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「あの事故、大きな事故だった割には亡くなったのはひとりだったでしょ。そのひとりが、あのおばさんのご主人なんだ」
え、と柿崎が口を開いたが秋月はそのまま続けた。
「学校の近くの駅前でさ、ビーグル犬二頭連れて、帰宅するご主人を待ってたのを何回か見たことがあって。学校の近くでも、土日とか朝に夫婦で犬の散歩してたから、顔、何となく覚えてて……新聞で亡くなったひとの写真見て、あれ?って思ってて。載ってた住所も学校の近くだったし」
秋月は小さく息を吐いて、続けた。
「家は駅と反対側だから通り道じゃないけど、家の近くに行ってみたら……番地まではわかんなかったけど、マスコミみたいなのが群がってる家があったから、たぶんそこだと思う──けど、結局事故起こした運転手に、責任能力がないとか何とか、別の方向に話が向きだしてさ。今は助かったけど歩けなくなってしまった小さな子供とか、九死に一生を得た人とかそういうひとが取り沙汰されてるみたいだから」
「………死者一名だもんな」
「まぁ、裁判とか始まったらまた群がってくるんだろうけどね」
誰ともなく、三人揃ってため息を吐いた。
「だから、なんとなく気になってさ。親と同じくらい……だしね?」
「強いけど」
「でも俺たち、魔法使えるらしいじゃん?」
昨日の検査の結果、全員に膨大な魔力があることが判明した。
「あのおばさん、何もないって……言われてたね……」
柿崎は何だか申し訳なさそうに呟いた。
「なにげに強かったけどな。俺、人間が拳と蹴りで吹っ飛ぶところ生まれて初めてみたよ」
「あはは、俺も。直に見たの、そういや初めてだったな」
「あの吹っ飛ばされた騎士は大丈夫だったのかな?」
「うーん、まぁ、回復魔法とかあるらしいし、大丈夫なんじゃないの? 柿崎が回復系の魔法の適性があるってみんなが大騒ぎしてたじゃん」
「はは……。俺的には剣の適性もある笹神がうらやましい、かも」
何となく項垂れた柿崎の背中を笹神が叩く。
「何言ってんだよ、おかげで俺たち同じ国に行ける事になったし? 回復魔法が使えるヤツを軸に割り振ってたじゃん。鍛えりゃ何だって伸びていくって言われたし」
「うん……」
黙って会話を聞いていた秋月が、ふっと顔を上げた直後に、カチャリと扉が開いた。騎士が顔を出して朝食だと告げてくる。笹神はすとんとしたワンピースのような寝間着のままで、バスルームに向かい、慌てて着替え始めた。
「朝食の後でイクテュース魔法学院の生徒達をご紹介致します。彼らは召喚の儀式に参加した優秀な子供達で、本日のパレードに同行させていただきます」
「あれ? あの後のお食事会のとき、そんな子達っていました?」
秋月がソファから立ち上がり、微笑みながら騎士に問う。騎士は顔を少し赤くして答えた。
「い、いえ。彼らは未成年のため酒席には参加できませんので……儀式の後はそのまま帰宅したかと」
「そうでしたか。ありがとうございます。じゃ、行こうか? 柿崎」
「う、うん。笹神、早く着替えて来いよ?」
「おう、すぐ行く」
ふたりが部屋から出ると、騎士は笹神に一度頭を下げ、部屋から出ていった。用意されていたシャツのボタンを留めながら、何だかわくわくしている自分に気がついた。
(魔法学院だって? ファンタジーだな、ほんと、魔法使えんのか? 俺。それよりめっちゃかわいい魔法少女が来ちゃったらどうしよう~?)
