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本編
視察という名のお掃除開始その4
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しばらく、そうやって、怪しい家に来たごろつきを捕まえ、子供たちを保護し、王都の孤児院に送る。その時にたまったごろつきどもも一緒に王都の牢屋に送る。そうした日々の中、エセルはポプリを作り上げた。
その間、食事時になると何故か、影さんたちがやってきて、エセルの作る食事を王太子ともども美味しく食べていく。
エセルが作ったポプリは王太子から合格点がもらえ、ついでに王太子の助言で魔力を込めた刺繍で防御力アップの付加を付けておいた。
「ただの香りだけなら、香水があるからあまり売れないだろう。それに防御力効果付きなら、買い手はある」
流石は商人、目の付け所が違うと感心する。
「商人ではなく王太子だ」
相変わらず人の心を読んだように小さく言う王太子の言葉はいつもの通りスルーしておく。
待機時間が長いとついつい内職に励んでしまう。ちまちまとポプリを作り、防御力アップの刺しゅうを施す。王太子も別室で魔道具を作り始めた。時折、隠密スキルと高速移動で採取と狩りをしてくる。ここにはスーパーもないし、インターネットもないからネットで宅配も頼めない。となれば、自給自足しかないというわけで、王太子の許可のもと狩りに行く途中で採取もする。
こういう時には身代わりロボットを出せばと思う人もいるだろうが、それが無理なんだなあ。身代わりロボットに狩りと採取を任せられるほどの性能がない。これはエセルの能力不足である。自分そっくりにコピーし、行動パターンも付加させて、完璧にもう一人の自分を作り上げようとしたら、魔力が足りなかった。つまり、エセルと全く同じに造ろうとしたら、エセルと同じ魔力も必要なのだ。つまり自動で動くタイプのエセルの身代わりロボットを造ろうとすれば、魔力がエセルの最低二倍以上はなくてはならないことになる。と言って劣化版だと不測の事態に対応できない。つまり、寝ているだけの楽な身代わりならできるが、身代わりロボットはそれ以外の使用が今のところいまいちな物件なのだ。
魔力を付加せずに行動パターンを似せるとかいろいろと試行錯誤してみたのだが、魔力を有した魔石を源に動かすにはうまくいかなかった。魔法はイメージの世界。だが、それをうまく使える魔力も大事なのだよ。なので、病弱だとか今回の様に怪我で寝ている設定とかでしか使えない。この件については最初に王太子から「意外と使えない」とダメ出しを受け、精神的なものがかなりガリガリと削り取られたことは言うまでもない。あれもまた一つの黒歴史となった。前世のロボット制作の知識が欲しいと何度心から思ったことか。いろいろと調べた結果、この世界には魔力で使役する人形の魔法がない。故にイメージが駄目ならと過去の遺産(魔道具研究)を探すいうわけにもいかなかったのだ。
それに、王太子と身代わりロボットの使用方法について突き詰めていけば、身代わりロボットの量産化がうまくいったら最終的には軍事利用される。それは前世の歴史で学んだことだ。科学技術の発達は戦争と共にあると言って過言ではない。ということは人間同士の戦争でなく、身代わりロボットによる戦争の始まりだ。その技術が盗まれでもすれば、あちこちで当然のように戦争が始まる。だってさ、自分たちは傷つかないですむから、いくらでも戦争やり放題。挙句に互いに滅ぶまで続くわなと王太子と二人でそんな未来を考えてしまったら、最後にはとうとう「これ以上の開発は止めろ」と厳重に彼から言い渡されたんだよね。ということで、現状維持になったという経緯もある。
それにしてもいつまでここにいるのかと王太子に尋ねるわけも行かず、食事に来る影さんたちにそれとなく聞くと、黒幕の割り出しに難航しているらしい。どうも敵も警戒心が強く、下っ端のごろつきを雇うのにも、何重にも人を介すという保険をかけているらしい。このままではトカゲのしっぽ切りよろしく、黒幕までたどり着けそうもないとか?おい、王太子の影たちは優秀だったんじゃないのかと突っ込んでもいいか?それとも、それを上回るずる賢い奴が相手なのか?後者ならちょっと期待してもいいかな?
