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「それで、皆の魔力がなくなったんですか?」
絶対に信じていない目をしてロンブスがため息を吐いた。
まぁ、荒唐無稽な話だろうから信じないのも無理はないし、そしてなによりミユキは説明が下手くそであった。もともとドラマのあらすじの説明などうまく伝わったためしがないのである。
曰く、朝、この街から出たらアミアくんの村に飛ばされて、近くの森へ移動したら黒い靄が出てきていたのでその穴に飛び込んだところコウスケさんに会って、黒い靄の元を消したらあと二カ所同じようなところがあるというので、そこでも同じことをしてきた。で、そのときのおまじないで皆さんから少し魔力をお借りしたところ借りすぎてしまったようだが、黒い靄が消えたので勇者さん達もお役ご免かなと思い迎えに来た。
と言ってみたのだが……冒頭に戻る、なのであった。
「そもそも勇者様には邪悪な竜の封印のために来ていただいたんですから勝手に連れて行かれるのは……難しいのでは? それに、どうやって他人の魔力を借りたり出来るんです?」
「それなんだよね~~~~~」
ミユキがため息を吐く番だった。おらに力を貸してくれ!ってのはこっちじゃ通じなさそうだ。そもそも借りてなくてもらった(奪った)感じだし。
「……それに、アミアの村に飛ばされたって……?」
「え? ほんと? ミユキさん、みんな元気だった?」
思い出したように呟くロンブスの横からアミアが紅い瞳を輝かせて聞いてくる。
「え? うん。お父さんもお母さんもお元気でした。手紙もちゃんと渡したし、村の人達も、あ、カローさんも元気だったよ」
「カローのおじさんも?」
「うんうん、オークの捌き方を教えてもらったからね」
「へえ! オークが獲れたんだ! おじいちゃんに聞いたことがあるけど、おいしかった?」
「うんうん、おいしいよ。そのうち……
「……ホントに行ったの……? どうやって……? あぁ、でもあの回復魔法?も異空間収納?もできるんだし、何でもできちゃうんだろうなぁ……」
二人の会話を聞いていたロンブスが遠い目をしている。
「でもまぁ、そんなこんなでとりあえず大丈夫になったので、というか勇者さん達が行く場所もなくなっちゃったからもう帰ってもいいかなと思って。では、探してお話ししてきます~」
「えっ? ちょっとま……」
扉に向かうミユキを止めようとしたロンブスの前にコウスケが立ちはだかった。その隙にさっさと扉を開けてミユキが出て行くのを確かめてから、口を開く。
「少年よ」
「はい?」
「どうにもミユキ殿の話には抜けた部分が多すぎるようだ」
「はい?」
「某が、そなたらのいうじゃあくな竜らしい。あとふたりいる」
「え?」
白銀の髪を揺らした美太夫が紫の瞳を細めながら唇の端を小さく上げた。
いつの間にか、サルモー達もロンブスの脇に立っていて、コウスケの言葉に首を傾げている。
「我らは二百年、闇の中で勇者殿を待ち続けていてなぁ、もう力尽きるところであったのだがな」
片手で抱えているふたばの耳の付け根を撫でながら、コウスケは笑んだ。
「そなた達がミユキ殿を喚んでくれたのだな。礼を言う」
頭を下げられ、戸惑う少年達に気づいたのか、コウスケは笑みを更に深めた。
「ああ、わからぬか。某はじゃあくな竜で……」
少年達から少し離れたコウスケが、かたちを変えていく。生きたものが目の前でかたちを変えていくのである。正直言ってグロい。そして銀色に薄く輝くそれが、息を飲んで目を見開き言葉も出ない少年達を、澄んだ紫色の瞳に映す。
「ひ……」
「り……りゅ……?」
信じられないものを目の前にして、パニックになりそうな少年達だったが、その手前でとどまることができたのは、白銀の竜の頭の上に立つ偉そうなビーグル犬のおかげだったのかもしれない。
「あ……うぅ」
それでも、言葉が出てこない。
