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二章 無意味の象徴
78話 『精霊王』
しおりを挟む──気がつけば、知らない所に立っていた。
どこか、見渡しの良い丘の上で、何かを見詰めていたようだったけどあまりよく分からない。なんでここにいるんだろう。……展望台、そう。あそこに行かないといけなかったはずだ。それなのに、どうしてこんなわけの分からない所にいるんだろう。
「──魔王さまぁ、精霊王達、このままでいいんですかぁ?」
後ろの方で誰かが立っている。女の人だった。その人はキレイな佇まいで、まるでそこにいるのが自然の理のように感じられるような雰囲気を纏いながら立っていた。
「まおう……? それって……もしかして、ゲームとかで出てくる、あの……?」
女の人は答えなかった。何度話しかけても返事は無くて、遠くに見える渦から離れようと思った。
「君も、早く離れた方が良いよ。なんだか、危なそうだし」
ここから早く離れないと、それからあれを迂回して、展望台を目指す。それから……展望台で……。展望台で、何をするんだったっけ? とても重要だった気がするのに、何も覚えていない。
「あそこで、何かをしなくちゃいけなかったんだ。行って、確かめよう。きっと思い出す」
丘を下りて迂回しながら向こうに行く。展望台が見えたのはあっち側だった。きっと何かがある。──けど、あの子、このままだと危ない、よね……?
「逃げないの?」
少女は答えない
「じゃあ、僕は、行くから」
そう言ってその場を後にした
※※※
「がはっ──! はひゅっ、はっ、はっ、はっ、はっ……!」
「ようやっと目ぇ覚ましたかい? コーイチ」
「……あぁ? 誰だ──っ、ハダチ、か?」
どこかの木の上に寝転がっていたコーイチは足元で、枝の先の方で座っている青年を見詰めた。青年は首から翼のチャームがついたネックレスを下げていて、漆黒とも言えるほど黒い髪は後ろの方で逆巻いている
「コーイチ、悪い事は言わねぇよ。早く逃げた方が良い」
「は? テメェ、ハダチ……。なんでテメェがここにいるんだよ……!」
「……コーイチには良くしてもらったから。思い直した」
「じゃあ、もっと早く来いよ……。遅えんだよ……」
「遅くねぇよ。オレはコーイチを助ける為に来たんだぜ?」
「るせえよ……! っ。そうだ、レイは!? オレと一緒にいたアイツは!?」
「……ああ、あの子。あの子ならおいて来たよ」
「なんで……!!」
「……コーイチ、オレぁな、こんな無意味な争いにコーイチを巻き込みたくなかった。これはオレらが考えるような事じゃねえよ。もっと別の何かが考える事、やる事だ。オレはこの争いの意味を知ってる。だからこそ無意味って分かるんだぜ?」
「なんっなんだよ! 何が無意味だクソボケが!」
「……、コーイチ、教えてあげようかい? この争いの意味と、あの空の黒いやつの正体」
「だから、なんでテメェがそんな事を知ってんだよ!」
「あいつらは、『魔王軍の末裔』って言う奴だよ」
「は、ぁ……?」
──ってまあ、言っても、な? 分からんだろ?
何、言ってんだよ……。意味分かんねぇ。人が殺しに来たりするのが、無意味で、なんで、まおうとか言うのになるんだよ……。
──要するに悪いやつの子どもたちだって事だぜ?
ダメだ。なんにも聞けやしねぇ。何言っても、なんか、耳になんか詰まって聞こえねぇし。頭もいてぇし、腹、立ってるし。ヤバイ。何を言ってんのかさっぱり分かんねえ。
──そいつらを、■■して■■■■■してさ、■■い■■を……。
空、黒いな。
「ごめ……オ、レ……む……ぃ」
コーイチはずるりと木から落ちていき、その瞳は最後に真っ黒な空を捉えて瞼を吊り上げていた糸が切られてその瞳が隠れた
※※※
少しずつしか進めていない。これは誰かの力か何かが働いているのかもしれないけど確かめようがない。思いつかない。
さっき──と言ってもかれこれ数分は経っているはずだ。その間を森の中、ただひたすら走っていた──足で地面に窪みを作った所から、ほんの数m離れているかいないかくらいの距離しかなかった。こんな事はおかしい。
「……なんで、こんなに、進むのが……! ──レイカちゃん……っ」
展望台はもう少し先に見えて来てる。ゆっくりでも進もう。もうすぐだ。もうすぐ、帰れる。帰ったらレイカちゃん達とまた普段通りの暮らしをしよう。──ミズキさんの分もたくさん楽しく生きようなんて、考えられないけど、せめてでも色んな事を伝えたい。楽しかった事や嬉しかった事、悲しかった事、悔しかった事、たくさん話したい。またいつか会えた時に、いつか、きっと。
「ふひっ……ふひひひひひ……」
「ッ!」
通り過ぎようとした木の根本に、彼女は座り込んでいた。あちこち血だらけになりながら木にもたれて、微かに笑っている
「いあぁ~いぃぃ……っ。いひひひひしししひッ……。いしひっ。らふけへぇぇ~えぇ……? えひっ、ひはっ……」
少し相手が違えば、少し状況が違えば、少し仲間が違えば同じようになっていたかもしれない。そう思うとゾッと青褪めていく。少し、距離を取って逃げるように走り出す。今度は警戒がどうのは関係ない。全力で逃げていくまっすぐ、まっすぐ、あの場所へ向かって──
※※※
「私が……」と、手を上げて進言したのは目が少し開いているが今はボーッとしていない──ナナセだ
「受肉を引き受けて下さる……と?」
こくんと頷くナナセを、是枝さくらは腕を掴んで引き止める「あなたまで、いなくなったら……」
「……わたしわー、さくちゃんのことー、おともだちだってーおもってるー」そう言って振り返る
「な、何を……?」
「だからねー、わたしわー、がんばるってことー」
「だ、だからっ、あなたまでいなくなってしまったら、私は、私はっ……」
「だってー、さくちゃんもー、がんばってるんだもんー。かぞくもー、つくってくれてー、ありがとー」
ナナセはさくらの手をそっと払いのけてカエデの下に向かうと、黒い雲を見上げて感嘆の息を吐いた
「失敗すれば、あなたは死んでしまいますよ」
「わかってるからー」
「……そうですか。なら、呼び寄せます」
──精霊王と呼ばれる暗黒の雲は、カエデの手が淡く翡翠色に光ったかと思うとお互いの後を追いかけるようにくるくると回転しながら向かって来る
そして、ナナセの胸にドッ……とぶつかり入り込んだ
「……ッッッ!」
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