などと軽く思っていたこともありました。
「大変です」
のんびりとティータイムをとっていたところに一人の影さんが飛び込んできた。最近は、手下のごろつきが全員影さんたちに代わったのをいいことに元怪しい家が今は王太子の仮の本拠地になりつつある。ここで待機しながらいろいろな情報を元に会議をしたり指示を出したりと一応彼は忙しいらしい。
「うん、何があった?」
フィナンシェを口にしながら、緊張感のかけらもなく、紅茶でそれを飲み下す王太子と焦れるように待つ影さんを落ち着かせようと紅茶をいれるエセル。和み過ぎている。
「あ、どうもありがとうございます………そうではなくて、エセル様が誘拐されました」
王太子がエセルを見る。エセルもきょとんとして影さんを見る。影さんも王太子とエセルの表情に頭を抱えた後、コホンと咳払いする。
「エセル様の作ったお人形の方です」
と言い直したあと、ふうっと溜息を吐き出し、落ち着かせようとエセルの入れた紅茶を一口、口にした。そんな彼を見ていた二人は、漸く、事の重大さを理解する。
「え、私の誘拐?なんで?どうして?しかもこの時期?」
「公爵家の人たちはどうしている?」
「はい、もともと公爵家にいる者の話だと………」
影さんの言葉にエセルが固まる。おい、王太子よ、我が家にも影を入り込ませていたんかいと少し威圧を込めて王太子をチラッと見る。王太子はそんなエセルの態度は無視して、影さんの言葉を待つ。エセルの威圧に内心はわたわたしている影さんは、表面上は取り繕った顔で、本音はエセルの作る美味しいご飯がもう食べられなくなったらどうしようかと悩みつつ言葉を続ける。
「それはもう大騒ぎになっております。エセル様は公爵家の皆様の至宝の珠ですから」
何気に恥ずかしいセリフを言われた気がして、顔が赤くなるエセル。公爵家の外れ姫なのだけれどなあと違和感満載だ。
「そうか、やはり、この件は公爵家の追い落としのための布石か。愚王の奴、馬鹿じゃないのか?あとこれに絡んでいるのは馬鹿兄たち全員か?いや、側室や愛妾どもも絡んでいるな?最近は税金も上げ過ぎて、これ以上は上げられずにいたから国庫がほとんど空で贅沢ができずにいるからな。ということは、やっと国を潰す気にでもなったのか?いやそれほど奴らは頭がよくないから、やはりランティスラ王国が裏で糸を引いているのか?敵国に簡単に操られるとは愚王も完全に地に落ちたな」
うん?とエセルは王太子を見る。彼の顔が醜く歪んで見えた。王太子は公の場以外では平然と父親を愚王と呼び、兄たちを馬鹿兄たちと呼ぶ。そこに親愛の情は一切ない。
いやいや、それよりも国を潰す気になったとか、敵国に操られているとか何気に不穏な発言をしているのですが、どこでその情報を仕入れたんだと問い詰めたい。あ、影さんたちか。それになんでうち(公爵家)を王家が潰す気満々なんだと突っ込みたい、いくら仲が悪いからって実の弟に対してそれはないだろうと思いたいエセルである。
「それでどこに連れ込まれた?」
「はい、たぶん、この伯爵領ですね。徹底的に伯爵家に悪役を押し付けて、公爵家もろとも潰すつもりのようです」
「なんだ、つまらん、芸がないな」
王太子が面白くなさそうに呟いた。おい、芸がないって、うち(公爵家)の危機なんだぞ、もっと危機感を持てと言いたいが、まあ、王太子の立場からすればうち(公爵家)が滅んでも何の問題もないと思っているのかもしれない。チッとエセルは舌打ちした。こんなことなら、家出せずにこのチート生活魔法を使い、この国を乗っ取ってやればよかったのかもと後悔する。
