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背の高い男の胡散臭い笑みを浮かべた顔と肩に乗る赤い竜?に見入っているうちに、その後ろには図体のでかい男たちがどすどすと音を立てながら次々と着地していた。窓の外におびただしい数の竜が飛んでいく姿が見える。
そして入ってきた男たちの中に、三人の黒目黒髪の少年が混じっていることにロンブスは気づいてしまった。
「ゆ……勇者様?」
「「「「「「「はい?」」」」」」」
「………」
ほぼ全員からの返事を受け、絶句するロンブスである。
「勇者様?」
サルモーが首を傾げて呟くと、たれ目の、腕が丸太のように太いおじさんが素早く寄っていった。
何かを言いたげだが、無言である。最初に入ってきた背の高い男がたれ目の肩に手を乗せて言った。
「夏光、とにかくミユキさんを探して元に戻してもらおう。怪しすぎる」
「そだね。これじゃあぶないおじさんだもんね」
「うんうん、怖いよきっと。その腕太すぎだし」
最強のハリウッドスターに大変失礼な夏光と怜美であった。
「じゃあみんな! 今年の勇者を見つけたらここに引っ張ってくることにしよう! でもコウスケさんとキャサリンさんはここで待機ね!」
「あいわかった」
「キュー」
「了解」
「りょーかい」
「わかった」
口々に返事をして、ドアから出て行くごつい面々の中、黒髪の勇者の一人がサルモーの前に立ち止まり、じっと顔をのぞき込んだ。
「あ……あの?」
「え、あ、あの……君、一昨日いた? その、召喚っていうのかな、あのとき」
「は、はい! 参加させていただきました。あっ!」
頬を少し染めたサルモーが、勇者の手を両手で取りそっと何かを握らせる。
「これ……その、贈り物です。お、ボク、感謝してます」
「う、あ、ありがとう……」
「笹神、行くよ」
そのやりとりを生温い目で見ていた秋月がドアの前で言うと、柿崎が興味津々といった顔で見ている。
「お、おう。ありがと! 俺、笹神っていうんだけど、君、名前教えてくれる?」
「ボク、サルモーっていいます。魔法学園の学生で、明日からよろしくお願いします!」
満面の笑みを浮かべたサルモーに、くらりときた笹神であった。
「ほら! 早く!」
「わかってるって……。またね」
名残惜しそうに去っていく笹神を見ながらサルモー以外の少年たちは思った。
(……勇者様、チョロくね?)
「やばいよやばいよ」
「なにが?」
「あのコたち、チョー美少年じゃない?」
「え、ああ……」
「ピンクブロンドなんて2次元でしか似合う子はいないって思ってたけど……」
小走りで太い腕でぐっと握り拳を作る様はアレでしかないのに、頭の中はお花畑なんだろうなぁと怜美は半目で思った。そして廊下を見て呟いた。……半年前と変わっていないじゃん。
「ヤバ……俺、惚れたかもしんない」
「え?」
笹神のつぶやきに柿崎が目を見開く。
「サルモーちゃん、何歳なんだろう。ボクっ娘って今まで駄目だったけど、あれは使うコによるんだなぁ」
「え……でも、ボクって……男じゃないの?」
「え、ばか! あんなかわいいのに、女の子に決まってんじゃん! 細いし、小さいし、華奢だし! 髪ピンクだし!」
「……いや、髪ピンクは関係ないでしょ。そういや何もらったの?」
「え、なんだろ」
無意識に握りしめていた手を開くと小さな黒い瓶があった。蓋を回すと何かの液体が入っているようだ。鼻を近づけて嗅いでみる。
「………?」
「ちょっと貸して、ってこれ、醤油?」
「え? 俺も俺も……あ、これ、しょっぱ」
「なんで醤油?」
「さぁ?」
けれど、ちょっと嘗めた柿崎は嬉しそうに笑った。たった二日間なのに、と思う。しばらく廊下を歩き広間に出たとき、勇者たちは異変に気がついた。自然と足が止まる。
「なに、これ」