一度瞬きをした竜が翼を小さく震わせると、部屋中の窓ガラスが格子ごとガタガタと音を立て始めた。
「え……」
翼を震わせながら、窓を確認した竜は大きな口をまるで嗤うように歪める。
「ま、まさか……や……」
我に返ったロンブスが止めようとしたが、竜の翼は大きく広がり、一度揺れた。
一瞬ののち、派手な音を立てて全ての窓ガラスが外へと砕け散り、竜は更にもう一度、翼を揺らした。
砕けたガラスが粉々になり、細かな光の粒となってきらきらと舞っている。そしてそれは一粒も残さずに、床に落ちる前に、静かに消えていった。呆気にとられていた少年たちが気がついたときには、彼は白銀の髪の男に戻っていた。
「まあ、だいぶ違うものだが、某はこのようにして瘴気を中和しておったのだ」
「瘴気?」
「うむ。この世界に三箇所、瘴気の湧く地があって……」
突然コウスケの視線がガラスのない窓のひとつに向き、つられてそちらを目で追った少年たちが息を呑む。窓の外から、竜に跨った男が部屋の中を覗き込んでいた。その肩には真っ赤な何かが乗せてあって、ロンブスの脳裏に嫌な予感がよぎった。そのかたちは、小さいとはいえさっき見たばかりのものにそっくりだからだ。男が口を開く。
「あれ、コウスケさん、ミユキさんは?」
「ミユキ殿は勇者殿を探しに行かれた」
「……ひとりで? ……ってそうだよね。ミユキさんはひとりでいくよね~。ああ、ここから入らせてもらおうか。屋上なかったし。夏光──! ここから入るよ──!」
その姿にそぐわない口調の男は、ガラスのなくなった窓枠に手のひらを向けたかと思うと一度下を見て、にやりと笑った。
「それっ!」
何をしたのか、ロンブスの考えが追いつく前に黒こげになった窓枠が下へと落ちていき、砕け散る乾いた音が小さく耳に届いた。
「……魔法?」
竜の背から軽々と部屋に飛び込んできた男は、乗せてきた竜になにやら話しかけると部屋にいる面々に笑顔を向ける。その笑顔は、──なんだかとても胡散臭かった。
絶対に信じていない目をしてロンブスがため息を吐いた。
まぁ、荒唐無稽な話だろうから信じないのも無理はないし、そしてなによりミユキは説明が下手くそであった。もともとドラマのあらすじの説明などうまく伝わったためしがないのである。
曰く、朝、この街から出たらアミアくんの村に飛ばされて、近くの森へ移動したら黒い靄が出てきていたのでその穴に飛び込んだところコウスケさんに会って、黒い靄の元を消したらあと二カ所同じようなところがあるというので、そこでも同じことをしてきた。で、そのときのおまじないで皆さんから少し魔力をお借りしたところ借りすぎてしまったようだが、黒い靄が消えたので勇者さん達もお役ご免かなと思い迎えに来た。
と言ってみたのだが……冒頭に戻る、なのであった。
「そもそも勇者様には邪悪な竜の封印のために来ていただいたんですから勝手に連れて行かれるのは……難しいのでは? それに、どうやって他人の魔力を借りたり出来るんです?」
「それなんだよね~~~~~」
ミユキがため息を吐く番だった。おらに力を貸してくれ!ってのはこっちじゃ通じなさそうだ。そもそも借りてなくてもらった(奪った)感じだし。
「……それに、アミアの村に飛ばされたって……?」
「え? ほんと? ミユキさん、みんな元気だった?」
思い出したように呟くロンブスの横からアミアが紅い瞳を輝かせて聞いてくる。
「え? うん。お父さんもお母さんもお元気でした。手紙もちゃんと渡したし、村の人達も、あ、カローさんも元気だったよ」
「カローのおじさんも?」
「うんうん、オークの捌き方を教えてもらったからね」
「へえ! オークが獲れたんだ! おじいちゃんに聞いたことがあるけど、おいしかった?」
「うんうん、おいしいよ。そのうち……
「……ホントに行ったの……? どうやって……? あぁ、でもあの回復魔法?も異空間収納?もできるんだし、何でもできちゃうんだろうなぁ……」