ニヤニヤがとまらないカノジョのいない笹神であった。
秋月は廊下に出て、部屋に向かいながら、ついて来る騎士に気を配りつつ、柿崎に小声で言った。
「魔法学院から来た子供に、チャンスがあったらおばさんのこと、訊いてみて」
「うん、チャンス到来ってやつだな」
「そうだね。何か知ってる子達だといいけどね。じゃ、また後で」
自分の部屋のドアの前で、柿崎はついてこようとする騎士を一瞥して留め、自分だけ中に入って行った。残されたドアの前で項垂れている騎士の背中には哀愁が漂っている。秋月はほんの少しだけ同情して、自分の部屋のドアを開いた。お付の騎士は先ほどの柿崎の部屋の前でのやり取りをみていたせいか、秋月の顔を伺っている。
「どうぞ? 入っても構いませんよ? ウーヌスさん」
自分の名前を呼ばれたことに驚いたのか、ウーヌスは秋月を凝視した。最初に自己紹介はしたが、名前を覚えられているとは思っていなかったようだ。
「で、では、失礼致します。本来ならば我々は扉の外で待機するのが常なのですが、皆様は特別な方々ですので……申し訳ございません」
ドアの前で目を伏せ直立不動の姿勢になるウーヌスに、秋月は小さく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。僕は気にしていませんから。皆さんのお仕事ですしね。お気遣いは不要ですよ。それより、ウーヌスさんも魔法学院をご卒業されたのですか?」
「え、あ、はい。私は魔力はあまりありませんでしたので、騎士クラスで必要な魔法を学びました」
「へぇ、騎士クラスもあるんですね。僕たちも適性で分かれちゃうのかな」
心細げにウーヌスを見つめる秋月に、思わず目を逸らすウーヌスである。
「も、も、申し訳ございません! 私共は詳しい事を聞かされておりませんので何も判らないのであります!」
何故か泣きそうな声で回答するウーヌスに、秋月は申し訳なさそうに言った。
「あぁ、困らせてしまいましたね。ごめんなさい、ウーヌスさん。では朝食に向かいましょうか」
鏡の前で軽く髪を整えてドアの前に向かう秋月が、チラチラと伺うウーヌスに笑みを返すと、彼はボンッと音がしてしそうな勢いで赤面した。固まったウーヌスにドアを開けるよう促して廊下に出る。耳まで赤くなった騎士の後を歩きながら無表情に戻った秋月は思う。
(あっちもこっちも大体反応は変わらないな……男も女も……)
醒めた目で小さなため息を吐く秋月だった。
え、と柿崎が口を開いたが秋月はそのまま続けた。
「学校の近くの駅前でさ、ビーグル犬二頭連れて、帰宅するご主人を待ってたのを何回か見たことがあって。学校の近くでも、土日とか朝に夫婦で犬の散歩してたから、顔、何となく覚えてて……新聞で亡くなったひとの写真見て、あれ?って思ってて。載ってた住所も学校の近くだったし」
秋月は小さく息を吐いて、続けた。
「家は駅と反対側だから通り道じゃないけど、家の近くに行ってみたら……番地まではわかんなかったけど、マスコミみたいなのが群がってる家があったから、たぶんそこだと思う──けど、結局事故起こした運転手に、責任能力がないとか何とか、別の方向に話が向きだしてさ。今は助かったけど歩けなくなってしまった小さな子供とか、九死に一生を得た人とかそういうひとが取り沙汰されてるみたいだから」
「………死者一名だもんな」
「まぁ、裁判とか始まったらまた群がってくるんだろうけどね」
誰ともなく、三人揃ってため息を吐いた。
「だから、なんとなく気になってさ。親と同じくらい……だしね?」
「強いけど」
「でも俺たち、魔法使えるらしいじゃん?」
昨日の検査の結果、全員に膨大な魔力があることが判明した。
「あのおばさん、何もないって……言われてたね……」
柿崎は何だか申し訳なさそうに呟いた。
「なにげに強かったけどな。俺、人間が拳と蹴りで吹っ飛ぶところ生まれて初めてみたよ」
「あはは、俺も。直に見たの、そういや初めてだったな」
「あの吹っ飛ばされた騎士は大丈夫だったのかな?」
「うーん、まぁ、回復魔法とかあるらしいし、大丈夫なんじゃないの? 柿崎が回復系の魔法の適性があるってみんなが大騒ぎしてたじゃん」