静まりかえっている。というか、城内の人間は、皆倒れていた。怜美が慌てて近くの侍女だか貴族令嬢だかに駆け寄り仰向けにした。
「寝てるの? これ」
それぞれテーブルや椅子の脇に倒れている騎士やら誰やこれやひっくり返して確かめたが、全員眠っているようだ。皆、頬はバラ色だし、血色がよく、口元に笑みを浮かべ幸せそうに寝息を立てている。
「眠らせたの……ミユキさんッ?!」
「はい~」
遠くに姿を見つけて叫ぶと、ミユキが振り返り、返事をして駆けてきた。母親より年上のはずなのに、あの走りっぷりだ。確実に怜美より早いだろう。
「何してんですか? これ、ミユキさんが?」
「あ、ええ、まぁ。最初は避けながら進んでたんですけど、突然背後に回る人がいて、面倒になって……いい夢をみてもらってます。あ、でも今度は、お城の中であの部屋以外の人限定で眠ってもらったんで大丈夫ですよ。ギルドはいかがでしたか?」
「あの部屋ってコウスケさん達の部屋ね。どーもこーも、ギルドで今年の勇者のコたちとばったり会って連れてきたけど! 三人クリアね!」
「おお! 実は私のほうは誰にも会っていなくて……」
「それよりミユキさん、元に戻してくださいよ~。これだと逆に怪しい感じで声もかけられない……」
「え! 俺結構これ気にいってんだけど、帰るまでこれじゃだめかな」
「いや、日本人の方が攻撃されないんじゃないの?」
「いやいやでも、さっき連れて行かれそうになってたじゃん」
「今年の勇者が驚くんじゃね?」
「いやいや逆にすぐわかるって……」
「はい! もう外に行かないなら、戻しますね~! みんな一緒に、ラ○パスラ○パスル○ルル~~~~」
「「「「えええええ!?」」」」
そして勇者たちは、元の姿に戻った。
そして入ってきた男たちの中に、三人の黒目黒髪の少年が混じっていることにロンブスは気づいてしまった。
「ゆ……勇者様?」
「「「「「「「はい?」」」」」」」
「………」
ほぼ全員からの返事を受け、絶句するロンブスである。
「勇者様?」
サルモーが首を傾げて呟くと、たれ目の、腕が丸太のように太いおじさんが素早く寄っていった。
何かを言いたげだが、無言である。最初に入ってきた背の高い男がたれ目の肩に手を乗せて言った。
「夏光、とにかくミユキさんを探して元に戻してもらおう。怪しすぎる」
「そだね。これじゃあぶないおじさんだもんね」
「うんうん、怖いよきっと。その腕太すぎだし」
最強のハリウッドスターに大変失礼な夏光と怜美であった。
「じゃあみんな! 今年の勇者を見つけたらここに引っ張ってくることにしよう! でもコウスケさんとキャサリンさんはここで待機ね!」
「あいわかった」
「キュー」
「了解」
「りょーかい」
「わかった」
口々に返事をして、ドアから出て行くごつい面々の中、黒髪の勇者の一人がサルモーの前に立ち止まり、じっと顔をのぞき込んだ。
「あ……あの?」
「え、あ、あの……君、一昨日いた? その、召喚っていうのかな、あのとき」
「は、はい! 参加させていただきました。あっ!」
頬を少し染めたサルモーが、勇者の手を両手で取りそっと何かを握らせる。
「これ……その、贈り物です。お、ボク、感謝してます」
「う、あ、ありがとう……」
「笹神、行くよ」
そのやりとりを生温い目で見ていた秋月がドアの前で言うと、柿崎が興味津々といった顔で見ている。
「お、おう。ありがと! 俺、笹神っていうんだけど、君、名前教えてくれる?」
「ボク、サルモーっていいます。魔法学園の学生で、明日からよろしくお願いします!」
満面の笑みを浮かべたサルモーに、くらりときた笹神であった。
「ほら! 早く!」
「わかってるって……。またね」
名残惜しそうに去っていく笹神を見ながらサルモー以外の少年たちは思った。
(……勇者様、チョロくね?)
