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二章 無意味の象徴
86話 『錯誤』
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──ただ一言だけ突き返した
「違います」
レイは、真実をはっきりと口にした。右腕の違和感と断続的に続く激痛に堪え忍んで、その右目はしっかと彼女を捉えている
そして呆然としているカエデに向けてもう一度、はっきりと、口に出してその言葉を突きつける
「──違います」
「嘘は、イケませんよ……?」
すぐに調子を取り戻したかのようなカエデが、今までとは違う、どこかに陰を落としてそう微笑むと同時にレイの意識は腹部へと瞬時に移動し──、
「あが、あぁ、ぁぁッ、ああ、ぁあ──ッ!?」
横腹にそれは深く突き刺さっていた。短剣。くだものナイフ、と形容した方が良いかもしれない。ともかく、そのナイフがカエデの着ている服の袖からするりと滑り落ちてその切先をレイの身体へと滑り込ませていったのだ
「さて、私がアナタを『勇者』だと断言している理由を教えましょう。まず一つ目は、その魔力量。ついさっき折った骨がもう再生し始めてるなんて、どれだけ高いんですか? それとも、それだけたくさん折れているのですか? それにしても速すぎる。これだけ速いとゾッとしますよ。何せ、私達の壊れた身体を修復する魔力は体の中を通れば通るほどその通り道を広く頑健な物にし、怪我を修復する力を強める代わりに神経に全身に強く結びつく。つまり、怪我をすればするほど治りやすく、怪我をすればするほど激痛が身体を駆け巡る──と言うことですよ。分かりますか? アナタはそれが尋常じゃないほど高い。この治癒能力、及び魔力量が一つ目の理由です。二つ目は──」
「そのまえに、おねえちゃんを──かえして……っ!」
カエデが怒りを顕にして振り返ると同時に、涙を目に溜めたナツメが呼吸を荒くして勢い良く手を振り上げていた
──それを合図にするかのようにカエデが動かなくなった。振り返る所で静止しているのだ。レイに馬乗りし、右腕も押さえ込んだまま。二つ目は、の後の台詞を続ける様子もなく、ただその場で静止している
その場へ、とぼとぼと歩いて行き、カエデの前になんとか辿り着いた
「おねえちゃんを、かえして……!」
その手を横に振ると静止しているままのカエデの頬が叩かれるような乾いた高い音が野外の空に鳴り響き、首がその方向に少し動いた
「ぅぐ……ッ!?」
カエデは突然の事に体勢を崩しながら苦虫を噛み潰し、現在起こった出来事の把握へと注意を削がれてしまうが、
「もう、誰も、傷付けさせません……!」
これを機とばかりにさくらが車椅子に手をかけ、彼女が気合いを込めた言葉と同時に震える手で体を持ち上げてレイ達の方に体を斜めに向けると、カエデを睨みつけた
それと同時に暴風が、無数の不可視の刃が、彼女の全身からたちまち赤い戦禍を巻き上がらせて血飛沫を上げていく。蹂躙されている光景を至近距離で目の当たりにし、ナツメの顔に血がぴちゃちゃ、と幾度かかかった
「ぅ、ぅゥぐ──ッツっッ!」
そしてレイの上から吹っ飛んだ所で何かに支えられるように急停止し、空中で後ろ手で組み縛られるようにしてカエデが拘束された
「おねえちゃん、どこにいるの……?」
唇を噛んで今にも溢れそうなその涙をなんとか堪え、しかしそれではまだ我慢できそうになく、その上で右腕に爪を立てて、どうにかこうにか堪え続けている。もし、もし我慢ができなくなれば、色々なものが崩壊して、何もできなくなる
「はは、はァ……? さくらさん? 今すグッ──!」
喋っている最中のカエデの唇を風刃が二本、下から上へなぞるようにぞプッと切り裂き、浮いた唇は血を垂らしながらまるでのれんのように付け根からぷらぷらとぶら下げられた
「ゥぐ──っッツ……!」
「もう、操る暇なんて、与えませんから……」
──その間、レイはすぐ目の前で起こった出来事の顛末を茫然と見守っていた。ただただ口を力なく開けて、虚空を見据えるかの如き右目で。しかし、自分の手の上に血玉がぽつぽつと零れ、はっと動きを見せた
「な、なに、が……?」
