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更新が随分と遅くなってしまい、申し訳ありません。
亀より遅いかも知れない更新ですが
お付き合いいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
そうだ、脱出しよう。
朝、目覚めた時、笹神敬太はそう思った。
一昨日召喚とやらをされて知らない世界に連れて来られた。
昨日は一日中、身体検査のような体力測定のような知能検査というか魔力の検査とやらをされ、結果を見たいろんな人間にちやほやと誉めそやされ、夜はパーティーだ。思い出しただけでも、けっと言いたくなる。キンキラした服を着させられ、高い場所に並ばされ、うふふあははの貴族たちの挨拶をってほぼ見世物状態だった。そもそも貴族ってなんぞや?だ。
大体、なぜ自分達で行かないんだ? 召喚とか面倒なことをせずに自分達で解決すればいいのではないか?
この世界の人間ではできないとか、説明はひと通り受けたがどうにも納得がいかない。
百年に一度しか召喚はできず、戻る方法はないという。
邪悪な三頭の竜を封印できるのは召喚された勇者のみで、その竜がいる場所は世界に散らばっていてそこで瘴気を生み出している。封印しなければ、この世界は瘴気に飲み込まれてしまうそうだ。ナウ◯カか?
昨日の説明では、数日この国の魔法学院で基礎を学んだ後、各地に向かうらしい。
そして今日はパレードだと。どうしても見世物にしたいようだ。
召喚された日の夜、柿崎たちとトイレに行ったときに浴びた緑色の光が、あの後もう一度、城全体、いや街全体を包み込んだ。病気、怪我、落ちていた視力や虫歯があった人たちが回復して、薄くなっていた男達の髪の毛がよみがえり、すべての魔石の力が回復したという。スマホも充電されていた。自分達がこの地にきた恩恵だとお礼を言われたが、そんなことがあるのだろうか。期待値MAXのようでいたたまれない。
ふかふかのベッドで悶々としていると、ノックする音が響いて、声がする。
「笹神、起きた?」
柿崎だ。飛び起きて、ドアを開けた。後ろに秋月がいて、その後ろにはやはり騎士がいる。あの日髪の毛が復活したからか、彼らは召喚された笹神達をまるで神のように崇め奉る勢いだった。髪は男の命らしい。
「おはよう。話があるんだけど、大丈夫?」
日本人達同士が話すのを、お偉いさん達は好んでいないようで、騎士達はどこにでもついてこようとするが、柿崎はそれを視線で制し、笹神と秋月についている騎士もドアの前で「待て」の姿勢で立ち止まった。
なんというか、これも特技なのだろうかと、笹神は不思議に思った。
「あのさ」
ソファに座った柿崎は、笹神と秋月に交互に視線を送った後に目を伏せて、もう一度顔を上げ、小声で言った。
「俺たち、脱走しようと思ってるんだ」
「え? 俺たち?」
「あ、用事を済ませたら戻ってくるんだけどね?」
柿崎が秋月を見ると、秋月が続けた。
「悪い。俺が言いだしたの。あのおばさんが気になってさ。犬の散歩してただけで巻き込まれて、こんなとこに連れてこられて、放り出されたわけじゃない? どうしても気になっちゃって」
色素の薄い瞳をけだるげに伏せて、髪をかき上げる秋月は、なんというか色っぽい。男なのに! そしてあのおばさんはゴル◯なのでそんなに心配していなかった。
「だから何とか探しだして、一緒に来てもらおうかと思って。一緒にいたら、もしかしたら、一緒に帰れるかもしれないでしょ?」
「……一緒にって、許してもらえないんじゃないの?」
「誰に?」
秋月は、鼻で笑った。なぜか背筋がぞっとする。
「俺たちは、勝手に呼び出されて、封印とやらをやってあげる立場だし? おばさんのひとりやふたり連れて行くのが許されないなら拒否するだけだよ」
静かに言う秋月の隣で、うんうんと頷く柿崎である。確かにもっともだ。考えもしなかった。
「今日のパレード? てのが終わったら隙をついて抜け出そうと思ってさ。で、多分大騒ぎになるだろうから、笹神にはその時、ちゃんと戻るって言ってたって伝えて欲しいんだ」
「え? そんなにすぐに見つかるのか?」
一緒に脱走のお誘いではなかったのか、と少し残念な気持ちは置いておいて、笹神は質問した。
「一昨日から今日まで丸二日くらいだから、そんなに遠くには行けないと思うんだよね……。ここでは目立つ格好だろうし」
「ま、そうだよな。確かジーンズにグレーのパーカーだったっけ」
「お金だってないし、働くところだってすぐには見つからないでしょ?」
よく考えると恐ろしい話である。
訳の分からない世界で、何もなく放り出されたら、一体どうなるんだろうか?