「やばいよやばいよ」
「なにが?」
「あのコたち、チョー美少年じゃない?」
「え、ああ……」
「ピンクブロンドなんて2次元でしか似合う子はいないって思ってたけど……」
小走りで太い腕でぐっと握り拳を作る様はアレでしかないのに、頭の中はお花畑なんだろうなぁと怜美は半目で思った。そして廊下を見て呟いた。……半年前と変わっていないじゃん。
「ヤバ……俺、惚れたかもしんない」
「え?」
笹神のつぶやきに柿崎が目を見開く。
「サルモーちゃん、何歳なんだろう。ボクっ娘って今まで駄目だったけど、あれは使うコによるんだなぁ」
「え……でも、ボクって……男じゃないの?」
「え、ばか! あんなかわいいのに、女の子に決まってんじゃん! 細いし、小さいし、華奢だし! 髪ピンクだし!」
「……いや、髪ピンクは関係ないでしょ。そういや何もらったの?」
「え、なんだろ」
無意識に握りしめていた手を開くと小さな黒い瓶があった。蓋を回すと何かの液体が入っているようだ。鼻を近づけて嗅いでみる。
「………?」
「ちょっと貸して、ってこれ、醤油?」
「え? 俺も俺も……あ、これ、しょっぱ」
「なんで醤油?」
「さぁ?」
けれど、ちょっと嘗めた柿崎は嬉しそうに笑った。たった二日間なのに、と思う。しばらく廊下を歩き広間に出たとき、勇者たちは異変に気がついた。自然と足が止まる。
「なに、これ」
静まりかえっている。というか、城内の人間は、皆倒れていた。怜美が慌てて近くの侍女だか貴族令嬢だかに駆け寄り仰向けにした。
「寝てるの? これ」
それぞれテーブルや椅子の脇に倒れている騎士やら誰やこれやひっくり返して確かめたが、全員眠っているようだ。皆、頬はバラ色だし、血色がよく、口元に笑みを浮かべ幸せそうに寝息を立てている。
「眠らせたの……ミユキさんッ?!」
「はい~」
遠くに姿を見つけて叫ぶと、ミユキが振り返り、返事をして駆けてきた。母親より年上のはずなのに、あの走りっぷりだ。確実に怜美より早いだろう。
「何してんですか? これ、ミユキさんが?」
「あ、ええ、まぁ。最初は避けながら進んでたんですけど、突然背後に回る人がいて、面倒になって……いい夢をみてもらってます。あ、でも今度は、お城の中であの部屋以外の人限定で眠ってもらったんで大丈夫ですよ。ギルドはいかがでしたか?」
「あの部屋ってコウスケさん達の部屋ね。どーもこーも、ギルドで今年の勇者のコたちとばったり会って連れてきたけど! 三人クリアね!」
「おお! 実は私のほうは誰にも会っていなくて……」
「それよりミユキさん、元に戻してくださいよ~。これだと逆に怪しい感じで声もかけられない……」
「え! 俺結構これ気にいってんだけど、帰るまでこれじゃだめかな」
「いや、日本人の方が攻撃されないんじゃないの?」
「いやいやでも、さっき連れて行かれそうになってたじゃん」
「今年の勇者が驚くんじゃね?」
「いやいや逆にすぐわかるって……」
「はい! もう外に行かないなら、戻しますね~! みんな一緒に、ラ○パスラ○パスル○ルル~~~~」
「「「「えええええ!?」」」」
そして勇者たちは、元の姿に戻った。
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