「カエデさんの、魔力は、『相手を操る』こと、です。私達はこれを、『王の宣告』と、そう、呼んでいます」
カエデがのれんをぷらぷらさせて首を左右に振っている間に、さくらはレイに説明を行う。しかしレイは──、
「魔力って、なんですか……?」
その問にきょとんと目を丸くしてから少し経って、微笑んで、それから、ゆっくりと車椅子を支えにしてなんとか立ち上がって、車椅子にドッと座り込み、レイの方に顔を向けた
「魔力とは、誰しもが持っている力のことです。でも、それを扱うには魔力の感知が必要になります。それができた人達をこうして集めて──」
さくらは、まだうつ伏せたままのレイから目を逸らし、何らかの躊躇いを覚えていた。それを少しずつ、深く吸った酸素で緩めて深く吐き出した息に緩めた躊躇いをそっと乗せて置いた
「私達──いいえ。私は、家族を、救い出すための手助けをしてほしかったんです……」
「……ぇっ?」
「中には、この力を過激な事に使おうとする人達もたしかにいます。……ですが、今回の件とは全くの無関係なんです」
「それじゃあ……今までの、事は……『無駄』だった……?」
「無駄では、ありません。皆さんのご協力のお陰で、こうして、家族の魂を、取り戻す事が、できました」
そう言って、無言で立ち尽くしているミノリの手をギュッと握り締めて安堵を面持ちにさらけ出して、なので、と言葉を続けようとした。──が、それはレイによって遮られる
「なら、僕が……やって来たのは、僕にとって、『無意味』だった……ん、ですか……?」
「っ……! なら、おかあさんたちは、そのせいで……!」
レイの言葉に反応したのは右手から血玉を降らせるナツメだった
「ま、待って下さい! 落ち着きましょう……!」
「うァァァァ……! なんで、なんで……! おかあさんといっしょに、ずっと、いたかった! おまえが、おかあさんをころしたんだ! おまえのせーで! おかあさんはッッッ!」
涙が溢れ出す。──慟哭。そして、頭を掻き回した拍子に血が飛び散り、ガリッと引っ掻いた頭から血を流して、右眼を血で紅く染め上げる
「殺してやる……! おかあさんたちに、謝らせてやる……っ!」
──そして、今再び右腕を振り上げたのだった
「違います」
レイは、真実をはっきりと口にした。右腕の違和感と断続的に続く激痛に堪え忍んで、その右目はしっかと彼女を捉えている
そして呆然としているカエデに向けてもう一度、はっきりと、口に出してその言葉を突きつける
「──違います」
「嘘は、イケませんよ……?」
すぐに調子を取り戻したかのようなカエデが、今までとは違う、どこかに陰を落としてそう微笑むと同時にレイの意識は腹部へと瞬時に移動し──、
「あが、あぁ、ぁぁッ、ああ、ぁあ──ッ!?」
横腹にそれは深く突き刺さっていた。短剣。くだものナイフ、と形容した方が良いかもしれない。ともかく、そのナイフがカエデの着ている服の袖からするりと滑り落ちてその切先をレイの身体へと滑り込ませていったのだ
「さて、私がアナタを『勇者』だと断言している理由を教えましょう。まず一つ目は、その魔力量。ついさっき折った骨がもう再生し始めてるなんて、どれだけ高いんですか? それとも、それだけたくさん折れているのですか? それにしても速すぎる。これだけ速いとゾッとしますよ。何せ、私達の壊れた身体を修復する魔力は体の中を通れば通るほどその通り道を広く頑健な物にし、怪我を修復する力を強める代わりに神経に全身に強く結びつく。つまり、怪我をすればするほど治りやすく、怪我をすればするほど激痛が身体を駆け巡る──と言うことですよ。分かりますか? アナタはそれが尋常じゃないほど高い。この治癒能力、及び魔力量が一つ目の理由です。二つ目は──」
「そのまえに、おねえちゃんを──かえして……っ!」
カエデが怒りを顕にして振り返ると同時に、涙を目に溜めたナツメが呼吸を荒くして勢い良く手を振り上げていた
──それを合図にするかのようにカエデが動かなくなった。振り返る所で静止しているのだ。レイに馬乗りし、右腕も押さえ込んだまま。二つ目は、の後の台詞を続ける様子もなく、ただその場で静止している
その場へ、とぼとぼと歩いて行き、カエデの前になんとか辿り着いた