そうそう、王様や王子たちの身代わり人形をこしらえて、本物は抹殺………無理か。そこまで非道にできない。料理魔法で美味しい料理を作り続け、エセルの料理を食べないと生きていられない身体にするって。なんかこれも一種の薬物中毒的なものだ。いっそのこと、影縫いで縫い付けて動けないようにして日干し。これも駄目だ。却下だな。元善良な日本の一市民としては、悪逆なことがなかなか思いつかない。
いや、いや、いっそのこと国を分裂させて独立だ。幸いに父親も兄も騎士になるくらい強いのだから、民衆を煽って独立したらいいのではないだろうか?高い税金で搾取された民衆は革命を起こすのだ。そうなるとエセルは男装の女騎士になりって、あ、でも、いつもそばにいてくれる黒髪の従者がいない。あんな風にずっと尽くしてくれる人がいるなんて羨ましいと思っていたのに残念だと前世の有名なとある国の革命を描いたマンガを思い出す。
「おい、帰ってこい!」
気が付くとまた王太子に肩を揺さぶられていた。ああ、また意識を飛ばしていた。毎度のことながらついつい、脳内で自己完結を始めてしまう自分の癖を改めなければと思う。それは別名妄想ともいう。
とりあえずは落ち着こうとエセルは冷めた紅茶を捨て、新しく入れ直し、口にするとふうっと溜息を吐いた。身代わりロボットはどうなっただろうか?粗末に扱われて、身バレしていないよなと今度はこっちを心配する。身代わりロボットとは一種の魔道具と同じだ。エセルの裁縫魔法を使い、イメージで造り出したロボットもどきの人形に彼女の魔力を込めた魔石を核に造り出したものである。もしも乱暴に扱い、衝撃で魔石が壊れたら、当然身代わりロボットも元の人形にもどる。そうなったらどうなるか?考えただけでサアッと顔色が悪くなる。
「拙い、私が行かなくちゃ」
「おい待て、どうしてそうなる」
「だって、身代わり人形に身代わりさせていたのがばれたら、家族が怖い」
王太子たちの前ではロボットなどというと何それとなるので、身代わり人形というアイテム名を採用している。
「十一歳からずっと家出していましたって知られたら、絶対にお母様に泣かれるし、お父様とお兄様には怒られるもの」
エセルはシュンとして涙目になる。これは本気モードの涙目だ。今世の家族を怒らせると怖い。何が起きるかわからない。それは実の娘であるエセルがよく知っている。
最初、エセルの魔力が基準値すれすれだったことで、公爵家の外れ姫などという陰口を聞く奴ら(社交界)が多くいた。それに対し、両親はかなり怒った。そう怒りまくり、あちこちでいろいろとやってくれたらしい。母親は呼ばれたお茶会などでにこやかな顔で相手が泣いて謝るまで相手の弱点を朗々と述べいびったとか、父親は騎士団に体験入団とか称してエセルの陰口を言った貴族を強引に招待し叩きのめしたとか、兄は学校でエセルの悪口を言った相手のプライドをボキボキとへし折り続けたとか、かなりの黒歴史があるが、それでも口さがない奴はこそこそとエセルを公爵家の外れ姫と呼ぶ。そのたびに両親と兄に返り討ちに会っているらしいが。
ごく普通だったはずの家族がどんどん過激になっていくのに申し訳ない気持ちになり、こうして家出して今(王太子の専属女官)に至るのであるが、両親と兄には真実を伝えられずにいる。元気いっぱいの娘がいきなり病弱になった挙句に候補者たちがどんどん脱落していき、とうとう王太子の婚約者に祭り上げられただけでも両親と兄にしてみれば、冗談じゃないと言わんばかりの態度だったのに、更に視察に行った先で怪我して帰ってきたことで、二度と王太子とは会わせないとばかりに公爵家の別荘で療養させていたそうだ。
その娘が実は健康そのもので、家出して実は王太子と共にずっと一緒にいたと知られたらどうなるか、考えただけで身が竦む。ごく普通だったはずの両親と兄の暴走が怖い。止められるかどうかわからないが、とにかく帰ろう。無事の姿を見せるだけでも少しは違うだろうと思う。いや思いたい。思わなければ。エセルの思考は暗く沈む。