「はは……。俺的には剣の適性もある笹神がうらやましい、かも」
何となく項垂れた柿崎の背中を笹神が叩く。
「何言ってんだよ、おかげで俺たち同じ国に行ける事になったし? 回復魔法が使えるヤツを軸に割り振ってたじゃん。鍛えりゃ何だって伸びていくって言われたし」
「うん……」
黙って会話を聞いていた秋月が、ふっと顔を上げた直後に、カチャリと扉が開いた。騎士が顔を出して朝食だと告げてくる。笹神はすとんとしたワンピースのような寝間着のままで、バスルームに向かい、慌てて着替え始めた。
「朝食の後でイクテュース魔法学院の生徒達をご紹介致します。彼らは召喚の儀式に参加した優秀な子供達で、本日のパレードに同行させていただきます」
「あれ? あの後のお食事会のとき、そんな子達っていました?」
秋月がソファから立ち上がり、微笑みながら騎士に問う。騎士は顔を少し赤くして答えた。
「い、いえ。彼らは未成年のため酒席には参加できませんので……儀式の後はそのまま帰宅したかと」
「そうでしたか。ありがとうございます。じゃ、行こうか? 柿崎」
「う、うん。笹神、早く着替えて来いよ?」
「おう、すぐ行く」
ふたりが部屋から出ると、騎士は笹神に一度頭を下げ、部屋から出ていった。用意されていたシャツのボタンを留めながら、何だかわくわくしている自分に気がついた。
(魔法学院だって? ファンタジーだな、ほんと、魔法使えんのか? 俺。それよりめっちゃかわいい魔法少女が来ちゃったらどうしよう~?)
ニヤニヤがとまらないカノジョのいない笹神であった。
秋月は廊下に出て、部屋に向かいながら、ついて来る騎士に気を配りつつ、柿崎に小声で言った。
「魔法学院から来た子供に、チャンスがあったらおばさんのこと、訊いてみて」
「うん、チャンス到来ってやつだな」
「そうだね。何か知ってる子達だといいけどね。じゃ、また後で」
自分の部屋のドアの前で、柿崎はついてこようとする騎士を一瞥して留め、自分だけ中に入って行った。残されたドアの前で項垂れている騎士の背中には哀愁が漂っている。秋月はほんの少しだけ同情して、自分の部屋のドアを開いた。お付の騎士は先ほどの柿崎の部屋の前でのやり取りをみていたせいか、秋月の顔を伺っている。
「どうぞ? 入っても構いませんよ? ウーヌスさん」
自分の名前を呼ばれたことに驚いたのか、ウーヌスは秋月を凝視した。最初に自己紹介はしたが、名前を覚えられているとは思っていなかったようだ。
「で、では、失礼致します。本来ならば我々は扉の外で待機するのが常なのですが、皆様は特別な方々ですので……申し訳ございません」
ドアの前で目を伏せ直立不動の姿勢になるウーヌスに、秋月は小さく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。僕は気にしていませんから。皆さんのお仕事ですしね。お気遣いは不要ですよ。それより、ウーヌスさんも魔法学院をご卒業されたのですか?」
「え、あ、はい。私は魔力はあまりありませんでしたので、騎士クラスで必要な魔法を学びました」
「へぇ、騎士クラスもあるんですね。僕たちも適性で分かれちゃうのかな」
心細げにウーヌスを見つめる秋月に、思わず目を逸らすウーヌスである。
「も、も、申し訳ございません! 私共は詳しい事を聞かされておりませんので何も判らないのであります!」
何故か泣きそうな声で回答するウーヌスに、秋月は申し訳なさそうに言った。
「あぁ、困らせてしまいましたね。ごめんなさい、ウーヌスさん。では朝食に向かいましょうか」
鏡の前で軽く髪を整えてドアの前に向かう秋月が、チラチラと伺うウーヌスに笑みを返すと、彼はボンッと音がしてしそうな勢いで赤面した。固まったウーヌスにドアを開けるよう促して廊下に出る。耳まで赤くなった騎士の後を歩きながら無表情に戻った秋月は思う。
(あっちもこっちも大体反応は変わらないな……男も女も……)
醒めた目で小さなため息を吐く秋月だった。
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