「おねえちゃんを、かえして……!」
その手を横に振ると静止しているままのカエデの頬が叩かれるような乾いた高い音が野外の空に鳴り響き、首がその方向に少し動いた
「ぅぐ……ッ!?」
カエデは突然の事に体勢を崩しながら苦虫を噛み潰し、現在起こった出来事の把握へと注意を削がれてしまうが、
「もう、誰も、傷付けさせません……!」
これを機とばかりにさくらが車椅子に手をかけ、彼女が気合いを込めた言葉と同時に震える手で体を持ち上げてレイ達の方に体を斜めに向けると、カエデを睨みつけた
それと同時に暴風が、無数の不可視の刃が、彼女の全身からたちまち赤い戦禍を巻き上がらせて血飛沫を上げていく。蹂躙されている光景を至近距離で目の当たりにし、ナツメの顔に血がぴちゃちゃ、と幾度かかかった
「ぅ、ぅゥぐ──ッツっッ!」
そしてレイの上から吹っ飛んだ所で何かに支えられるように急停止し、空中で後ろ手で組み縛られるようにしてカエデが拘束された
「おねえちゃん、どこにいるの……?」
唇を噛んで今にも溢れそうなその涙をなんとか堪え、しかしそれではまだ我慢できそうになく、その上で右腕に爪を立てて、どうにかこうにか堪え続けている。もし、もし我慢ができなくなれば、色々なものが崩壊して、何もできなくなる
「はは、はァ……? さくらさん? 今すグッ──!」
喋っている最中のカエデの唇を風刃が二本、下から上へなぞるようにぞプッと切り裂き、浮いた唇は血を垂らしながらまるでのれんのように付け根からぷらぷらとぶら下げられた
「ゥぐ──っッツ……!」
「もう、操る暇なんて、与えませんから……」
──その間、レイはすぐ目の前で起こった出来事の顛末を茫然と見守っていた。ただただ口を力なく開けて、虚空を見据えるかの如き右目で。しかし、自分の手の上に血玉がぽつぽつと零れ、はっと動きを見せた
「な、なに、が……?」
「カエデさんの、魔力は、『相手を操る』こと、です。私達はこれを、『王の宣告』と、そう、呼んでいます」
カエデがのれんをぷらぷらさせて首を左右に振っている間に、さくらはレイに説明を行う。しかしレイは──、
「魔力って、なんですか……?」
その問にきょとんと目を丸くしてから少し経って、微笑んで、それから、ゆっくりと車椅子を支えにしてなんとか立ち上がって、車椅子にドッと座り込み、レイの方に顔を向けた
「魔力とは、誰しもが持っている力のことです。でも、それを扱うには魔力の感知が必要になります。それができた人達をこうして集めて──」
さくらは、まだうつ伏せたままのレイから目を逸らし、何らかの躊躇いを覚えていた。それを少しずつ、深く吸った酸素で緩めて深く吐き出した息に緩めた躊躇いをそっと乗せて置いた
「私達──いいえ。私は、家族を、救い出すための手助けをしてほしかったんです……」
「……ぇっ?」
「中には、この力を過激な事に使おうとする人達もたしかにいます。……ですが、今回の件とは全くの無関係なんです」
「それじゃあ……今までの、事は……『無駄』だった……?」
「無駄では、ありません。皆さんのご協力のお陰で、こうして、家族の魂を、取り戻す事が、できました」
そう言って、無言で立ち尽くしているミノリの手をギュッと握り締めて安堵を面持ちにさらけ出して、なので、と言葉を続けようとした。──が、それはレイによって遮られる
「なら、僕が……やって来たのは、僕にとって、『無意味』だった……ん、ですか……?」
「っ……! なら、おかあさんたちは、そのせいで……!」
レイの言葉に反応したのは右手から血玉を降らせるナツメだった
「ま、待って下さい! 落ち着きましょう……!」
「うァァァァ……! なんで、なんで……! おかあさんといっしょに、ずっと、いたかった! おまえが、おかあさんをころしたんだ! おまえのせーで! おかあさんはッッッ!」
涙が溢れ出す。──慟哭。そして、頭を掻き回した拍子に血が飛び散り、ガリッと引っ掻いた頭から血を流して、右眼を血で紅く染め上げる
「殺してやる……! おかあさんたちに、謝らせてやる……っ!」
──そして、今再び右腕を振り上げたのだった
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