その間、食事時になると何故か、影さんたちがやってきて、エセルの作る食事を王太子ともども美味しく食べていく。
エセルが作ったポプリは王太子から合格点がもらえ、ついでに王太子の助言で魔力を込めた刺繍で防御力アップの付加を付けておいた。
「ただの香りだけなら、香水があるからあまり売れないだろう。それに防御力効果付きなら、買い手はある」
流石は商人、目の付け所が違うと感心する。
「商人ではなく王太子だ」
相変わらず人の心を読んだように小さく言う王太子の言葉はいつもの通りスルーしておく。
待機時間が長いとついつい内職に励んでしまう。ちまちまとポプリを作り、防御力アップの刺しゅうを施す。王太子も別室で魔道具を作り始めた。時折、隠密スキルと高速移動で採取と狩りをしてくる。ここにはスーパーもないし、インターネットもないからネットで宅配も頼めない。となれば、自給自足しかないというわけで、王太子の許可のもと狩りに行く途中で採取もする。
こういう時には身代わりロボットを出せばと思う人もいるだろうが、それが無理なんだなあ。身代わりロボットに狩りと採取を任せられるほどの性能がない。これはエセルの能力不足である。自分そっくりにコピーし、行動パターンも付加させて、完璧にもう一人の自分を作り上げようとしたら、魔力が足りなかった。つまり、エセルと全く同じに造ろうとしたら、エセルと同じ魔力も必要なのだ。つまり自動で動くタイプのエセルの身代わりロボットを造ろうとすれば、魔力がエセルの最低二倍以上はなくてはならないことになる。と言って劣化版だと不測の事態に対応できない。つまり、寝ているだけの楽な身代わりならできるが、身代わりロボットはそれ以外の使用が今のところいまいちな物件なのだ。
魔力を付加せずに行動パターンを似せるとかいろいろと試行錯誤してみたのだが、魔力を有した魔石を源に動かすにはうまくいかなかった。魔法はイメージの世界。だが、それをうまく使える魔力も大事なのだよ。なので、病弱だとか今回の様に怪我で寝ている設定とかでしか使えない。この件については最初に王太子から「意外と使えない」とダメ出しを受け、精神的なものがかなりガリガリと削り取られたことは言うまでもない。あれもまた一つの黒歴史となった。前世のロボット制作の知識が欲しいと何度心から思ったことか。いろいろと調べた結果、この世界には魔力で使役する人形の魔法がない。故にイメージが駄目ならと過去の遺産(魔道具研究)を探すいうわけにもいかなかったのだ。
それに、王太子と身代わりロボットの使用方法について突き詰めていけば、身代わりロボットの量産化がうまくいったら最終的には軍事利用される。それは前世の歴史で学んだことだ。科学技術の発達は戦争と共にあると言って過言ではない。ということは人間同士の戦争でなく、身代わりロボットによる戦争の始まりだ。その技術が盗まれでもすれば、あちこちで当然のように戦争が始まる。だってさ、自分たちは傷つかないですむから、いくらでも戦争やり放題。挙句に互いに滅ぶまで続くわなと王太子と二人でそんな未来を考えてしまったら、最後にはとうとう「これ以上の開発は止めろ」と厳重に彼から言い渡されたんだよね。ということで、現状維持になったという経緯もある。
それにしてもいつまでここにいるのかと王太子に尋ねるわけも行かず、食事に来る影さんたちにそれとなく聞くと、黒幕の割り出しに難航しているらしい。どうも敵も警戒心が強く、下っ端のごろつきを雇うのにも、何重にも人を介すという保険をかけているらしい。このままではトカゲのしっぽ切りよろしく、黒幕までたどり着けそうもないとか?おい、王太子の影たちは優秀だったんじゃないのかと突っ込んでもいいか?それとも、それを上回るずる賢い奴が相手なのか?後者ならちょっと期待してもいいかな?
