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そして、少年の後ろには銀の髪の青年と真紅の髪の美女が立っていた。
「ミユキ殿」
腰まである銀色の長い髪の青年は、アメジストのような紫の瞳で優しく笑んで、嬉しそうに言った。
「某、自身の力で人型になれもうしたぞ」
「はぁ………」
(もはやコウスケさんと呼んでいいものかどうかすらわからないお姿におなりになっておじゃるよ……)
「妾もじゃ。意外と簡単じゃったな」
真紅の髪のキャサリンはルビーのような瞳である。ボンキュッボンのナイスバディはそのままであった。
「ミユキ様。僕にも名前をつけてくださいませんか?」
「はいぃ?」
濃い藍色の瞳で見つめられ、言葉に詰まる。
「ミユキ殿、名がないと不便なのだな。この者にもつけてやってくれないか? 生まれてから誰とも話すことなどなかったので判らなかったが、名前とは、大事なものなのだな」
(う……そんなに大事なものをなんだかノリでつけてしまったよ……。
コウスケさんも何か洋風の名前に変えさせてもらうべきだろうか。
ハインリヒとかシュナイダーとかジョルジュとかテリィとかアンソニーとか……クラウスとかドリアンとかジェームズくんとかボーナムとかエーベルバッハとかツエットとかウイングとかビクトリーとかアーサー様とか……あれ? ……いやいやいや、ちょっと待て)
「あ……すみません。ちょっと先にあと三人の方を石から戻したいのでお待ちいただけますか?」
水色の髪の少年は、にっこりと笑って頷いてくれたのだった。
結局、残りの三人の腕にも隷属の腕輪がしっかりとはまっていた。徳山と立花が挟み込んだ状態でミユキが解呪して、戻ると同時に腕輪を回収するという手順で全員を戻していった。四人とも気を失っているのでクリーンをかけて、回復をする。
「それじゃあ、塩谷さん達を連れて来ますので、ちょっとお待ちください」
草原に、アイボリー色のヘキサ型タープテントが設置してあり、その脇にはバーベキューセットに色とりどりのアウトドアチェアが並んでいる。
自分で出したタープテントなのに、設置の仕方もわからないミユキだったが、意外にもアウトドア派だった徳山と立花がてきぱきとやってくれた。今も椅子に座った守護竜たちのために甲斐甲斐しく肉や野菜を焼いている。こゆみとイークレスにもこまめに焼いて渡していた。楽しそうである。案外世話好きだったのかもしれない。
守護竜たちだが、結局少年の名前はカケル君(仮)である。
いろいろ考えたのだが(ハジメとかコゴローとかヒイロとかウッソとか)髪の色から空色の竜だろうと予測し、天翔る竜とか、かっこいい感じでとりあえずカケル君にしてもらい、いつかいい名前に出会ったら、皆さん好きに変えてくださいとお願いした。
「某も参る……」
「いえいえ、コウスケさんはこちらでお待ちくださ……わかりました。ご一緒下さい」
「うむ」
断りかけたミユキだったが、途中でコウスケが、絶望的な目でふたばを見ているのに気づき、止む無く了承した。そうか、そんなに一緒にいたいのか。ふたばを置いていく訳には行かないので仕方がない。
「某がふたば殿を抱えてもよろしいだろうか?」
「どうぞ」
コウスケにかなり餌付けされていたふたばは、抗うことなく抱きかかえられた。玉ねぎと味付きのもの以外なら与えてもいいと教えると、律儀に実行していたのだ。なつくはずである。ふたばの好感度は食べ物をくれるとだだ上がりなのだから。
「「いってらっしゃい~」」
「お気をつけて」
「気をつけてください」
「早く戻るのじゃぞ」
「~~~」
見送られて、小さく手を振ると、ミユキとコウスケとふたばは瞬く間に消えた。
ふうっと立花が息を吐く。
「なんなの? あのおばさん」
「おばさんじゃない、ミユキさんだ」
徳山が即座に正した。
「その言葉はお控えなさったほうが賢明かと」
イークレスも続く。こゆみが頷いた。
「そうじゃな。ミユキはその言葉に反応しておったな。じゃが、あの者のババァに比べたらそうでもなかったがの」
キャサリンが横たわる北尾を指し、男三人は、ごくりとつばを飲んだ。
「……ババァっておばさんと同じものなのですか?」
カケルが首を傾げながら訊いた。全員が首をぶんぶんと横に振る。
「カケル様、同じではございませんし、ご婦人をお呼びになる場合は、おばさま が正しゅうございます。もう少しお年を召された方の場合には おばあさまです。境目がわからない場合は、おばさまで間違いありません。いいですか? ババァ、なる言葉はこの世には存在しない、と心得て間違いはございませんよ」
鬼気迫る表情でイークレスが説明するのを、カケルは首を縦に振りながら真面目に聞いていた。
「それはともかく、その、ミユキさんってのはなんなんだ?」
誰も答えられる者はおらず、キャサリンが口を開いた。
「どこから来た何者なのかは知らぬが、もしミユキが来てくれなんだら、ここにいる全員が塵となって消えていたのは間違いないのぅ」
「う……」
「そうですね……。私もミユキ様がいらっしゃらなかったら、瘴気の中で魔力が尽き、すでに死んでいたでしょうね」
心配げに見上げるこゆみを優しく見つめながらイークレスが微笑む。二百年後に愛する人と再び見つめあえる奇跡を起こしてくれたのだから、ミユキが何者だろうと彼には関係ないことなのだった。ふと、イークレスは思った。
彼らが石にされてから二百年もの時が流れたことを、彼らに伝えただろうか、と。