今日までどこに泊まったんだろう。
何か食べられたんだろうか。
「俺も行く。人数が多い方が探しやすいよ」
柿崎と秋月は顔を見合わせ、小さく笑った。どうやら、まんまと乗せられたらしい。笹神と目が合った秋月は、にこりと笑った後、その笑みを消して、真顔になった。
「ゴールデンウイークに、高速のサービスエリアで大きな事故があったの、知ってる?」
ああ、と柿崎と笹神が頷くと、秋月は、そっか、と呟いてから静かに話しを続けた。
亀より遅いかも知れない更新ですが
お付き合いいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
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そうだ、脱出しよう。
朝、目覚めた時、笹神敬太はそう思った。
一昨日召喚とやらをされて知らない世界に連れて来られた。
昨日は一日中、身体検査のような体力測定のような知能検査というか魔力の検査とやらをされ、結果を見たいろんな人間にちやほやと誉めそやされ、夜はパーティーだ。思い出しただけでも、けっと言いたくなる。キンキラした服を着させられ、高い場所に並ばされ、うふふあははの貴族たちの挨拶をってほぼ見世物状態だった。そもそも貴族ってなんぞや?だ。
大体、なぜ自分達で行かないんだ? 召喚とか面倒なことをせずに自分達で解決すればいいのではないか?
この世界の人間ではできないとか、説明はひと通り受けたがどうにも納得がいかない。
百年に一度しか召喚はできず、戻る方法はないという。
邪悪な三頭の竜を封印できるのは召喚された勇者のみで、その竜がいる場所は世界に散らばっていてそこで瘴気を生み出している。封印しなければ、この世界は瘴気に飲み込まれてしまうそうだ。ナウ◯カか?
昨日の説明では、数日この国の魔法学院で基礎を学んだ後、各地に向かうらしい。
そして今日はパレードだと。どうしても見世物にしたいようだ。
召喚された日の夜、柿崎たちとトイレに行ったときに浴びた緑色の光が、あの後もう一度、城全体、いや街全体を包み込んだ。病気、怪我、落ちていた視力や虫歯があった人たちが回復して、薄くなっていた男達の髪の毛がよみがえり、すべての魔石の力が回復したという。スマホも充電されていた。自分達がこの地にきた恩恵だとお礼を言われたが、そんなことがあるのだろうか。期待値MAXのようでいたたまれない。
ふかふかのベッドで悶々としていると、ノックする音が響いて、声がする。
「笹神、起きた?」
柿崎だ。飛び起きて、ドアを開けた。後ろに秋月がいて、その後ろにはやはり騎士がいる。あの日髪の毛が復活したからか、彼らは召喚された笹神達をまるで神のように崇め奉る勢いだった。髪は男の命らしい。
「おはよう。話があるんだけど、大丈夫?」
日本人達同士が話すのを、お偉いさん達は好んでいないようで、騎士達はどこにでもついてこようとするが、柿崎はそれを視線で制し、笹神と秋月についている騎士もドアの前で「待て」の姿勢で立ち止まった。
なんというか、これも特技なのだろうかと、笹神は不思議に思った。
「あのさ」
ソファに座った柿崎は、笹神と秋月に交互に視線を送った後に目を伏せて、もう一度顔を上げ、小声で言った。
「俺たち、脱走しようと思ってるんだ」
「え? 俺たち?」
「あ、用事を済ませたら戻ってくるんだけどね?」
柿崎が秋月を見ると、秋月が続けた。
「悪い。俺が言いだしたの。あのおばさんが気になってさ。犬の散歩してただけで巻き込まれて、こんなとこに連れてこられて、放り出されたわけじゃない? どうしても気になっちゃって」
色素の薄い瞳をけだるげに伏せて、髪をかき上げる秋月は、なんというか色っぽい。男なのに! そしてあのおばさんはゴル◯なのでそんなに心配していなかった。
「だから何とか探しだして、一緒に来てもらおうかと思って。一緒にいたら、もしかしたら、一緒に帰れるかもしれないでしょ?」
「……一緒にって、許してもらえないんじゃないの?」
「誰に?」
秋月は、鼻で笑った。なぜか背筋がぞっとする。
「俺たちは、勝手に呼び出されて、封印とやらをやってあげる立場だし? おばさんのひとりやふたり連れて行くのが許されないなら拒否するだけだよ」
静かに言う秋月の隣で、うんうんと頷く柿崎である。確かにもっともだ。考えもしなかった。
「今日のパレード? てのが終わったら隙をついて抜け出そうと思ってさ。で、多分大騒ぎになるだろうから、笹神にはその時、ちゃんと戻るって言ってたって伝えて欲しいんだ」
「え? そんなにすぐに見つかるのか?」
一緒に脱走のお誘いではなかったのか、と少し残念な気持ちは置いておいて、笹神は質問した。
「一昨日から今日まで丸二日くらいだから、そんなに遠くには行けないと思うんだよね……。ここでは目立つ格好だろうし」
「ま、そうだよな。確かジーンズにグレーのパーカーだったっけ」
「お金だってないし、働くところだってすぐには見つからないでしょ?」
よく考えると恐ろしい話である。
訳の分からない世界で、何もなく放り出されたら、一体どうなるんだろうか?
今日までどこに泊まったんだろう。
何か食べられたんだろうか。
「俺も行く。人数が多い方が探しやすいよ」
柿崎と秋月は顔を見合わせ、小さく笑った。どうやら、まんまと乗せられたらしい。笹神と目が合った秋月は、にこりと笑った後、その笑みを消して、真顔になった。
「ゴールデンウイークに、高速のサービスエリアで大きな事故があったの、知ってる?」
ああ、と柿崎と笹神が頷くと、秋月は、そっか、と呟いてから静かに話しを続けた。
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