などと軽く思っていたこともありました。
「大変です」
のんびりとティータイムをとっていたところに一人の影さんが飛び込んできた。最近は、手下のごろつきが全員影さんたちに代わったのをいいことに元怪しい家が今は王太子の仮の本拠地になりつつある。ここで待機しながらいろいろな情報を元に会議をしたり指示を出したりと一応彼は忙しいらしい。
「うん、何があった?」
フィナンシェを口にしながら、緊張感のかけらもなく、紅茶でそれを飲み下す王太子と焦れるように待つ影さんを落ち着かせようと紅茶をいれるエセル。和み過ぎている。
「あ、どうもありがとうございます………そうではなくて、エセル様が誘拐されました」
王太子がエセルを見る。エセルもきょとんとして影さんを見る。影さんも王太子とエセルの表情に頭を抱えた後、コホンと咳払いする。
「エセル様の作ったお人形の方です」
と言い直したあと、ふうっと溜息を吐き出し、落ち着かせようとエセルの入れた紅茶を一口、口にした。そんな彼を見ていた二人は、漸く、事の重大さを理解する。
「え、私の誘拐?なんで?どうして?しかもこの時期?」
「公爵家の人たちはどうしている?」
「はい、もともと公爵家にいる者の話だと………」
影さんの言葉にエセルが固まる。おい、王太子よ、我が家にも影を入り込ませていたんかいと少し威圧を込めて王太子をチラッと見る。王太子はそんなエセルの態度は無視して、影さんの言葉を待つ。エセルの威圧に内心はわたわたしている影さんは、表面上は取り繕った顔で、本音はエセルの作る美味しいご飯がもう食べられなくなったらどうしようかと悩みつつ言葉を続ける。
「それはもう大騒ぎになっております。エセル様は公爵家の皆様の至宝の珠ですから」
何気に恥ずかしいセリフを言われた気がして、顔が赤くなるエセル。公爵家の外れ姫なのだけれどなあと違和感満載だ。
「そうか、やはり、この件は公爵家の追い落としのための布石か。愚王の奴、馬鹿じゃないのか?あとこれに絡んでいるのは馬鹿兄たち全員か?いや、側室や愛妾どもも絡んでいるな?最近は税金も上げ過ぎて、これ以上は上げられずにいたから国庫がほとんど空で贅沢ができずにいるからな。ということは、やっと国を潰す気にでもなったのか?いやそれほど奴らは頭がよくないから、やはりランティスラ王国が裏で糸を引いているのか?敵国に簡単に操られるとは愚王も完全に地に落ちたな」
うん?とエセルは王太子を見る。彼の顔が醜く歪んで見えた。王太子は公の場以外では平然と父親を愚王と呼び、兄たちを馬鹿兄たちと呼ぶ。そこに親愛の情は一切ない。
いやいや、それよりも国を潰す気になったとか、敵国に操られているとか何気に不穏な発言をしているのですが、どこでその情報を仕入れたんだと問い詰めたい。あ、影さんたちか。それになんでうち(公爵家)を王家が潰す気満々なんだと突っ込みたい、いくら仲が悪いからって実の弟に対してそれはないだろうと思いたいエセルである。
「それでどこに連れ込まれた?」
「はい、たぶん、この伯爵領ですね。徹底的に伯爵家に悪役を押し付けて、公爵家もろとも潰すつもりのようです」
「なんだ、つまらん、芸がないな」
王太子が面白くなさそうに呟いた。おい、芸がないって、うち(公爵家)の危機なんだぞ、もっと危機感を持てと言いたいが、まあ、王太子の立場からすればうち(公爵家)が滅んでも何の問題もないと思っているのかもしれない。チッとエセルは舌打ちした。こんなことなら、家出せずにこのチート生活魔法を使い、この国を乗っ取ってやればよかったのかもと後悔する。
そうそう、王様や王子たちの身代わり人形をこしらえて、本物は抹殺………無理か。そこまで非道にできない。料理魔法で美味しい料理を作り続け、エセルの料理を食べないと生きていられない身体にするって。なんかこれも一種の薬物中毒的なものだ。いっそのこと、影縫いで縫い付けて動けないようにして日干し。これも駄目だ。却下だな。元善良な日本の一市民としては、悪逆なことがなかなか思いつかない。
