確信出来る材料の一つだ
電気が付き、突然の光の乱入により目が死ぬ。その隙に──
抱き締められたのだ
抱き締めるという行為は相手に好感を持っていないと中々出来ないものであり、好感を持っていたとしても中々出来るものでもない。それをやってのけるということは相応の好感を抱いているということだ
が、すぐにその鳩尾を殴り付けて飛び退る
目を細め、涙を滲ませながら前を見る
レンゼの前には女が立っていた。腹を押さえてレンゼを見詰めている。情愛の目で
「痛ァイ……」
「誰……だ?」
「私よ……わ、た、し……」
唇を舐めて女がゆっくりとレンゼへと近付いて行く
「……それで、お前はなんでここに居る? どこかに行ってろ」
「だってぇ……アナタに会いたかったんだもんっ……!」
と、再び抱き着く。今度は殴らなかった。ただ、段々と目が虚ろになっていく。目が、死んでいく。徐々に、ゆっくり、死んでいく……
「一体誰がこんな……やっぱり、先程の奴でしょうか?」
「分からんが……その可能性は十二分にある」
二人が死体検証をしている間に、残りの人員は人々を帰宅させて、この大通りを封鎖していた
「一旦、持ち帰りましょう」
「おい、お前は誰だ。答えなければその首を即刻叩き落とす……!」
「おいおい、そりゃねえぜ? 俺だって結構苦労したんだからな? 少し待ってりゃ俺の事は分かるから、それまで待ってな」
少しだけ、経った
闇を抜けた先は広い、広大な草原だった
花は夜風に揺れ、向こう、隣には駅が見える。駅の灯りが今居る場所が草原だと判断した一つの材料であり、もう一つは音だ
「久し振りだな。……レンゼ」
そう言いながら男はレンゼを地面に降ろし、笑って見せた
「誰だ、お前……」
「ありゃ、名乗ってなかったかぁ?」
グイッと親指を立てて自分に向けながら
「俺は通りすがりの情報屋、ジャックと呼ばれている」
ジャック。彼は少し前、この中央街でスラムの子供達に毛布などを配っていた男だ
「どうした? まさか忘れた。とでも言いたいのかよ。会って一ヶ月も経ってないぞ?」
「……それで、なんで俺を……? 俺には、やらなきゃならないことが──」
「知ってる。行くんだろ? アソコに」
と、優しく微笑んだ。その笑顔に驚いたように瞳を大きく開けて──俯いた
俯いたのだ。辛そうに、悲しそうに、目を逸らした
「何があったのかは知らねえ。けどな、一人でアソコに乗り込むのは無茶が過ぎるってもんだぜ? せめて一軍隊くらいの人数が居ないと……」
「それでも、軍は、ヤツに操られてるだけなんだ。良い奴が沢山居るのを、俺は知っている。だからこそ、ヤツだけは葬らないといけない。だからこそ、俺は行く。一人になっても」
止めてくれるなよ。そう言い残し、レンゼは遠くの方に微かに見える本部を目指して走り出した
「あ、おい!」
手を伸ばした時にはもう、レンゼの姿はジャックの前には無かった
ただ、紅い跡が草原の一箇所だけに存在していた。まるで、先程まで誰かがそこに居たかのような跡が
目の前に建つ重厚な造りの建造物。侵入者を徹底的に拒むようなその見た目に圧巻されるのだろう
が、それも杞憂。ではないが、レンゼは正面から乗り込んで行った
やけに静かだ。中に入ってもレンゼの足音しか鳴らない。更に言えば暗い。真っ暗だ。何故か月明かりが射し込む事もなく、真っ暗な空間が続いている
その時、何かが軋む音が空間に木霊した。無音の中でのそれは一際目立って聴こえる
断続的に聴こえるソレへ向かって走って行く。駆けてゆく。カツカツと鳴り響く
カツカツ……カツカツ……カツカツカツ……
そしてそれの前に辿り着いた時、音が止んだ
突如、音が止んだと言うことは──
ヤツが、居る
そう確信出来る材料の一つだ
電気が付き、突然の光の乱入により目が死ぬ。その隙に──
抱き締められたのだ
抱き締めるという行為は相手に好感を持っていないと中々出来ないものであり、好感を持っていたとしても中々出来るものでもない。それをやってのけるということは相応の好感を抱いているということだ
が、すぐにその鳩尾を殴り付けて飛び退る
目を細め、涙を滲ませながら前を見る
レンゼの前には女が立っていた。腹を押さえてレンゼを見詰めている。情愛の目で
「痛ァイ……」
「誰……だ?」
「私よ……わ、た、し……」
唇を舐めて女がゆっくりとレンゼへと近付いて行く
「……それで、お前はなんでここに居る? どこかに行ってろ」
「だってぇ……アナタに会いたかったんだもんっ……!」
と、再び抱き着く。今度は殴らなかった。ただ、段々と目が虚ろになっていく。目が、死んでいく。徐々に、ゆっくり、死んでいく……
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