「ミユキ殿」
腰まである銀色の長い髪の青年は、アメジストのような紫の瞳で優しく笑んで、嬉しそうに言った。
「某、自身の力で人型になれもうしたぞ」
「はぁ………」
(もはやコウスケさんと呼んでいいものかどうかすらわからないお姿におなりになっておじゃるよ……)
「妾もじゃ。意外と簡単じゃったな」
真紅の髪のキャサリンはルビーのような瞳である。ボンキュッボンのナイスバディはそのままであった。
「ミユキ様。僕にも名前をつけてくださいませんか?」
「はいぃ?」
濃い藍色の瞳で見つめられ、言葉に詰まる。
「ミユキ殿、名がないと不便なのだな。この者にもつけてやってくれないか? 生まれてから誰とも話すことなどなかったので判らなかったが、名前とは、大事なものなのだな」
(う……そんなに大事なものをなんだかノリでつけてしまったよ……。
コウスケさんも何か洋風の名前に変えさせてもらうべきだろうか。
ハインリヒとかシュナイダーとかジョルジュとかテリィとかアンソニーとか……クラウスとかドリアンとかジェームズくんとかボーナムとかエーベルバッハとかツエットとかウイングとかビクトリーとかアーサー様とか……あれ? ……いやいやいや、ちょっと待て)
「あ……すみません。ちょっと先にあと三人の方を石から戻したいのでお待ちいただけますか?」
水色の髪の少年は、にっこりと笑って頷いてくれたのだった。
結局、残りの三人の腕にも隷属の腕輪がしっかりとはまっていた。徳山と立花が挟み込んだ状態でミユキが解呪して、戻ると同時に腕輪を回収するという手順で全員を戻していった。四人とも気を失っているのでクリーンをかけて、回復をする。
「それじゃあ、塩谷さん達を連れて来ますので、ちょっとお待ちください」
草原に、アイボリー色のヘキサ型タープテントが設置してあり、その脇にはバーベキューセットに色とりどりのアウトドアチェアが並んでいる。
自分で出したタープテントなのに、設置の仕方もわからないミユキだったが、意外にもアウトドア派だった徳山と立花がてきぱきとやってくれた。今も椅子に座った守護竜たちのために甲斐甲斐しく肉や野菜を焼いている。こゆみとイークレスにもこまめに焼いて渡していた。楽しそうである。案外世話好きだったのかもしれない。
守護竜たちだが、結局少年の名前はカケル君(仮)である。
いろいろ考えたのだが(ハジメとかコゴローとかヒイロとかウッソとか)髪の色から空色の竜だろうと予測し、天翔る竜とか、かっこいい感じでとりあえずカケル君にしてもらい、いつかいい名前に出会ったら、皆さん好きに変えてくださいとお願いした。
「某も参る……」
「いえいえ、コウスケさんはこちらでお待ちくださ……わかりました。ご一緒下さい」
「うむ」
断りかけたミユキだったが、途中でコウスケが、絶望的な目でふたばを見ているのに気づき、止む無く了承した。そうか、そんなに一緒にいたいのか。ふたばを置いていく訳には行かないので仕方がない。
「某がふたば殿を抱えてもよろしいだろうか?」
「どうぞ」
コウスケにかなり餌付けされていたふたばは、抗うことなく抱きかかえられた。玉ねぎと味付きのもの以外なら与えてもいいと教えると、律儀に実行していたのだ。なつくはずである。ふたばの好感度は食べ物をくれるとだだ上がりなのだから。
「「いってらっしゃい~」」
「お気をつけて」
「気をつけてください」
「早く戻るのじゃぞ」
「~~~」
見送られて、小さく手を振ると、ミユキとコウスケとふたばは瞬く間に消えた。
ふうっと立花が息を吐く。
「なんなの? あのおばさん」
「おばさんじゃない、ミユキさんだ」
徳山が即座に正した。
「その言葉はお控えなさったほうが賢明かと」
イークレスも続く。こゆみが頷いた。
「そうじゃな。ミユキはその言葉に反応しておったな。じゃが、あの者のババァに比べたらそうでもなかったがの」
キャサリンが横たわる北尾を指し、男三人は、ごくりとつばを飲んだ。
「……ババァっておばさんと同じものなのですか?」
カケルが首を傾げながら訊いた。全員が首をぶんぶんと横に振る。
「カケル様、同じではございませんし、ご婦人をお呼びになる場合は、おばさま が正しゅうございます。もう少しお年を召された方の場合には おばあさまです。境目がわからない場合は、おばさまで間違いありません。いいですか? ババァ、なる言葉はこの世には存在しない、と心得て間違いはございませんよ」
鬼気迫る表情でイークレスが説明するのを、カケルは首を縦に振りながら真面目に聞いていた。
「それはともかく、その、ミユキさんってのはなんなんだ?」
誰も答えられる者はおらず、キャサリンが口を開いた。
「どこから来た何者なのかは知らぬが、もしミユキが来てくれなんだら、ここにいる全員が塵となって消えていたのは間違いないのぅ」
「う……」
「そうですね……。私もミユキ様がいらっしゃらなかったら、瘴気の中で魔力が尽き、すでに死んでいたでしょうね」
心配げに見上げるこゆみを優しく見つめながらイークレスが微笑む。二百年後に愛する人と再び見つめあえる奇跡を起こしてくれたのだから、ミユキが何者だろうと彼には関係ないことなのだった。ふと、イークレスは思った。
彼らが石にされてから二百年もの時が流れたことを、彼らに伝えただろうか、と。
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