いや、いや、いっそのこと国を分裂させて独立だ。幸いに父親も兄も騎士になるくらい強いのだから、民衆を煽って独立したらいいのではないだろうか?高い税金で搾取された民衆は革命を起こすのだ。そうなるとエセルは男装の女騎士になりって、あ、でも、いつもそばにいてくれる黒髪の従者がいない。あんな風にずっと尽くしてくれる人がいるなんて羨ましいと思っていたのに残念だと前世の有名なとある国の革命を描いたマンガを思い出す。
「おい、帰ってこい!」
気が付くとまた王太子に肩を揺さぶられていた。ああ、また意識を飛ばしていた。毎度のことながらついつい、脳内で自己完結を始めてしまう自分の癖を改めなければと思う。それは別名妄想ともいう。
とりあえずは落ち着こうとエセルは冷めた紅茶を捨て、新しく入れ直し、口にするとふうっと溜息を吐いた。身代わりロボットはどうなっただろうか?粗末に扱われて、身バレしていないよなと今度はこっちを心配する。身代わりロボットとは一種の魔道具と同じだ。エセルの裁縫魔法を使い、イメージで造り出したロボットもどきの人形に彼女の魔力を込めた魔石を核に造り出したものである。もしも乱暴に扱い、衝撃で魔石が壊れたら、当然身代わりロボットも元の人形にもどる。そうなったらどうなるか?考えただけでサアッと顔色が悪くなる。
「拙い、私が行かなくちゃ」
「おい待て、どうしてそうなる」
「だって、身代わり人形に身代わりさせていたのがばれたら、家族が怖い」
王太子たちの前ではロボットなどというと何それとなるので、身代わり人形というアイテム名を採用している。
「十一歳からずっと家出していましたって知られたら、絶対にお母様に泣かれるし、お父様とお兄様には怒られるもの」
エセルはシュンとして涙目になる。これは本気モードの涙目だ。今世の家族を怒らせると怖い。何が起きるかわからない。それは実の娘であるエセルがよく知っている。
最初、エセルの魔力が基準値すれすれだったことで、公爵家の外れ姫などという陰口を聞く奴ら(社交界)が多くいた。それに対し、両親はかなり怒った。そう怒りまくり、あちこちでいろいろとやってくれたらしい。母親は呼ばれたお茶会などでにこやかな顔で相手が泣いて謝るまで相手の弱点を朗々と述べいびったとか、父親は騎士団に体験入団とか称してエセルの陰口を言った貴族を強引に招待し叩きのめしたとか、兄は学校でエセルの悪口を言った相手のプライドをボキボキとへし折り続けたとか、かなりの黒歴史があるが、それでも口さがない奴はこそこそとエセルを公爵家の外れ姫と呼ぶ。そのたびに両親と兄に返り討ちに会っているらしいが。
ごく普通だったはずの家族がどんどん過激になっていくのに申し訳ない気持ちになり、こうして家出して今(王太子の専属女官)に至るのであるが、両親と兄には真実を伝えられずにいる。元気いっぱいの娘がいきなり病弱になった挙句に候補者たちがどんどん脱落していき、とうとう王太子の婚約者に祭り上げられただけでも両親と兄にしてみれば、冗談じゃないと言わんばかりの態度だったのに、更に視察に行った先で怪我して帰ってきたことで、二度と王太子とは会わせないとばかりに公爵家の別荘で療養させていたそうだ。
その娘が実は健康そのもので、家出して実は王太子と共にずっと一緒にいたと知られたらどうなるか、考えただけで身が竦む。ごく普通だったはずの両親と兄の暴走が怖い。止められるかどうかわからないが、とにかく帰ろう。無事の姿を見せるだけでも少しは違うだろうと思う。いや思いたい。思わなければ。エセルの思考は暗く沈む。
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