二人の会話を聞いていたロンブスが遠い目をしている。
「でもまぁ、そんなこんなでとりあえず大丈夫になったので、というか勇者さん達が行く場所もなくなっちゃったからもう帰ってもいいかなと思って。では、探してお話ししてきます~」
「えっ? ちょっとま……」
扉に向かうミユキを止めようとしたロンブスの前にコウスケが立ちはだかった。その隙にさっさと扉を開けてミユキが出て行くのを確かめてから、口を開く。
「少年よ」
「はい?」
「どうにもミユキ殿の話には抜けた部分が多すぎるようだ」
「はい?」
「某が、そなたらのいうじゃあくな竜らしい。あとふたりいる」
「え?」
白銀の髪を揺らした美太夫が紫の瞳を細めながら唇の端を小さく上げた。
いつの間にか、サルモー達もロンブスの脇に立っていて、コウスケの言葉に首を傾げている。
「我らは二百年、闇の中で勇者殿を待ち続けていてなぁ、もう力尽きるところであったのだがな」
片手で抱えているふたばの耳の付け根を撫でながら、コウスケは笑んだ。
「そなた達がミユキ殿を喚んでくれたのだな。礼を言う」
頭を下げられ、戸惑う少年達に気づいたのか、コウスケは笑みを更に深めた。
「ああ、わからぬか。某はじゃあくな竜で……」
少年達から少し離れたコウスケが、かたちを変えていく。生きたものが目の前でかたちを変えていくのである。正直言ってグロい。そして銀色に薄く輝くそれが、息を飲んで目を見開き言葉も出ない少年達を、澄んだ紫色の瞳に映す。
「ひ……」
「り……りゅ……?」
信じられないものを目の前にして、パニックになりそうな少年達だったが、その手前でとどまることができたのは、白銀の竜の頭の上に立つ偉そうなビーグル犬のおかげだったのかもしれない。
「あ……うぅ」
それでも、言葉が出てこない。
一度瞬きをした竜が翼を小さく震わせると、部屋中の窓ガラスが格子ごとガタガタと音を立て始めた。
「え……」
翼を震わせながら、窓を確認した竜は大きな口をまるで嗤うように歪める。
「ま、まさか……や……」
我に返ったロンブスが止めようとしたが、竜の翼は大きく広がり、一度揺れた。
一瞬ののち、派手な音を立てて全ての窓ガラスが外へと砕け散り、竜は更にもう一度、翼を揺らした。
砕けたガラスが粉々になり、細かな光の粒となってきらきらと舞っている。そしてそれは一粒も残さずに、床に落ちる前に、静かに消えていった。呆気にとられていた少年たちが気がついたときには、彼は白銀の髪の男に戻っていた。
「まあ、だいぶ違うものだが、某はこのようにして瘴気を中和しておったのだ」
「瘴気?」
「うむ。この世界に三箇所、瘴気の湧く地があって……」
突然コウスケの視線がガラスのない窓のひとつに向き、つられてそちらを目で追った少年たちが息を呑む。窓の外から、竜に跨った男が部屋の中を覗き込んでいた。その肩には真っ赤な何かが乗せてあって、ロンブスの脳裏に嫌な予感がよぎった。そのかたちは、小さいとはいえさっき見たばかりのものにそっくりだからだ。男が口を開く。
「あれ、コウスケさん、ミユキさんは?」
「ミユキ殿は勇者殿を探しに行かれた」
「……ひとりで? ……ってそうだよね。ミユキさんはひとりでいくよね~。ああ、ここから入らせてもらおうか。屋上なかったし。夏光──! ここから入るよ──!」
その姿にそぐわない口調の男は、ガラスのなくなった窓枠に手のひらを向けたかと思うと一度下を見て、にやりと笑った。
「それっ!」
何をしたのか、ロンブスの考えが追いつく前に黒こげになった窓枠が下へと落ちていき、砕け散る乾いた音が小さく耳に届いた。
「……魔法?」
竜の背から軽々と部屋に飛び込んできた男は、乗せてきた竜になにやら話しかけると部屋にいる面々に笑顔を向ける。その笑顔は、──なんだかとても胡散臭かった。
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