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二章 無意味の象徴
65話 『善戦』
しおりを挟む「善戦した方だと思うけど?」
「うっ……ぁぁあ……ッ!」
右耳を押さえ、唇を噛むミムラのすぐ目の前には稲継が立っている。「ハハ……なんなんですか……アナタ……。鬼畜、ですね……」口を引き攣らせて言葉を紡ぐミムラは眉をひそめて笑みを浮かべた
「もう良くね?」
「…………ハ?」
「いや、だってさ、あの女、戻って来ねーと思うけど? お前が耐える事無いんじゃね? 死ねよ。死んだら? そしたらオレはあんま疲れねーしお前も耐える事ない。それで良いんじゃねーの? なァ? オイ」
一瞬、呆然と目を見開いていた。笑みを歪ませて、顔を顰めて、そして「ハッ。……もしかして、体力、切れたんですか……? だから私を説得しようと……? 片腹、痛い……ですね……」蒼くした顔で微笑した
「降参する気無いのかよ……。正直な所、お前みたいなヤツどうでも良いんだよ。……とまあ、話し過ぎた。そろそろお前の事殺すわ。良いよな。うん。殺す」
「……それは、困りますね」
「アァ?」
「私、まだ色々と遣り残した事あるので……まだ、死ねません……」
「あっそ。知らね」
「ッ──!」息を呑んだ矢先──稲継が身を捩り、右側から飛んで来たソレを躱すと鼻から息を吐いた「増えるのかよ……! 雑魚がどれだけ集まった所でオレを殺す事なんか出来ねえんだから、諦めてろよボケが……!」
「……ミノリ、さん……でしたっけ?」
稲継を睨み付けたままこくっと頷いて拳を胸の前に持っていく「うわぁぁぁ……ほら、やっぱりつよそーじゃん……!」
「……えっと、イツキ、くん……?」
「そーだよ! その……ひとりでにげて、ごめんなさい……」
「あ、えっと……ううん。大丈夫ですよ。……それより、気をつけて下さい。あの稲継って人……使える人ですよ」
「……? 使える?」
「知りませんか……? 私達超人と呼ばれる者の中に、才能か何か知りませんが特殊な能力を持った人が居ると」
「あっ、ちょーのーりょくしゃみたいなもの?」
「強いて言えば、そうですね」
「そう……だったら良かったね。ミムラちゃん」白い歯を剥き出しにして「僕もミノリちゃんも、それだから!」大きく笑った
何を言われているのか、分からなかった。ただ、イツキの笑顔を見て、なんとかなるのか……。と淡い期待を寄せてしまう
「ちっ……! 厄介だなァ! オイ!」
「ミノリちゃんやっちゃえーッ!」
振り返って稲継と交戦している少女を見て、糸が切れたように目を閉じ、その場に倒れ込んだ
それでも戦いは止まる事は無く、激烈を極めていた。ミノリが地面を踏み込んで前方に跳躍し、一気に距離を詰めた所で稲継が見えない能力で抉ろうとした所、地面を蹴って高くジャンプ
「ハッ! アホか!」
「アホはきみだよ~」
「ハッアァ!?」
横から口を出された稲継はそちらを振り向きながらバク転してミノリを蹴り上げる。「終わりだ!」手を大きく横に、右から左へと振り翳す。するとグヮォッツ! と言うような音が鳴り、空中で前転していたミノリの服の背中の部分が千切られたように無くなっていた。手をついて四本足のように着地すると立ち上がる
ブラジャーは落ちてしまったが、今は気にしない。まだ袖は通っているから隠れている。恥ずかしくもなんともない。
「うわっ! サイテーだ! コーイチなみだよまったく!」
「さっきからゴチャゴチャゴチャゴチャ……るっせぇんだよ!」
「べーっだ!」舌を出し広げた掌の親指を耳に当てて指を前後に動かして更に挑発し続ける
だが、稲継にそれを辞めさせる方法が無い。矢継ぎ早にミノリが拳を入れ、蹴りを入れ、反撃の隙を与えない。それを避け、また能力を使おうと右手を振りかけた所で蹴られ殴られ止められる
「クッソ、クッソ!」
「やっちゃえー!」
拳を振り上げて応援し始めたイツキ──の肘と手首の真ん中辺りが可笑しな方向へ倒れてしまった
「どうだ……! これで、オレを認めるかよ! クソが!」
「ええ、えぇっ。十分ですよ。……この勝負、我らが持ちましょう」
稲継が話していた。イツキがハッとした時には、稲継が遠くの方に立っていて、ミノリと戦っていたのは黒い装束を着込んだ、まるで忍者のような人だった。忍者が逆手に短剣を握り締め、ミノリの拳──指に斬り付ける
「ッッッ──!」
「ミノリちゃん!」
「ミノリサン!?」
セイタがオロオロとしながらも、忍者を睨みつけて走り出した。「セイタくん!」走って行くセイタの腕を引っ張ろうとするがその時、自分の右腕を見て目を見開いた「──ぇ?」
折れている。……とは一言で言っても、普通じゃない。折れた所の皮が白く、出っ張っている。骨ではないが、異様だ「ッ──ったああああ……!!」右腕を押さえ、抱え込んでしゃがむ。その目には涙が滲んでいて頬が引き攣っていた
「ほ、ほんと……なんなのさ……!」
遠くでイツキ達を傍観している稲継を睨み付けて言う。まだ腕を抱えていて動いても動かなくても痛そうだ。返事は小さかった。だが、それでも聞こえてきた。誰も喋っていないからなのか、何かは分からないが、その場にいた全員に聞こえていた
「わりぃな。オレは……お前らと遊ぶよりもやるべき事があんだよ」と。その後、黒いコートを被った男と一緒に森の奥へと消えて行った
「おねーちゃん……! おねーちゃん……!」
泣きそうな声で──実際に泣いているが、そんな声で叫びそうなのをイツキは歯軋りしてガマンしている
一方、掌を切られたミノリは顔を顰めて忍者の懐へ走って詰め寄るも、忍者はすぐにバク転して離れて行く。その際にミノリの顎に蹴りを入れながら
「ダイジョーブデスカ!?」
微笑んで頷くと、ミノリは切られていない左手でセイタの頭を撫で下ろし、忍者をジッと見詰める。顎を擦り、手を出して来ない忍者を見詰める
ミノリは考えた。相手が来ない間に逃げるのも一つの手では無いか。だけど……ミムラさん、セイタくん、イツキがいる。自分だけ逃げる事など出来ない。かと言って、アレは消耗が激し過ぎる。使ってしまえば時間にも因るが大概は二日三日動けない。その間に強襲されれば皆死んでしまう。どうす──
「──ッ!」突然の事だった。ミノリがハッとした時には既に短剣が顎に迫っていた。忍者が懐に潜り込み、下から短剣を振り上げたのだ。胸が少し切られた。が、なんとか背後に倒れて避ける事が出来た
「ミノリサ──ンッ!?」
セイタは蹴り飛ばされ、近くの木の枝が横腹に突き刺さった。貫通している
「クソッ……クソッ……こんなのって……あんまりじゃないか……」
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